22.かくれんぼいちご
私は女性にしては食べるスピードが速いらしいけれど、子どもの頃は食べるのが鈍くていつも叱られていた。
叱られていても、読んだ本の中に「よくかんで食べよう」なんて書かれていれば素直に実践もしていた。
幼い頃の私は、全てにおいてのんびりしていた。
本来、のんびり屋が私の本質なんだと思う。
親にしてみれば、ギリギリまで起きなくて、身支度も遅くて、食べるのも遅い。
幼稚園や学校が、家から割と近くにあったとはいえ、昔はどんなに遠くても子どもは歩いて通うのが当たり前だったから、その時間も考慮して家から送り出さねばならない。
母からは毎朝叱られた。
「早くしなさい!」
朝ごはんをモグモグのんびり噛んでいれば、父からはこう言われる。
「そんなにのろのろ食ってたら、口の中でクソになっちまうよ!」
そう言われると、弟達と笑っちゃって余計食べるのが遅くなるんだけど。
ある日、夕ご飯のデザートでいちごが出た。
いちごは私の大好物であると同時に、家族みんな大好物だから、スピード勝負の争奪戦になる。
「ご飯をちゃんと食べてからじゃないと、いちごは食べちゃダメ」
そう言われて、一生懸命夕ご飯を食べるが、どうやったって父や弟①には勝てない。
小さな弟②に至っては、ご飯を食べずにいちごに手を出しても「まだ、ちいさいんだから」と叱られない。
私は焦った。
焦ったからとて、食べるスピードは早まらない。
ようやく食べ終えた時は、無常にもいちごの皿は空っぽになっていた。
空っぽになったいちごの皿を見た瞬間、私は涙が溢れておいおい泣いた。
いちごが私の大好物なのは、パパもママも知ってるはずなのに、弟①は食べ切ってるけれど、弟②はご飯の途中で食べるなんてずるい。
どうせ食べるのが遅い私だけ、いちごが食べられない仲間外れなんだと思うと余計に悲しくなった。
はたから見たら、たかだかいちごを食べられたというだけのことが、その時の私は家族からの仲間外れにされた疎外感でいっぱいになった。
座卓に突っ伏して大泣きする私の手元に、父が濡れ布巾をよこした。
顔を上げると弟達は食べ終えて、他の部屋に遊びに行ったのかいなかった。
「ほれ!いつまでも泣いてねぇで涙を拭け」
普段なら泣くと激怒する父が、優しく言った。
ベソをかきながら、布巾を手にすると赤いものが見えた。
いちごだった。
私はびっくりして父を見た。
父は笑いながらコソコソ言った。
「みんなが来る前に早く食え。パパとママが取っといたから」
布巾に隠されていたいちごは、少ししょっぱかった。
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