怖い話『頭が逆さになっている赤ん坊』


 夜中に目が覚めた。幻覚を見た。その話を書こうと思う。


 寝ぼけているときによく見る幻覚がある。私はこれがものすごく怖くて、実は思い出したり考えたりするのも苦痛。
 こうやって書いている時でも、正直体は震えているし、部屋の後ろのドアが気になって仕方がない。

「えへ、えへ、えへ」
 カタカタと震えながら、そんなヘンテコな音を立てている。頭が逆さになっていて、丸坊主。血のような、茶色のどろどろを引きずりながら、私の後ろについてくる。私が勇気をもって振り返ると。
「えへ、えへ、えへ」
 ちょっとだけ隠れる。黒くくぼんだ眼を片方だけ見せて。
「えへ、えへ、えへ」

 時々その赤ん坊の首が取れて、私の傍まで転がってくることがある。赤ん坊はいつも笑っている。憎んだような顔で笑いながら私を見て。
「えへ、えへ、えへ」
 何がしたいのか分からない。なんで頭が逆さについているのかもわからない。よくみると、足も手も反対方向についている。つまり、四つん這いなのに、手の指の先が後ろに向かっていて、足は前を向いている。
「えへ、えへ、えへ」
 私が逃げようとすればするほど、近づいてくる。振り返ると、隠れる。恐ろしくて恐ろしくて仕方がない。

 でもその幻覚から逃れる方法がひとつだけある。抱きしめてやることだ。

 覚悟を持って、私はその幻覚に突進し、夢中になって抱きしめる。愛している、と呟く。すると、消える。
 まだ恐ろしいのに、声も消えて、幻覚も消える。

 その子が私に何を伝えたいのかは分からない。私に何をさせたいのかも分からない。

 もっといえば私は心霊的なものを一切信じていないから、これはあくまで私の脳みそが私にそう見せているに過ぎないことを知っている。
 だからこそ、私は私に何を気付かせたいのか分からない。それも恐ろしいけれど……最近は、その幻覚を見たくないと思わなくなった。
 見たら苦しいと思うし、恐ろしいと思うけれど、受け入れようと思っている。きっとそれも、意味があることだから。
 それもきっと、生きているという実感だから。

 ともあれ、あの赤ん坊が次に現れたときは、できるだけ早く抱きしめてやろうと思う。それで私が狂ったり死んだりしたら、笑ってくれていい。

 同情するのは罪だろうか? あの子は……恐ろしいけれど、かわいそうだとも思うのだ。きっと寂しかっただけなんじゃないかと思う。

「えへ、えへ、えへ」か。

 もしその子が私の首を要求してきたら、私はそれを差し出せるだろうか?
 私は一体どうすればいいのか。いや、私にできることは、抱きしめてあげることだけなんだろうな。うん。

 きっとその子も、暖かい体を持っている。だからそれを、確かめないと。
 もし冷たかったら? それなら、私が暖めてあげればいい。そのために私の体は暖かいんでしょ?

 きっとそうだ。呪いも、奇形も、ちゃんと愛さないと。分かってる。私はそういう星の下に産まれてきたんだ。



寝ぼけた頭で描いてみた。

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意外とかわいいかも。いや実際はもっとグロテスクというか、リアルというか。肌の質感とかヤバいし、目の狂気度具合というか、こんなかわいくないよ。本当は。

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