頭の中!

A「私、ひとりで生み出せるものには限界があると思うんです」
B「そもそもひとりって何? どういう定義?」
C「Aちゃんは、誰かと一緒に何かを産み出した方がいいと思うんだね?」
D「別にお前がそうだからと言ってみんなそうってわけではないだろ」
E「ちょっとみんな好き勝手喋らないで!」
F「じゃあ人格統合して、二人か三人くらいに整理しよう」
A「私は固定ね」
F「私がまとめ役やる。他の人たちは、私が発言を許可した場合だけ喋ってね」
D「勝手に決めんなや」
C「別にいいんじゃない?」
B「なんでもいいけど、とりあえずAがどういうつもりでさっきの話をしたのか聞かないと」
F「Bの言う通りだと思う。とりあえず、Aちゃんはどういう意味で、さっきの言葉を話したの?」
A「そもそも私、さっきなんて言ったんだっけ? あぁそうだ。ひとりで産み出せるものには、限りがあるってことだよね。そのまんまの意味だよ。何か作るにしても、色んな人と協力した方が、いいものが出来るんじゃないかと思って」
D「デカルトは、街の設計はひとりの人間がやった方が、複数の人間が好き勝手するよりも美しい街ができるって言ってたぞ」
E「それとこれとは話が違うでしょ!」
B「そもそも論点どこだよ」
C「Aちゃんは小説とか、絵とかの話をしてるんだよね?」
A「それもそうだし、建物とか建てる時もそう!」
B「それとこれとは分けて考えないとわけわからんくなるだろう。そもそも、ひとりで書いた小説を担当編集とかに見てもらって少しずつ改善していくのは、ひとりで生み出していることになるのか? 定義があいまい過ぎて混乱する」
A「うーん」
C「ちょっとB君は黙っててよ」
F「私としてはみんなもうちょっと自制していただきたいのですが」
D「お前も自制してないじゃん」
E「みんな自分勝手すぎ!」

 六人、人格維持できるな。でもひとりひとりの人格が、浅くなってる。頭が悪くなってる。でも、本当に?

 ふと思ったけど、私の頭の中ってやっぱりぐちゃぐちゃなんだよね。今やった謎の会話劇みたいなことが、絶えず頭の中で引き起こされているから、何もしていなくても、疲れてる。

 三人くらいが多分、一番平和なのかな。二人かなぁ。四人はあんまりやったことないな。試してみるか。

アルファ「私たちの人生、これからどうすればいいか考えよう」
ベータ「いいよ」
ガンマ「それってさ、今からどうするかって言う話? それとも、将来の展望というか、方針みたいなの?」
アルファ「いや、もっと単純に、ただ考えるだけって、感じ。実際に何か決められる自信、私にはないし、そもそも自分の考えが整理されていないから、とりあえず、アイデア出していこう」
ベータ「おっけー」
デルタ「どうせ考えたって何も分からないよ」
アルファ「あ、四人にしても悲観主義者含まれるんだ」
ベータ「そもそも役割が被ったからじゃない? アルファちゃんは多分、まとめ役でしょ? 私は多分、自由な感じ? まぁバランサーって感じでもありそう。んで、ガンマ君は、懐疑論者?」
ガンマ「いや、俺がバランサーだろ。懐疑論者っていうより、ただ普通に、疑問に思ったことはそのまま口に出して、議論を活性化させるだけだ」
ベータ「それはバランサーとは言わなくない?」
ガンマ「まぁそうかも」
アルファ「でもこれだと、デルタ君、空気じゃない? 時々意見求めてあげるか」
ベータ「うん。その方針でいこう。デルタ君、それでいい?」
デルタ「うん」
アルファ「それじゃ人生この先どうするかって話なんだけど、まず現状把握からやろう。おさらいだけどね」
デルタ「しんどい」
ガンマ「いい加減慣れろよ……まぁ、端的に言えば……八方塞がりなんだよな? 意味ないと思うけど、高認は取る予定なんだろ?」
ベータ「ノーベンでも余裕で取れるね。一応念のため過去問はやり込むけど」
アルファ「ほんと、意味もなく真面目だよね。まぁそれは置いておこう。もう決まってることだから」
ガンマ「自動車免許は?」
ベータ「最速で取る予定」
アルファ「車乗らないけど、身分証としてかなり強いからね、運転免許証。これさえあれば、まぁ野垂れ死ぬことはないでしょ」
ガンマ「ほんと現実的に考えるよな、お前。お前っていうか、俺らだけど。普段あんなにファンタジックに色々言うのに、妄想じみたこと吐き散らかすのに、現実の処理はほんとに、くそつまらんくらいに現実的だよな」
ベータ「そりゃお前、現実は現実だからね」
アルファ「しんどいけど、やることはやっとかないとね」
ガンマ「お前らさ、すぐ自分のこと社会不適合とか言うけど、どう見ても適合できてるが」
アルファ「理想と現実のギャップってやつなのかな? というか、未来への絶望、かな。なんか、想像できる自分の未来がどれも吐き気を催すんだ。学者やってる自分もやだし、金儲けやってる自分もやだし、慈善活動やってる自分もやなんだよ。何もやりたくないんだよ。あー死にたい」
ベータ「そんなすぐ死にたいって言うのはあんまりよくないけどね。仕方ないよね、大変だもん」
ガンマ「大変なのはみんなそうだろ」
アルファ「そうだね。みんな大変だと思う。でもだからと言って、私のこのしんどさがなくなるわけではないんだよ。ね、デルタ君?」
デルタ「しんどい。死にたい」
ベータ「なんか笑えるな、デルタ君」
デルタ「僕はいつもみんなから笑われてる。どうせ何をやってもダメなんだ」
ガンマ「逆にお前、なんでそういう風に思うん?」
デルタ「絵は下手くそ。音楽は、センスゼロ。文章だって、なんかへんてこりんだし、こんなに書いてるのに……全然、成長してる気がしない。僕はもっと注目されたい。もっと、評価されていたい。でも、評価されるための文章なんて、書きたくない。僕はダメなやつなんだ。何をやってもうまくいかないんだ……」
アルファ「まぁ私たちの中にも、こういう部分はあるってことなんだよね」
ベータ「それは認めないといけなさそうだね。ありがとうねーデルタ君。気分悪いけど、大事なことだもんね?」
デルタ「そんなこと思ってもないくせに」
ガンマ「こいつマジでめんどくせーよな」
アルファ「まぁめんどくさいけど、でもちゃんと面倒見てあげないと、大きくなっちゃうからね」
デルタ「僕はみんなの役に立ちたいんだ。みんなに感謝していたいし、みんなから感謝されていたい。そこにいることが、当たり前でありたい。尊敬されていたい。無理せず、楽しく、ただ自分らしくあるだけで、褒めてもらいたい。許してもらいたい。愛してもらいたい」
ガンマ「まぁ、誰もがそう思ってるだろうな」
アルファ「そのために、いろいろ努力するんだけど、努力した時点で、それって本当に『自分らしく』って言えるのか、怪しいよね。必死になって、歯を食いしばって、眉間にしわ寄せて、それで欲しているものが手に入ったとして、体の緊張はそのままで、心もどこかこわばっていて、硬い壁に覆われていて、みたいなのじゃさ、自分らしくとは言えないよね」
ベータ「それについては同意。でもうまく中間取るのはできると思うけどね」
デルタ「中間であろうとしたのに、ダメだったんだよ。どっちも得られなくなってしまった。僕は、誰かの方に歩み寄っても、自分を少しでも残したら、皆僕を怖がって、どこか遠くに行ってしまう。それなのに、抑圧された『僕』はやっぱり苦しむし……これ以上は、譲歩できないって、駄々をこねるんだ。どうやっても、人と相容れないんだ。僕は。ずっとひとりぼっちで生きるしかないんだ……」
ガンマ「どうしてこいつはこんなにいつも極端に考えるんだろうな?」
アルファ「うーん。半分は事実だけど、なんていうか、受け入れてくれる人だっていると思うけどね」
ベータ「というか、私たち自身が他の人の『本音』に耐えられないのが問題なんじゃないの? その下品さというか、自分勝手な欲望が、怖くなってしまうのが問題なんじゃないの? 本人さえ自覚してない、低劣な欲望が」
アルファ「うん。つまり、他の人の『デルタ君』みたいなのが、私たちの『デルタ君』よりも、ずっとめんどくさくて、恐ろしいんだよね」
ガンマ「そこまで深く考える必要ないだろ、人付き合いなんて。適当にこなしとけばいいのに」
デルタ「それじゃ、孤独は深くなる一方じゃないか。僕は、愛し合っていたい。許し合っていたい」
ベータ「ちょっと重いけど、でもそんなもんだよね」
アルファ「ちょっと疲れたし、これくらいにしておこうか」
ベータ「さんせーい」

 四人は悪くないな、と思った。ある程度整理されているし、自分の精神状態をチェックするのにも役立つ。冷静さと、感情的な部分のバランスというか、比率みたいなものもよく分かる。だいたい、三対一、よりも若干理性の方が強い。理性8、感情2、くらいかな。もうちょっと感情よりかもしれない。デルタ君だけじゃなくて、ガンマやアルファも若干揺さぶられてたみたいだし。

 それにしても、これだけ理性とか認識とかによって感情とか欲望が常にがんじがらめになっていたら、そりゃ疲れるよね。わけわかんないことになっちゃうよね。

 私小学生のころ、どっかの研究機関が私の脳を分析してくれたらいいのにって思ってたけど、まぁそんなことあるわけないし、馬鹿げた妄想だからさ……結局、自分で自分の心を解剖するしかないんだよね。今やってるみたいに「私の頭の中どうなってるんだろー」って、いろいろ試してみて、ちょっと馬鹿な言い方をすると「見える化」してる。

 理解してほしいんだよね。この苦しさというか、生きづらさみたいなものを、私も分かってほしいんだろうね。他の人に対してもそうだし、私自身に対してもそう。自分が苦しんでいることをちゃんと、そのままの形で認識しておくのは大事だと思うんだ。その苦しみを大きすぎるものとして捉えるのも、小さすぎるものとして捉えるのも、危険だからさ。ほどほどに、理解しておかないと。

 眠い!

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