論理的っぽい人

 とあるそこそこの学力の大学生の方と話したとき「この人と私は随分違う世界で生きているんだなぁ」と思った。

 その人は、ものごとを「損か得か」「すでに定められた目標に近いか遠いか」「それに意味があるかないか」という基準でしかものを見ず、それ以外のことは全然無意味だと思っていると、はっきりとそう言った。
 しかもそのうえで「自分以外の人間には、別のものが見えているらしいのは知っている。でも俺にはそれが見えたことがないから、それが嘘であるか本当であるか判別することができない。だから俺は、それがないものとして取り扱うし、尊重することもできない」と、自分の認識が決して歪んでいないことを主張してきた。

 確かに、彼の言う事には正当性がある。彼は、私に対して「君とは分かり合えない」という意味合いのことを、まったく敵意なく、そう伝えてきた。
 私は逆に、この世の全ての誤りや勘違いには、決して無視できない部分があると思っているし、そもそも人の不合理と言われる感情が自分のもののように分かる人間だから、彼の気持ちも、ある程度理解できた。(もちろん、それが単なる「つもり」であり、勘違いである可能性が否めないのは自覚している。でも私は、この想像力を結構信頼している)
 
 話は、結構盛り上がった。おそらく彼が何を言っても、私が困惑したり驚いたりしなかったからだろう。彼は普段絶対に人に言えないような、非常識的だと思われても文句を言えないような持論や人生観まで、教えてくれた。
「結局人は、それぞれの主観的快楽を求めて動いている。それを認めない人間は、言語能力や認識能力が発達していないからか、あるいは隠すこと自体に快楽を感じている」
「感動というのは、脳内麻薬が出ているということであり、感動したいと思っている人間は、麻薬が法律で禁止されなければ皆中毒になるはずだ」
「人間の心なんてものはしょせん単純な電気信号の繰り返しでしかないから、魂だとか精神だとか呼ぶのは単なるまやかしで、死ぬのが怖いという単純な生存本能の裏返しだ」
「結局女にモテる男の条件は、生殖能力の強いやつと、社会的な生存能力が高い奴だ。つまり、身長と金だ」
 等々。

 彼の意見からはかなり強い自信が感じられたが、イタズラ心を出して、ちょっと試しにあることを言ってみると、彼は子供のような無邪気さで驚いてくれた。
「つまり、○○さんは自分の論理性を人に伝えることで、自分がいかに生物遺伝子的に優れているか、異性にアピールする戦略をとっているわけですね? たしかにそれは極めて合理的ですが、女性は何が論理的であるか判別するだけの思考能力を持っていないことも多いので、あまり有効的ではないかもしれません」
 彼はその後、自分があまりモテないことを素直に認めた。私は作り笑いの裏で大爆笑。

 彼は一見、極めて論理的な巨人のように見えるが、中身はすごく純粋な男の子だった。女の子にモテたいと思ってて、そのために自分がいかに優秀であり、成功する可能性が高いかということを主張するのに心血を注いでいたわけだ。
 実際、彼はあまり融通が聞かなそうだが、仕事はできそうだった。私の中の女性性は、彼はそこそこ期待値が高いと、悪くない評価を下したし、実際にそれを彼に伝えると、彼はとっても嬉しそうにした。

 まぁでも、そのあと「君はタイプじゃないから」と、別に聞いてもいないのに謎の拒絶を食らった時は、普通にムカついた。私が顔をしかめると、慌てて「俺、もっと馬鹿な子が好きなんだよね」と、的外れなフォローをかましてきた。
 「私もですよ」という言葉を飲みこんで「残念ですぅ~」と笑った。

 「私も、あなたはタイプじゃないです。私、もっと賢い人が好きなんですよ~」ってホントは言いたかった!



 ちなみにこれ全部作り話です。

 ほんとは友達にこういう話をしたいけど、嘘ってバレたら恥ずかしいし、そもそもちょっとうざいし。

 でも「これは作り話なんだけどね?」という前置きで始めたらいけるかな?
 いやでもこれ、文章だからできることだし、実際に喋ると話長すぎるのと小難しいのとで滑りそう。いや、これは滑る。
 もっと簡単にまとめてもいいかもな。にょろにょろ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?