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映画『12ヶ月のカイ』成長記録|2021/06/02

新しいものが「普通になった時」を逆算できるか

 仕事で時々VRやMRの案件を持つことがあって、最初は私も新技術に興味津々で接していたんですが、ここ最近は「そういうものがあることが当たり前」な感覚になっていたんですよね。それって特異なことだと思いますが、でも「あることが当たり前」の感覚を得られた時、ひとつ脳みその次元が拓けたような気がしたんです。例えば、ハラリの『ホモ・デウス』を読んだ後の感覚や、ピアノやギターの練習をしていて勝手に指が動くようになった時の感覚に近い。ひとつギアが変わったような感じです。

 先ほど特異と書きましたが、この感覚自体は現世に生きている誰しもが乗り物や携帯電話の発展で知らず知らずのうちに得てきた感覚で、気付かぬうちに人間は「新しい身体的拡張」を得ている生き物だと思うんですよね。そんな生き物、地球上に人間しかいない。ただ、そうしたスムーズなギアチェンジができるかどうかは、新しいものがいかに前のものと近似しているか…が鍵な気もします。

 例えば、zoomがコロナ禍で一斉に浸透しましたが、その前から既にSkypeがありましたし、clubhouseがバズる前から音声配信アプリはありました。どちらも前出のサービスに比べてやや似ていて、「一部違う」程度の差異だったのが、これだけ広く使われるようになった理由なのかなと思います。

 悪く言えば踏み台、良く言えば前出のサービスと自分たちのゴールから逆算して作られたのがzoomとclubhouseなんじゃないかなと思います。まあ、全ての技術はその連鎖だとは思いますが。

 「どうしたらそれが普遍的なものになれるか」の逆算が、まだVRやMRは追いついていないのかもしれません。平面ディスプレイの世界とはあまりにも違うもの。いきなり受け入れられないのは当然。あるいは、今はそのゴールに辿り着くための、一個前、二個前の階段を登っている途中か…。(階段を模索しているというのが一番リアルかもしれない…)仕事で扱う私たちはさすがに馴染みましたが、普通の生活でまだVRやMRを頻繁に使うような場面は出くわさないですもんね。

 あ、ただし、推しをVRアプリで眺めるような習慣はもしかしたら若い人の間では既に浸透しているかもしれません。でもそれも、「非日常」として楽しまれているのであって、まだまだ日常には届いていませんもんね…。

クロマキーから次元がギアチェンジしたILMの新技術

 先日チラと紹介しました『マンダロリアン』シリーズで世界で初めて使用されたLED背景システム、Stagecraft。(調べた、そういう名前だった)これも、驚異的な新しい技術でありながらも、制作者たちにとっては「クロマキー合成をポスプロじゃなくて現場で撮影時に実現できる」という「一個階段を登った」程度の新しさだったために、こうしてすんなり活用できたのだと思います。多少、新しくゲームエンジンへの理解が必要になるとはいえ、撮ってる側からすると、いつもはグリーンだけだったロケセットに突然キャラクターたちが存在するフィールドが目の前に現れるわけですから、むしろこんなにやり易いことはないと思います。監督も役者さんに「ここに〇〇があって、あそこがXXで、君はあの扉から出て行くんだ」というややこしい位置情報をわざわざ共有しなくても、一目瞭然で役者さんは「あ、そういうことね」と理解できます。

 ディズニーのメイキングドキュメンタリーではさらっと「ILMの新技術!」程度に紹介されてましたが、これ、本当は映画史的にも大事件な技術だからもっと取り上げられてもいい気がするんだがな…。それくらい、良くも悪くも人間は技術というものに慣れてしまったということでしょうか。悲しいかな。

で、ヒューマノイドは実現し日常になりうるのか?

 別にこれは私が答えるようなことではないと思いますが、『12ヶ月のカイ』『ソムニウム』のような物語を撮っておきながら「そんなのまだ無理っすよ」が私の答えです。ヒューマノイドやAIというと、まるで人間のようになんでもこなし、感情を持ち、人間同様にコミュニケーションが取れるもの…と思われる方が大多数だと思いますが、奴らがやっていることは全て「計算」です。計算の結果に対して、人間は人間に近い見た目のものに「勘違い」をしてしまう生き物で、そのへんの齟齬の結果「人工知能にも感情がある!」と取り違えてしまうんですね。恐ろしい。我々は我々に踊らされているんです。

 最初の話に戻ります。じゃあ「ヒューマノイドが普通になった時」を逆算すると…?その逆算途中の、私なりの計算結果が『12ヶ月のカイ』『ソムニウム』です。どちらもヒューマノイドという香ばしいワード・存在は出てきますが、彼らが何かをするという物語ではありません。人間が何をするか、という物語です。

 「ヒューマノイド(新しい種族)は日常となりうるのか?」

 それはきっと、ヒューマノイドだけに当てはまらず、現実で言えば移民問題やLGBTQ+や女性問題につながります。そこまで拾える物語になっているかは私の表現力次第なので、至らぬところはあるかと思いますが。(『ソムニウム』はちょっとタイプが違う物語かも)ただ、今のところは拾ってくださっている方もちらほらいらっしゃるので、さらに多くの方にお見せした時にどのような反応が返ってくるかは私としてもとてもとても楽しみにしています。


 …今日は書いたなぁ。明日も朝から僻地で撮影なので(Huluの脚本ももうそろ本腰で書かないと)本日はこのへんで。

 

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