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<音楽の聴き方>

2015年4月Facebook記事の再掲です。
これもほぼ自分用です。改めて読むと思い込みが気恥ずかしいですな笑。

例によってプロミュージシャン、音楽関係者の方はご存じの事ばかりですから、特に読む必要はありません。あくまで個人的な見解ですし、途中で読むのが嫌になるほど長文ですので笑。

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音楽を演りたい方への提案として、今までさんざん「音楽を聴け」と記事にしてきましたが、ここらで僕なりの一つの音楽の聴き方を書いてみます。もちろん聴き方は他にも色んな形が考えられますよ。

嘆かわしい事の一つに、古い音楽を聴いた上での上積みを感じられない若い人が多いというのがあります。
世代の亀裂なのか、今どきの気風なのか、漫然と聴き流しているのか判りませんが、蓄積が出来てない事が多いのです。

僕が真剣に音楽を聴きだしたのは中学生でしたが、当時のヒット曲以外にどこかで古いものを聴く時期が昔の人には必ずありました。
ビートルズの解散がニュースになる1、2年前、小学生の僕は彼らの『オールディーズ』と言うシングル中心のベストアルバムに出会い、散々聴き込みました。
ショックを受けた僕は、その後彼らが影響を受けたとされるミュージシャンを調べました。雑誌を買い込み、ラジオで特集があればかじり付いてDJの方の解説を聞き、図書館まで行って判明した、ルーツミュージシャンのチャック・ベリーやらプレスリーやらを聴いてはブルースだのロックンロールだのを体感しようとしたものです。
聴けば聴くほど子供ながらだんだん色んな事が判ってきました。
音も古いし、なんかダサイ、ただのオールドミュージックでしょ?という姿勢で聴いてはほとんど何も得られませんよ。
あなたが今大好きな(いわゆる)アーティストのルーツを知る事、探る事、研究する事は、音楽を演りたいのならば必ず役に立ちます。必須とも言えます。

音楽を「集中して聴く」「我慢して聴く」「何回も数多く聴き込む」これがまず基本です。
音楽を聴いて好き嫌いは誰でも判断できますよね?
好きだったとしてそこからが重要で、良い部分と、もしあれば良くない部分を判断するべきなのです。
それも分割しつつ聴いて、判断する。
メロディ、歌詞、演奏(Vo含め)は当然です。譜面に起こすとか言う話じゃありませんよ。
さらにアレンジ(楽器構成、イントロ、間奏、後奏の在り方・出来)ソロパート、特徴的なコード進行、各楽器の定位、MIXバランス、音質など。さらにそのミュージシャン・バンドの歴史や今に至る経緯なども情報としてあれば、背景もつかみやすいですね。
さらにそれらがなぜ良いのかを聴きながら考える。「だって好きだから」で終わらせちゃダメなんですよ。出来ればその良さも分析する。
そして納得したらそれらを忘れて、俯瞰してもう一度聴いてみる。
そういった事を繰り返し実践してみましょう。

では一例として、今まさに来日中のポール・マッカートニーが作った誰でも知っている名曲「レット・イット・ビー」を挙げてみます。

僕はミュージシャンではないので、使われているコードやメロディの音符など音楽的な解説は出来ません。
そういった物は検索すれば幾つか出てくるでしょうし、カヴァーや完コピしたい人はそちらもどうぞ。
ここでは聴き手としての感じ方、捉え方、背景となる歴史や音源を作るという行為や成り立ちを中心とします。

「レット・イット・ビー」(Let It Be)は、1970年3月にビートルズが発表した最後のシングル盤となりました。
ポール・マッカートニーは一説によると、この時期のREC最中、ある朝起きてアイデア(ひらめき)が浮かび、ピアノに座り5分でこの曲を作ったと言われています。そして一緒にレコーディングに参加していたキーボーディストのビリー・プレストン(黒人)に「ゴスペルっぽくしたい」と助言を求め、コーラスとオルガンを入れる事にしたそうです。

この「レット・イット・ビー」は世界中で多分数千に及ぶカヴァーヴァージョンが存在する人類の遺産とも言うべき名曲中の名曲です。
しかし個人的にはやはりオリジナルに敵うヴァージョンはまず無いであろうと思うのです。
とはいえオリジナル「レット・イット・ビー」にはシングル盤・アルバム盤はじめ様々なMIX違いのヴァージョンが存在します。
1969年レコーディング当時、最新のアナログMTRは8チャンネルでした。時代はアナログレコードがモノラル録音からHi-Fiステレオへ移行する渦中でした。
オーヴァーダビングはしないという取り決めで「ゲット・バック・セッション」と呼ばれる、この『レット・イット・ビー』アルバムのRECがアップルビルで行われましたが、揉めに揉めていたバンド内の事情で、その時の音源はしばらく放置されました。その後取り決めを破り、幾つかのダビングがアビイ・ロードスタジオで行われ、この曲を含む『レット・イット・ビー』アルバムのMIXはずっとビートルズのプロデューサーとして関わったジョージ・マーティンではなく、奇才フィル・スペクターに託されました。その事情やフィルがどんな人か詳しく知りたい方は、自分でググって下さい。

ここではジョージ・マーティンがMIXしたシングルヴァージョンの内容で取り上げます。

「レット・イット・ビー」はA~A'~サビという非常にシンプルなメロ構成で成り立っています。むろんメロディは音楽教科書にも載るような「天才的」な素晴らしさであり、歌詞と合いまったAメロの朴訥ながら心に響くメロの凄さはもとより、核である「Let It Be~」のサビでのリフレインとそのメロディは、ある意味見事に単純であるが故、最初に思いついたポールだけが永遠の賞賛を得る音楽史上に残る偉業でしょう。

この偉大な名曲は当時のチャンネル不足の事情も併せ、まずステレオに定位されないポールが弾くピアノが、イントロとして左チャンネルから流れ始めます。そしてポールの切なくも力強いVoがセンターから聞こえ初め、ポールとジョージ(+ジョン?)がオーヴァーダビングした白玉のWooコーラスが、一番のサビで最初は左から聞こえ初め、だんだんセンター~右チャンネルへと移動していきます。
そして二番のAから、すこし右からリヴァーヴ成分が左に流れるハイハットが入り、A'からジョン・レノンが弾くベースが入って静かに盛り上がりつつ、リンゴ・スターの特に上手いとは言えませんが味のあるドラムがセンター近辺に、左にオルガン、右にコーラスを加えたサビ(ここらで神懸かったメロだと気付く)を終え、間奏に突入します。
左からビリー・プレストンの弾くオルガンのみが協会チックにゴスペル色を高めたところで、右から少し歪ませレスリースピーカから出されたジョージ・ハリスンの印象的なEGソロが展開され、否が応にも盛り上がっていきます。その後リンゴの印象的なタムワークで味付けされたAメロが繰り返され、全ての楽器・コーラスと低域(チェロとブラスセクション)が右に足されたサビとなって最も盛り上がり、最後におそらくウーリッツァーピアノがセンターに足された後奏で幕を閉じます。
これらはそれぞれ、あまりにもシンプルですが、時代を超えた秀逸なアレンジとMIXと演奏であると言えます。
ぜひアルバムヴァージョンとの違いも聴いてみて下さい。

現在のテクノロジーならば、リミックスにより、例えばピアノなどをステレオに転換するのも簡単でしょうが、なぜそうしないのか考えてみて欲しいのです。

尊敬する山下達郎氏は過去のインタビューでこう述べています。
『詞や曲もありますけど、一番重要なのは編曲なんです。どんなにいい曲でもアレンジが迎合的だと歴史の試練に耐えられない。アレンジがその曲の耐用年数を決めるんです。』

つまりその楽曲の本質に合ったアレンジを思いつき、キチンと表現し演奏すればいつまでも色あせないということです。
そして達郎氏はこうも述べてます。
『だからリミックスとかセルフカバーっていうのは、僕が思うに編曲とかオーディオ的な耐用年数が確保できないときにするものなんです。「あの曲の音、古いよね」ってなったら、今の音で録り直すわけ。その必要がなければやる必要ない。』
音楽を聴く時に歌詞やメロディだけに捕らわれず、背景や歴史を含め、アレンジや演奏など、その楽曲を成立させたミュージシャンや制作陣の気持ちになって聴いてみましょうよ。音楽を自分で演りたいのならば、決してマニアックな聴き方だと思わないで下さい。

オリジナルの「レット・イット・ビー」の音は古いのか?
今聴いて確かめてみて下さい。

蛇足ですが、以前ご紹介したアル・スチュワートの名曲「イヤー・オブ・ザ・キャット」。このプロデュースとMIXは当時ジョージ・マーティンと共にこのビートルズ最終時期のエンジニアとして関わったアラン・パーソンズです。
「レット・イット・ビー」と「イヤー・オブ・ザ・キャット」の楽器の定位やMIXを聴き比べてみて下さい。にやりと出来るはずです。

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