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18.大きな消しゴムと小さな消しゴム

今回は、父ではなくて母の話。

子どもがなくすと困る文房具ナンバーワンは、消しゴムじゃないかと思うけど、どうだろう?
私はよく落としたり、家に忘れたりして苦労する子どもだった。

確か小学校低学年だったと思う。
しょっちゅうなくす私を見兼ねてか、母が通常の5倍はあると思われる大きな消しゴムを買ってきてくれた。
スーパーの文具安売りコーナーにあったんだろう。
確か80円か100円の値札シールが貼ってあった。
レンガ色の消しゴムで、巻いてある紙には、さほどかわいくもないけれど、パンダやウサギのイラストが入っていた。

「これだけ大きければなくさないし、たくさん使えるでしょ♪」

その大きさに弟ととても喜んだ。

しかし…
喜び勇んで使い出した時、困ったことに気付く。

消しにくい。

大きいということは、小さな子どもにとって消すための力を入れにくい。
なおかつ、消しゴム自体が硬くて、書いた文字の痕がくっきり残る。
勉強嫌いな男子の消し方が雑なノートみたいになるのだ。
今ならば、消しゴムハンコに使うなど別の使い道を探して母に説明できるけれど、子どもの私にそれを説明する術はなかった。
いつしか部屋にほっぽって、また、ふつうの消しゴムを使うようになってしまった。

それからしばらく後のこと。

私は家から歩いて5分もかからないような文房具屋さんへ、お小遣いを持って買い物に行った。
その時、店頭の駄菓子の空き箱に無造作に入れられた在庫処分的な佇まいの文房具の中に、小さな小さな消しゴムを見つけた。
黒地にガイコツの柄、一辺が2㎝にも満たないサイコロみたいな消しゴムだった。

「それ気に入った?20円よ」

店のおばさんが言った。
私はお財布に入っている20円で、その消しゴムを買った。
母からもらった消しゴムが、ちょっとだけ頭に浮かんだけれど、普段だったら絶対買いたくないようなガイコツに、その時はなぜか強く惹かれてしまった。
意気揚々と消しゴムを握りしめて帰宅した私に、母が「おかえり、何を買ってきたの?」と聞いてきた。

「あのね、すごい安いね、20円の消しゴム!」

そう答えて、握りしめていた消しゴムを見せたら、母は烈火の如く怒った。

「なんで!せっかくママが大きい消しゴムを買ってあげたばっかりなんに、そんな消しゴム買ってくるん!もう睦菜ちゃんには何も買ってあげない!」

自分がその時、泣いたかどうかも覚えていない。
ただ、とにかくこの小さな20円の消しゴムを買った自分が、大変母を傷つけたことだけは幼心にもわかった。
もうこの消しゴムは、絶対ママには見せていけない。
そう思った。
そして、私はガイコツの消しゴムをちょっとだけ試してから、机の引き出しにしまって、家では大きな消しゴムをまた使い始めた。
ちょっとだけ使ったガイコツの消しゴムは、大きな消しゴムと違って、とてもよく消せた。

結局、大きな消しゴムは「これ消えにくいんだよねぇ」と親に言えるような年齢になってから捨ててしまった。

ガイコツの消しゴムはというと…

どうしたのか全く覚えていない。
もしかしたら、熱り冷めた頃に弟にあげてしまったかもしれないし、途中まで使って捨ててしまったかもしれない。

でも、今でも消しゴムを見ると、あの2つの消しゴムを思い出して、胸がちくんとする。

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