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私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション68『雲(くも)』


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セレクション68『雲(くも)』(568文字)


                                                                                                      

僕は、雲だ。 
僕を生んでくれたのは、水と風と太陽だ。 
どうして僕が生まれたのかは、知らないし、興味もない。 
だって、雲だもの。 

僕は、雲だ。 
雲だから、空に浮かんでいる。 
快晴の真っ青な空。 
真っ赤な夕焼けの空。 
星の瞬く空。 
どんな空の下でも、僕は浮かんでいる。 

風に流されて、 
流されて、 
流されて、 
流されて、 
流されて、浮かんでいる。 

そんなに流されていて良いのか、と言われても、知るわけがない。 
だって、雲だもの。 

僕は、雲だ。 
雲だから、風のけんかに巻き込まれる。 
冷たい風と、 
暖かい風。 
山を駆け下りる風と、 
山を駆け上る風。 
おっきなぐるぐる回る風にも、 
巻き込まれる。 
そんなに巻き込まれて、 
ケガをしないのか、 
と言われても、するわけがない。 
だって、雲だもの。 

僕は、雲だ。 
ふと下を見ると、 
ごちゃごちゃしたものが、 
ごちゃごちゃと動いている。 
ごちゃごちゃ。 
ごちゃごちゃ。 
ごちゃごちゃ。 
見てると、何だかめんどくさい。 

だから僕は、海が好きだ。 
水しかない。 
すっきり。 
気持ちいい。 
時々何か浮かんでるけど、気にしない。 
だって、雲だもの。 

僕は、雲だ。 
僕は白くなったり、 
灰色になったり、 
黒くなったり、 
ぴかぴか光ったりする。 

でも、僕は僕だ。 
どんな僕でも、僕は僕だ。 

流されて、 
巻き込まれて、 
すっきりしたくて、 
いろいろ変わるけど、 

僕は、僕だ。 

だって、雲だもの。 

なんか、文句ある? 

(568文字) 

『雲(くーも)』
 1 空気中の水分が凝結して、微細な水滴や氷晶の群れとなり、空中に浮かんでいるもの。高度や形状によって種類を分ける。→雲級
 2
  ㋐確かでない形・行動・所在などのたとえ。→雲を掴(つか)む
  ㋑きわめて高い所や遠い場所、また、そうした地位・身分のたとえ。「―の上の人」
  ㋒一面にたなびいたり、広がってかすんだりしているもののたとえ。「花の―」
  ㋓すっきりしない気持ち・表情などのたとえ。
   「身をさらぬ心の月に―はれていつかまことのかげも見るべき」〈新後撰・釈教〉
  ㋔火葬の煙のたとえ。
   「あはれ君いかなる野辺の煙にて空しき空の―となりけむ」〈新古今・哀傷〉
 3 紋所の名。浮雲をかたどったもの。

(大辞林より引用)

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