ご機嫌であることが大事だ

 人の機嫌というのはびっくりするくらい態度や言葉遣いにあらわれる。不機嫌な人は、どれだけそれを隠していても、不機嫌であるというだけで一部の人間の気分を害してしまう。

 人のいい功利主義者の皆さんは口をそろえて「幸福であることは隣人への義務である」と語る。不機嫌というものは、それだけで周りの人間を不幸にしてしまうという事実を重く捉えているのだ。

 私は功利主義者ではないし、むしろ不幸というものに大きな価値を置く人間ではあるが、通常の社会生活においては、功利主義者の意見に同意するのも悪くないと思う。実際私は、自分の機嫌がいいときしか人と関わらないようにしているし、少しでも気分が害されたらひとりきりになるようにしている。

 人によっては、機嫌が悪いときこそ誰かと一緒にいることによってそれを改善しようとすると思うけど、私の知るかぎり、そういう性質を持つ人ほどくだらないことで喧嘩して、人間関係を複雑で疲れるものにしてしまいがちだ。
 不機嫌な時や、悩みが多いときは、できるだけひとりになって静かに自分を慰めるのがいいと思う。でも、人によってはそううまく自分自身とは付き合えないとは思うし、それぞれが好きなように過ごせばいい、というのが本当のところだ。喧嘩したっていいし、不機嫌を誰かにぶつけたっていいんだよ。それで喧嘩になったって、それがあなたの選んだことなら、誰にも否定する権利なんてないんだ。
 ご機嫌な私は、誰に対してもそう語りたくなる。


 不機嫌な人たちに囲まれても上機嫌なままでいられる人のことは羨ましく思う反面、少し軽蔑する。
 私は、他の人の不機嫌を敏感に感じ取ってしまう。それが私に改善可能なもので、何より私自身の上機嫌がそれに勝利できるほど調子のいいものなら、喜んで付き合いたいと思う。でもたいていは、もうひとり不機嫌な人間が出来上がってしまうだけだから、私は距離を置く。
 私は不幸に対する耐性が強いので、苦しんでいる人間や悩んでいる人間、落ち込んでいるや傷ついている人間の相手をするのは得意だ。そういう人を、少しでも癒すことは、私にとって楽しいことであるし、幸せなことだ。
 でも不機嫌な人間、不満を持っている人間、怒っている人間の相手をするのは大嫌いだ。好意や笑いを含まない悪口は大嫌いだし、唾を飛ばしながら話すような人のことも嫌いだ。私自身にも、それがうつってしまいそうだから。


 私も、不機嫌になることがある。けっこうよくある。くだらない気晴らしをして何とか解決することが多いけど、不幸と違って不機嫌というのは、解釈したり理解したりすることで解決することはあまりない。ただ頭を使ってごちゃごちゃやってるうちに収まっていることもあるので、少なくとも誰かにぶちまけて関係を悪化させ、また新たな不機嫌を作り出してしまうよりは、自分の不機嫌や不満についてじっくり考えてみるのも悪くないと思う。

 何はともあれ、ふだんからできるだけ上機嫌でいることは大事なことだ。不安や不満があってもいいが、それに対して「それがどうした」と言えるような快活さがあることが大事だ。

 よく笑う人間でいたい。上機嫌な人を見て、一緒に上機嫌を楽しめる人間でありたい。決して、自分が不機嫌だからといって、上機嫌な人間を悪く思ったり、ひどく罵ったりすることない人間でありたい。
 実際、この世界は不機嫌な人間や病気の人間のためにあるのではなく、上機嫌で健康な人間のためにある。もし私たちが、一時的に不機嫌になったり、病気になったりすることがあったなら、その時は素直に暗くて狭い部屋にこもるようにしよう。そうして、人に対して前向きな気持ちになれたときだけ、関わるようにしよう。

 世界がもっと気分のいいものになればいい。ご機嫌なものになればいい。

 おそらくご機嫌であるために一番大切なことは、健康であることと、不幸や悲惨さ、不条理や残酷さを恐れないことだ。

 どんなに不幸でも、それから逃げ出さず、自らの不幸を受け入れたうえで、いつも上機嫌でいること。楽しい気持ちで日々を過ごしていること。
 おそらく私という小さな人間が、自分自身に対して一番求めていることは、それなのだ。

 いつでも、楽しい気持ちを忘れないでいたい。悲しいことやつらいことがあっても、それをひとつの楽しみに変えることができるくらい、強くて柔らかい心を持っていたい。

 こうありたい、という自分があるのはよいことだ。
 私の理想は簡単なようでとても難しい。高いものではないけれど、低いものでもない。
 ご機嫌でありたい。親切でありたい。そういう自分が好きだからだ。私にとって人間の価値とはそういうところにある。

 私には難しいことができないし、人と争うこともできない。ならせめて、自分にとっても他の人にとっても、見ていて気分のいい存在でありたい。
 どんなことがあっても、ご機嫌な人間でありたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?