私的国語辞典_表紙絵2

私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション91『琴(こと)』

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作者駐:
 『私的国語辞典』は、基本的には全文無料で閲覧が可能です。ただ、これらは基本『例文』となっておりますので、そのほとんどが未完となっています。
 基本的にそれらの『例文』は続きを書かないつもりではおりますが、もしどうしても続きが気になる方は、投げ銭して戴ければ有料部分に続きを執筆いたしますので、よろしくお願いいたします。
セレクション91『琴(こと)』(398文字)


――ふと。

 遠くから聴こえて来るぺん、ともぴん、とも取れる、張り詰めた弦の響きに目を覚ます。 
ストーブを消した室内はまるですべてが凍り付いたように冷たく張り詰めていて、唯一布団の中だけがほっこりと柔らかな温もりに包まれているように感じ、つられて私の意識もぼんやりと薄れていく。 


――べん。 


今度はさっきよりも力強い響きが断続的に耳に飛び込んでくる。 
まるで耳元で琴をつまびかれているような強烈な響きが、私の落ちていこうとする意識を力強く引っ張り上げようとする。 

とうとう根負けした私は右手をするり、と出して、手探りで目覚ましを手に取って見る。時計は午前3時過ぎを差していた。 

「……まったくもう」 

私は時計を戻すと、目を擦りながら窓を見る。 
すると、閉めきったはずの窓のカーテンが、まるで私の言葉に応えるかのようにひらり、と揺れた。 

私は仕方ないな、と苦笑しつつ、カーテンに向かって声をかけた。 


「おはよう、お母さん」 


(398文字) 

『琴(こーと)』
 1 箏(そう)のこと。箏が流行弦楽器となった江戸時代以後、特にいわれる。近年は「琴」の字を当てて、箏を表すことも多い。
 2 日本で、弦楽器の総称。「琴」の字を当てたが、のち「箏」の字も用いた。琴(きん)・箏(そう)・和琴(わごん)・百済琴(くだらごと)・新羅琴(しらぎごと)などのすべてをさす。

(大辞林より引用)

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