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#恵比寿の月

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夜の街に向けてシャッターを切る。 揺れて落ち着かないブレた画面。
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#月

#恵比寿の月4

彼女が言う。 腕時計をするのが、拘束されてるようで 嫌になったのは、いつからだったかな。 急に重さを感じたんだ。人との関係と同じに。 だから、はずした。私はあなたの物じゃない。 なのに、誰かに囚われたくなる矛盾。 まだ8時だ。帰さない。 私もわからないの。 迷っていても、ここにいて。

#恵比寿の月3

写真展を見終わって、気に入った1枚について語り合う。 それは、偶然にも同じ写真のことであって 俺たちは、何度もその前を行き過ぎた。 他の写真を見ても、そればかり気になって また舞い戻ってしまう。 それは雪の写真だった。 ただ静かに道に降り注ぐ、白くぼぉーっとした点。 * いつものビアガーデンで 二人して黒ビールでほろ酔いになり、外に出る。 見上げた空には、月だ。 今夜は満月。 群青の空に吸い込まれてしまいそうな、まるい形。 「心許なくなるね」と、君が言う。

#恵比寿の月1

いつかの月、恵比寿の月。 俺は、月までの距離を想う。 写真美術館で待ち合わせた。 あいつはいつだって遅れてくるから 日差しを避けて、扉のこちら側で待つ。 まだ開店前のBarが透けて見える。 あのジャケットの曲、どんなだっけな。 早くも酒瓶が振られる夕闇の時間を 写真展を見た後のことを考えてしまう。 焦って走ってくる姿が ガラス越しに見えて手を振る。 どっから走り始めたんだろう。 精々50メートル先か。