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明治から平成を生き抜いた女流作家の「自分史小説」

自分史活用アドバイザーの田中むつみです。

自分史と言えば、それはもちろん、ノンフィクション。
書籍化と言っても、基本は自費出版で、
一般書店に並び、多くの人が手に取る自分史は少ないと
思います。

しかし、文芸作品のジャンルの「自伝」「自叙伝」と呼ばれる
ものの中には、ベストセラーとなり、長く読み続けられている
作品も多くあります。

宇野千代の「生きて行く私」は、その中でも有名な一冊。

宇野千代85歳の時に、毎日新聞に連載を開始したという、かなり
長い自伝小説です。

明治に生まれ、大正、昭和、平成までを生き抜き、活躍し続けた
スーパーウーマン。

小説家としてだけではなく、編集者、着物デザイナー、実業家と
しての才もありました。

山口県岩国の裕福な酒造業の家に生まれながら、幼い頃に生母を亡くし、
姉のような継母を慕って育ちます。

常に自分の気持ちや直感に正直で、人になんと言われようと自分を貫く
姿勢には、圧倒されます。

奔放な恋愛遍歴や、衝撃的なエピソードに目を奪われがちですが、
そこには、彼女の生きる時代背景が生き生きと描かれています。

だからこそ、どんな時代であっても、向かい風に立ち向かい
自分らしく生きた宇野千代の在り方が、胸に迫ってきます。

数多くの男性たちが登場する、この自伝小説において
一番頻繁に語られる男性が、実は実の父親です。

裕福な商家に生まれ、子供達には厳格な父だったが、
本人は競馬や賭博、あらゆる道楽に耽り、千代16歳の時、
衝撃的な死を遂げます。

この父と、生母、そして千代を実の娘のように慈しみ、
信じ、長女として頼りにした継母。
母の違う弟妹たち。

家族のしがらみなど無縁に思える千代の生涯ですが、
この家族の存在は、大きな意味を持っていたように
思われます。

明治生まれの大胆な千代さんにドキドキハラハラしながら、
内容のわりに不思議と、長さも重さも感じさせない小説です。






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