私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション103『柵(さく)』
作者駐:
『私的国語辞典』は全文無料で閲覧が可能です。ただ、これらは基本『例文』となっておりますので、そのほとんどが未完となっています。
基本的にそれらの『例文』は続きを書かないつもりではおりますが、もしどうしても続きが気になる方は、投げ銭して戴ければ有料部分に続きを執筆いたしますので、よろしくお願いいたします。
セレクション103『柵(さく)』(410文字)
一目惚れ、だった。
日曜日の昼下がり、子供と一緒にのんびりとひなたぼっこをしていると、柵の向こうの通りからこちらを熱い眼差しで見つめている男性が居て。
普段そんな眼差しには馴れていたはずの私だけど、何となく見てしまい、
そしてカレから目が離せなくなったのだ。
カレもそんな私に気づいたのか、嬉しそうに手を振ってくれる。
カレは悪戯っ子のような目で私を見つめながら、なんと柵に手をかけて乗り越えようとし始めた。
『ダメ。私と貴方では、住んでる世界が違うの』
そうたしなめたくても、言葉が出ない私は、ただオロオロと子供の回りを歩き回るだけしか出来ない。
その間にもカレは鉄柵に身体を預けるように乗り上げ、片足をくい、と上げていく。
どうしよう。
今は子供も居るのだ。
カレがこちらに来たら、私はどうしようもない。
パニックになりかけたその時。
カレの隣に立っていた大きな女性がカレの様子に気づき、慌ててカレをひょい、と抱き上げた。
「たっくん、ダメよ!ヤギさんたちびっくりしてるでしょ?」
後で『ふれあいコーナー』行くから我慢してね、という女性の言葉に、たっくんと呼ばれた小さなカレは、はあい、と残念そうに答え、
二人は楽しそうに手を繋ぎながら私たちの居る『ヤギ園』から立ち去って行った。
(526文字)
『柵(さーく)』
1 丸太などを間隔を置いて立て、それに横木を渡してつくった囲い。「―を巡らす」
2 木を立て並べてつくった小規模の防壁。とりで。
(大辞林より引用)
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