私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション44『蚊帳(かや)』
セレクション44『蚊帳(かや)』
僕と従兄弟達が近所のお寺からラジオ体操を終えて戻ってくると、おばあちゃんが僕達の寝ていた部屋で蚊帳を畳んでいるところだった。
僕はいつもニコニコしているおばあちゃんが好きなので、縁側に座っておばあちゃんが畳んでいるのを見ている事にした。
おばあちゃんは僕をちらりと見て微笑むと、ちょこんと座ったままで、落ち着いた調子で畳み続けている。
「おばあちゃん、」
僕は何となく思いついて、おばあちゃんに声をかける。
「ん?なあに?」
おばあちゃんは蚊帳に目を向けたまま、僕に応える。
「おばあちゃんって、綺麗だね」
僕が思ったままの事を言うと、おばあちゃんは手を止めて、驚いたように目を見開いて僕を見つめた。
「あらあら、」
おばあちゃんが口を開く。
「どうしてそう思ったの?」
おばあちゃんに聞かれ、僕は何でだろう、と考える。
「うーん、そんな畳むのが大変そうなものを、ちゃんと座ってぱっぱっと畳んでいたから、かなあ」
僕の答えに、おばあちゃんは更に目を見開いた。
その目には涙が溜まっている。
「どうしたのおばあちゃん!僕、何か悪い事言った?!」
僕が慌てて言うと、おばあちゃんは微笑みながら小さく頭を振る。
「違うのよ。あなたがおじいちゃんとおんなじ事を言ったから、うれしかったのよ」
おばあちゃんはそう言って僕に近寄ると、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
僕は何だか良く解らないまま、おばあちゃんのいい匂いに包まれて、ちょっとだけ幸せだった。
(600文字)
『蚊帳(かーや)』
夏の夜、蚊や害虫を防ぐため、四隅をつって寝床を覆う道具。麻・木綿などで粗く織って作る。かちょう。《季 夏》
「―つるや晦日(みそか)の宵の更けにけり/万太郎」
(大辞林より引用)
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