友情談義【会話劇】

海「さて、今日は友情というものについて考えていきたいと思います」
珠美「どうぞ」
友里「友情、ねぇ」
真子「なんだ。みんなあんまり乗り気じゃないのか」
友里「友情に限った話じゃないけどさ、言葉にした瞬間、実際のそれと『なんか違う』ってなることあるくない? 愛の定義とか、友情の定義とか、そんなん言い始めて納得できたことあんまりないからさ」
真子「確かに。なんか、言葉にすると実際以上に単純化しちゃうっていうか、実際以上にいいものとして見るのも、悪いものとして見るのも、なんか気持ち悪くなるよな」
友里「そう。なんつーかなぁ。友情って言ったって、それってなんか、色々じゃん? 言葉にできるものじゃない気がする」
海「でもそれを言ったら、どんな観念も言葉にできなくなっちゃうんじゃない?」
友里「そうなんだよなぁ。感情とか、関係とか、そういう現実的なことって言葉にすると必ず違うものになっちゃうけど、でも言語化しないことには共有も難しいし、言語化することによって気づけなかったことに気づけたりもするから、多少乗り気じゃなくても我慢してやった方がいいんだろうなぁ、とは思うよ。なぁ理知?」
理知「うん」
珠美「でたぁ! りっちゃんの『うん』!」
真子「???」
珠美「いや、かわいくない? 『うん』だよだって。だって『うん』だよ? いやぁこれは出ましたわぁ」
真子「そろそろ下ネタに聞こえるからやめてもらえますか」
珠美「はい」
真子「理知も顔隠して笑うのやめてもらえる? そうやって……ふふふwwwくだらないことでいちいち笑うからこいつも調子乗るwww」
友里「お前も笑ってるやん」
真子「こほん。それで、友情だっけ。海は友情の何について語りたいの?」
海「そうだねぇ。たとえば『友達に大して友情を抱いていない』という状況は可能か、とか」
友里「そりゃお前、可能だろ。表面上の友達付き合いだって、生きてたら必要になってくるだろ」
真子「大人になってくるとそういうの減ると思うけどね。仕事の付き合いの方が増えてくるし、忙しくなるし。大事な友達としか、関わらなくなるんじゃない? ある程度友情、って言っていい感情を抱いている相手としか」
友里「それはありそう」
海「あ、待って。話題変えていい?」
友里「お、おう」
海「男の友情と女の友情ってどう違うと思う?」
友里「それ私たちに聞く?」
真子「むしろ私たちだから考えやすいんじゃない。どっちの側にも立ってないし」
珠美「みんな中性的だよね。考え方が。男性側にも女性側にも偏ってない感じする」
海「うん。だから、さ」
友里「んー。イメージでいいなら、男の友情はもう単純な利害関係。お互いにとって、利益となる関係が、友となる関係。女の友情は、感情的に心地いい関係。一緒にいて楽しいのが女の友達関係で、男の友達関係は、都合のいいときにつるむ関係。実際私、男の友達多いけど、あいつらと四六時中いても疲れるっていうか、あいつら自身も、そういうとこあると思うんだ」
真子「んー。納得できなくはないんだけど、あそこでくっちゃべってる加藤と向井みたいに、いつも一緒にいる親友みたいな関係の友達関係も、男の中にも見出せるくない?」
海「いやでも、あいつらは他の友達とも普通に喋るし、あくまで一緒にいるのが楽しいから一緒にいるというより、気が合うからつるんでるって感じじゃない? 私たち女は、自分の感情が害されないことが第一っていうか」
真子「お前、んなこと言ったら私はお前らにしょっちゅう感情害されてるけど、全然お前らは友達としていい奴らだと思ってるぞ。だって私の感情が害されるのは、私自身の問題だからな」
珠美「真子ちゃん、それなんかかっこいいぞ」
真子「ふふっ」
友里「気取ってるとこ悪いんだけど、これに関しては海の感覚の方が実際的だと思うな。真子って、本人も自覚してると思うけど、あんまり女っぽくないから」
珠美「きつい女代表って感じだよね」
真子「それ普通に傷つくんだけど」
珠美「ごめんって~~私、きつい女真子ちゃん好きだからゆるちて」
真子「許すかどうかは後で決めるとして、たまの方はどうなんだろう。利害関係よりも、感情的な快不快の方が優先されているんだろうか。たま自身はどう思ってる?」
珠美「生きてたら嫌な気持ちになっちゃうことはあるし、そんなのは仕方ないことだと割り切ってるかなぁ。利害関係って言ってもなぁ……私、りっちゃんに勉強教えてもらったり癒してもらったりしてて、色々利をもらってるけど、逆にりっちゃんに何かをあげられてる気はしないよ?」
理知「私もたまには癒されてるよ」
珠美「うわぁありっちゃあああん!」
友里「うーん。この方針で話進めるのは無理そうだな」
海「そうだね。女性の方が感情的だって結論したかったけど、私らの中にその感覚があんまりないから、やめよう。男も男で、感情的な意味で嫌いだからって、誰かを避けたり憎んだり普通にするみたいだからね」
友里「っていうか、この件に関しては男子の意見聞いた方がよくね?」
海「うんそうしよう。おい加藤ー向井ーあとは……清水と柿屋も来い。この四人でいいか」

事情説明中……

加藤「男と女の友情の違い、かぁ」
清水「今ネットで検索したけど、女の友情の方が脆いとか、すぐ友達に嫉妬するとか、そういうのばっかり出てきたぜ?」
友里「お前さぁ。ネットに書いてることはくだらねぇからさぁ……」
海「まぁまぁ。逆に考えよう。なぜ一般的に、女性の方が友情は脆いとされてるの? そのネットさんによる場合」
清水「うーん。友達より恋人とかの方を優先するとか、価値観が合わないときに押し付けるとか、そういうことばっか書いてあったよ」
柿屋「でも、俺の姉ちゃんとかもそういうところあるし、女ってそういうイメージある。あと、人の幸せを素直に喜べないとか」
友里「逆に聞くけど、お前らの中で男同士の友情は、そういうんじゃないの? 友達より彼女優先したりとか、価値観押し付けられたり、とか。幸せを喜べない、とか」
向井「そもそも、彼女ができてそっちに入れ込むのは男なら仕方ないっていうか。自慢もうざいけど、まぁ別にいちいち気にしても仕方ないっていうか」
加藤「それはそれ、これはこれって感じだよな。あと、幸せを喜べないとかって言われても、そもそも喜ばなくちゃいけない理由なんてないよな」
清水「それ分かるわ。女子同士ってなんか、妙に同じ意見を欲するっていうか、友達に多くを期待するっていうか。っていうか友達だけじゃなくて、男にもいろいろ期待するところ多いっていうか、そういうイメージある」
友里「ふぅむ。お前ら意外といい意見言ってくれるな。見直したぞ」
珠美「今の聞いてる感じ、確かにその通りだなぁって思った。自分が嬉しいときは一緒に祝ってほしい、みたいな気持ちは私たち自然に抱くから」
海「器の大きさの問題かな? 逆に、そういうの気にするっていうか、女々しい奴がいたら君らどう思うの?」
加藤「ん? うーん。あんまり俺の身近に女々しいやついないっていうか、俺自身がどっちかっていうと女々しいからなぁ。約束守らんやつとは友達になれないと思う」
向井「俺もそういうタイプだから、あんまり友達多くないんだよね」
友里「あぁだからお前ら仲良しなのか」
加藤「そういうところあると思う。なんだろう? 合わないなら無理に友達になろうとしない、っていうか」
友里「孤独に対する耐性、というか、群れたがる心理がちょっと違うって感じか」
清水「でも男でも、群れたがるやつ多いし、それはちょっと違うと思うな」
海「実はやっぱり、そう大して違わないんじゃないの?」
清水「逆に、女子の方はどうなん?」
珠美「私たちの場合だと、まぁ基本は表面上は仲良くするよね。誰とでも」
海「意味もなく嫌い合う必要ないからね。でも仲が深くなってくると、そりが合わないことが出てくるし……それとは別に、深い仲にならない場合は、ただ互いにつるむ相手が欲しいだけだから、ちょっとしたことで裏切りだとか、悪口だとか、そういうことが起こることが多いんだろうなぁ、とは思うよ。中学時代の私の友人関係そんな感じだったし」
友里「殺伐だな」
加藤「でも、秋原さん(友里)たちの関係って、独特っていうか、あれだよね。あんまり男子とか女子とか、そう感じじゃないよね」
海「やっぱ君らから見てもそう思う?」
清水「思う」
柿屋「いいなぁって思いながら眺めてます」
真子「それはちょっときもい」
柿屋「すいません」
珠美「真子ちゃん手厳しいなぁ」
向井「でも俺、友情って深くなると常に独特な感じになると思ってる。男も女も。なんか、男女の友情は成立するか、みたいな話よく聞くけど、典型的な男女の友情なんてものは実際にはなくて、それぞれが個人個人の特殊な関係として成立してる、みたいなのだと俺は思ってる。つまり何というか……俺とお前だから、成立する、みたいな。全部の深い友情って、それぞれ別の形だし、感情だと思うんだ」
加藤「それな!」
友里「お前が一等賞」
海「向井、お前、持ってったな。りっちゃんの仕事を持ってったな」
向井「すいません」
珠美「りっちゃんはどう思う?」
理知「向井君と同意見だよ。それに関しては」
海「おい向井にやけてんちゃうぞ!」
加藤「大丈夫だ向井。俺がお前の立場でも、確実ににやける」
向井「しょうがないよなぁこれは」
珠美「これは向井君の株上がったのかな? 下がったのかな?」
真子「私の中では上がった」
友里「下げる理由はないな」
海「にやけ面がきもかったからイーブン」
珠美「えっと、でも結論それでいいのかな?」
海「まぁ、友情にプロトタイプみたいなの求めるの自体がはじめからナンセンスだったのかな」
友里「図らずも私が最初に言ったようになっちゃったわけだ。でも無意味ではなかったな。特に向井にとって」
向井「いや、俺別にそういうつもりじゃ……」
友里「冗談だよ真面目ボーイ」
向井「きつい……」
加藤「向井君あんまり女子耐性ないんで、そろそろお暇します~」
珠美「ありがとねー」
清水「俺らももういらんな?」
友里「お前らもご苦労であった」

海「さて……」
友里「男女の違いは、そもそも表面上の付き合いがどうあるかってとこに還元されそうだったな」
真子「男だからこう、女だからこう、っていうより、表面上の付き合いだとこうなりがち、そうじゃない場合はこうなりがち、っていう違いの傾向があって、女は良好な表面上の付き合いを好み、男は好まない傾向にある、ってだけかもな。んで、私たちは表面上の付き合いは……まぁでも、普通にする方だよな、みんな」
珠美「私は普通にするよ」
海「つーか男だって、表面上の付き合いはすると思うんだけど」
友里「ウェイトの問題だろ。どっちをメインにするかというか」
真子「んー。どっちかっていうと、目立っている連中がどんな感じか、じゃない? 目立つ女は、表面上の付き合いがうまい、見栄えのいい女。目立つ男は、表面上の付き合いがどうとかじゃなくて、生き方がかっこいい男、みたいな」
友里「そんな単純に考えていいんかなぁ。それこそこのクラスで目立ってる海も理知も、表面上の付き合いそんなうまくないじゃん」
海「私はうまい方だと自分では思ってるけど」
友里「お前はなぁ……うーん。下手ではないし、コミュ力も高いんだろうけど、付き合い方自体はあんまりうまくない気がするんだよな」
海「逆に友里にとって、上手な付き合い方って何?」
友里「私のイメージだと、できるだけ多くの人間に好かれつつ、嫌われることの少ない付き合い方じゃない? だって、そういう女がモテるじゃん。敵を作らなくて、味方が多い女、っていうか。
 お前普通に敵作るじゃん。私もだけどさ」
海「確かにね。だとすると、たまちゃんがこんなかじゃ一番付き合いうまいかな?」
友里「そうだな。海よりは、たまの方が人付き合いうまいと思う」
珠美「これ、喜んでいいの?」
真子「喜んでいいんちゃう?」
海「まぁでも結局は、八方美人的な生き方を好むか好まないかって問題っぽいよね。女性の方がそういう人多くて、男は少ない、ってことなんかな?」
友里「かもな」
真子「八方美人は真の友情は築けない、ってこと? でもそれだと、友達多くて、しかもひとりひとりとの繋がりの強いたまの存在が謎になるが」
海「そもそもたまちゃんは八方美人じゃなくて、単に人懐っこいだけだし」
友里「たまみたいな人間に憧れて、それを真似する人間が八方美人になる形か?」
真子「理知の真似してても同じ感じになるな。人間関係が、そもそも無理してて、不自然だと、どうしても表面的になっちゃうよな。本音とか、素の傾向みたいなの見せることができないと」
海「でも、本音とか素の傾向とかを臆さず出して、それで成立する友情ってかなり稀だよね」
友里「稀だから、みんな大人になると友達のままでいられること減るんだろ」
海「確かにそうか」
真子「まぁ、普通、自分を見せる相手ってそう多くないしな。だからこそ大切にできるってのはあるんだろうな」
珠美「あー。でも男の子の友達欲しいなぁ」
真子「分かる」
友里「お前ら男友達おらんの?」
珠美「いやなんていうか、友達って言ったら友達なんだけど、なんかやっぱり、意識しちゃうよね。素の自分でいられないっていうか」
真子「遠慮するよな」
海「さっき遠慮してた?」
真子「多少は」
珠美「っていうか、男の子の方が意識してきたら、それも気になっちゃうっていうか」
真子「でもたまと喋ってていつも通りでいることを男に要求するのって酷だと思うな」
珠美「私、もっとブスに生まれてればよかったのか」
友里「今、全ブスを敵に回した」
海「あーあ。りっちゃん笑ってるし。この件に関しては、りっちゃん笑ったらダメなんじゃない?」
理知「ごほっごほっ。ご、ごめん……」


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