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私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション35『価値(かち)』



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セレクション35『価値(かち)』


                                                                                                       

「ねぇせんせ、聞いていい?」
「はいはい、良いですよ」
「あのね、今日授業でお金の話したの」
「ああ、高木先生の算数ね。難しかったの?」
「ううん、高木せんせの授業はよくわかったの。だけどわかんない事があって、せんせになら聞けるかな、って」
「あら。私?光栄ね。どんな質問かな?」
「高木せんせは、色んなものに値札が付いてるんだよ、って言ってたんだけど、人間には付いてないの」
「ああ、付いてないわよね」
「どうして?人間って店で売れないくらい安いの?」
「ううん、そんな事は無いわよ」
「でも、ニュースとかドラマとか観てたら、人間っていつも、大安売りの大根みたいに殺されてるよ?」
「まあ、確かにそうね」
「人間が店で売れないくらい高いものだったら、みんな大切にすると思うの」
「大切に……そうね」
「だから、人間ってタダなのかな、って思ったの」
「なるほど、浜田さんは凄いね。見た事をただ覚えてるだけでも凄いのにね」
「へへ」
「で、先生の答えですが」
「はい」
「人の価値……値段って言うのはね、自分自身でしか付けられないのよ」
「自分自身?」
「そう。例えば浜田さんが『私は誰も買えないくらい高いの』って決めたら、他の人が何て言おうと浜田さんの値段は高いの」
「そうなの?!」
「そうよ。だけど、周りのお友達に『私たちはみんなが気軽に買えるくらい安いの。浜田さんは高いから私たちと違うね』って言われたら、浜田さんはどう思う?サイテーだと思う?」
「うーん、悲しくなる」
「ならどうする?自分の値段を下げる?」
「……わかんない」
「そう、それが今のあなたにとっての正解なの」
「そなの?!」
「そう。これから大きくなって、おばあちゃんになるまでずっと、あなたは自分の値段をいっぱい上げ下げすることになるの」
「じゃあせんせも?」
「そうよ。出来るだけ下げないようにはしてきたつもりだけどね」
「じゃあ、ニュースの死んじゃった人達は?」
「テロや戦争や震災以外はみんな、その上げ下げが上手くできなかったのよ」
「地震の人達は違うの?」
「もちろん。人間はね、地球から見たらアリよりも小さい生き物だもの。私たちの値段なんて気にしないわ」
「そっか。わかんないけど、わかった!」
「うん、先生も、解ってくれて良かった」
「ありがとう、せんせ!せんせは高いと思うよ」
「はいはい、廊下は走らないでね」
「うん!バイバイ」
「はい、さようなら」


(980文字)


『価値(かーち)』
 1 その事物がどのくらい役に立つかの度合い。値打ち。「読む―のある本」「―のある一勝」
 2 経済学で、商品が持つ交換価値の本質とされるもの。→価値学説
 3 哲学で、あらゆる個人・社会を通じて常に承認されるべき絶対性をもった性質。真・善・美など。

(大辞林より引用)

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