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時計仕掛けのオレンジ(映画の話)

古い映画を見るモチベーション

ふと気を抜くとYouTubeで動画を垂れ流してるし、ホロジュールで雑談配信を探してラジオ代わりに流してしまう。
その環境で作業ゲーをやって疲れたら寝る。

堕落している。
サタンに魅入られているのではないだろうか、こんな生活をしていたらいずれ後悔に塗れて嘆き悲しむことになるだろう。

そこまで悲観した訳ではないが、話題として古い映画を見て語れると何となくカッコいいので古い映画を見る事にした。
ホロの雑談の話題なんて同僚や友人に振ったらドン引きされかねないが
名作映画の話題は相手が見てないのが悪いまである。
素晴らしい。

映画のあらすじ(ネタばれ)

浅学菲才で日々を怠惰に過ごす私と違って、賢明な読者諸君は当然観たことがあると思うが(昭和の文豪的マウント)
古典映画を見たのは遠い昔であろうから記憶を呼び覚ましていただく為にあらすじを書く。
起 主人公が如何に悪人か
承 悪人は刑務所へ
転 素晴らしきルドヴィゴ療法
結 最後は愛が勝つ
ざっくり切るとこんな内容だ。

起「主人公が如何に悪人か」

主人公アレックス君は札付きの悪党。
仲間たちと4人で夜な夜なミルクバーに集まっては悪だくみをして
見かけたホームレスを虐める、他のグループと乱闘騒ぎをおこす、民家に押し入って旦那に暴行を加えて奥さんを強姦して、金目の物を奪うそんな生活。

ある日、レコード店で可愛い女の子二人をナンパして自宅でエッチ三昧していると、その間待ちぼうけ食らった不良グループの仲間達が不満を持ってアレックス君に突っかかってくる。
リーダー交代だと息巻く仲間達だったものの、アレックス君の容赦のない制裁で上下関係を叩き込まれてすっかり意気消沈してしまいます。
強いぞアレックス君!

そんな士気の低い仲間達だったものの、仲間が立てた計画は実行させる。
郊外の一人暮らしのおばちゃんの家を襲撃するのだ
しかし、連日の押し込み強盗で世間の防犯意識はMAX
特にアレックス君が使っていた手口
『「近所で交通事故を起こしてしまって、友人が死にそうです!電話を貸してください!!」で玄関を開けさせて後は暴力に任せるまま作戦』
は新聞で報道されてバレバレ、おばちゃんは玄関を開けてくれないばかりか直ぐに警察に電話してしまう。

承「悪人は刑務所へ」

新聞なんて読まないアレックス君は2階の窓から建物に侵入して一人暮らしのおばちゃんをからかいながら何時ものように強盗を楽しんでいた。
しかし、遠くから警察のサイレンが聞こえてきて慌てて逃げる。
玄関から出て仲間たちと逃げる算段をたてようとした瞬間、仲間の裏切りにあって目潰しを食らい、動けなくなったところを警察に捕まってしまう。

アレックス君は以前にも捕まって更生プログラムを受けている所だった為
速攻で刑務所行き。刑務所では名前を奪われ、屈辱的な生活を送るものの
持ち前の容量の良さで牧師の助手に成り模範囚として振る舞い仮釈放が認められるように働きかけていた。

ある日、画期的な更生プログラムが開発されてこれを受ければたったの2週間で外に出られるという噂を聞くことになる。

この構成プログラムに参加したいと申し出てみるが、牧師はこんなモノは信用できないから止めておけ、信心を高めて愛について理解することが大切だ、と説いてプログラムへの推薦をしてくれない。

そんな時に政治家の偉い人が刑務所の査察にくる、例の更生プログラムを受けさせる囚人を探しに来たのだった。
刑務所側としては「権力者には逆らえないが、罪人の更生という自分達の仕事を横から奪う更生プログラムは気に入らない」というスタンス。
しかし、アレックス君は渡りに船とばかりにこの偉い人に猛アピール。
是非とも私に更生プログラムを受けさせてくださいと志願してしまう。

転「素晴らしきルドヴィゴ療法」

刑務所から清潔な病院のような研究所に行くとそこで待っていたのは恐ろしいプログラムだった。
器具でまばたきも出来ないように固定された状態で暴力とセックスの映像を見せつけられる。ただし、薬品によって常に吐き気を感じながら。

薬品による吐き気と暴力を関連付けて記憶することで暴力を振るおうとすると吐き気を感じるように洗脳する。これが画期的な治療法「ルドヴィゴ療法」の真相だった。頭の良いアレックス君は直ぐにこの仕組みに気付くものの、BGMとして流されたのが偶然にもアレックス君の大好きな「第九」であった為に自分の人格が破壊され愛する音楽を奪われる恐怖に発狂する。

2週間後、マスコミや関係各所を集めたお披露目会。
アレックス君はステージで見世物にされながら
男性に突然罵倒されて殴られたり、全裸の美女に迫られたりするものの
その度に吐き気を催してフラフラするばかりで何も出来ない。

その様子を見てルドヴィゴ療法は「どんな悪人も真人間にすることができる」として大喜びで受け入れられていく。
アレックス君も久しぶりに刑務所を抜け出して自由に過ごせる事に喜びを隠せないのだった。

結「最後は愛が勝つ」

ニコニコしながら実家に帰ったアレックス君
しかし、そこには見知らぬ青年と共に食卓を囲む両親の姿があった。
息子が強盗強姦殺人で逮捕された事で両親は酷く傷ついて社会的地位を失いながらも養子を迎え入れる事でどうにかバランスを取って生活していたらしい。

居場所が無い事を悟ったアレックス君は街を彷徨うが、インガオホー
居場所が無いモノ仲間のハズのホームレスにはボコボコにされ、助けに入った警官は昔イジメていた部下で、半死半生で助けを求めた家はかつで強盗に入った民家であった。

度重なる自業自得理不尽な暴行にとうとう自死を選んでしまう。
そして、死にかける事によって大きなニュースとなり
両親は主人公の元にかけつけ
彼は「治り」
彼を苦しめるルドヴィゴ療法を勧めた政治家が訪れて生活の補償を申し出てくれる。
今後の明るい生活を示唆しながら映画は終わる。

映画を見た感想

テーマは色々あるだろうが、見た直後に出た感想としては「新しいモノ=科学への疑いと不安」だろうか。

宗教>科学という価値観

作中で何人かの大人が言及する「うさんくさい科学療法」は実行するべきではない、刑務所のプログラムを通じて気長に矯正するべきだ。
または、聖書を読み聞かせて讃美歌を歌い、愛を知ることで人格は修正できる。という主張を肯定する内容の映画になっていて、厳しくて善良な大人の忠告を無視したアレックス君は近道を選ぼうとしてより苦しい方向へと落ちていった。

アブラハムの宗教の影響が根強い国では聖書を学び、愛を知ることで善人になるというプロセスは外せないものなのだろう。宗教を否定して科学で問題を解決しようという機運にまったをかける映画になっていると思う。
100%イメージで語って申し訳ないがこの映画が公開された当時オジサン、オバチャンは科学によって効率化が進んでいく世の中に不安を抱いていたのだろうなと言うのが伝わってきた。

因果応報の構造

アレックス君は物語の後半で非常に辛い目に遭う
科学治療・ルドヴィゴ療法が如何に人権を踏みにじるおぞましいモノであるかを表現する為には被験者をケチョンケチョンにイジメる必要がある。
しかし、普通の視聴者はある程度の正義感があるのであんまり人が虐められているのを見ると気分が悪くなってしまうものだ。

だからこそ、アレックス君は前半パートでは極悪非道の死んだ方が良いクズとして視聴者に嫌われる為にこれでもかと悪事を働いた。
私の好きな漫画の登場人物に「やってない犯罪は殺人だけ」という恐ろしい悪人が居るがアレックス君は最後に殺人までやっているのでそれよりも悪人だ。(彼はワザとではないと言っている)

後半に虐める為に前半で悪人として描写する。
視聴者はアレックス君が刑務所に入っている間は「まぁ、悪人だし当然」と思い、ルドヴィゴ療法を受けている間も「自分で選んだことだし」と受け入れる。そして、退所後のパートで流石に可哀想になってくる。
最後に救われる事で観終わった後のめでたしめでたし感が生まれつつ
やっぱ、悪いことしちゃいけないし、科学や薬に頼らずに真面目に宗教守って精神を向上させるのが大事やな。って思いながら映画館を出ていく。

そんな構造だけど、ちょっとまった、本当にめでたいか?

舞台背景

恥ずかしながら、原作未読であり英語は中学2年レベルであり、字幕で観たので舞台背景に関してはググった話が含まれている。

字幕で見ていると「ドルーグ」や「デボチカ」「ホラーショー」という単語が出てくる。なんで和訳しないんだ?と思いながら見ていた。
この映画が和訳された当時には開設の要らないカタカナ語だったのか、時代背景に合わせたスラングで雰囲気を残す為にわざとスラングのままにしてあるのかな?と思っていた。

その予想は半分当たりで、どうも舞台設定として共産主義国家の影響を受けた架空の国だった為にそれを表現すべく英語の会話を基本にしながらロシア語の響きを持った造語を散りばめられていたらしい。
1984でニュースピークを喋っていたのと同じだろう。
保守的な人々は英語だけど使い若者は混ざった言葉を使う。
年齢層による分断の表現なのかもしれない。

そう、まったく意識してなかったが時計仕掛けのオレンジはSF作品だったのだ!!

という訳で実は「共産主義の息のかかった世界」だった本作品
決定的なのは元不良少年が警察官になっていたシーンで、驚く主人公に対して「就労年齢に達して警察官を選んだんだ」とにやにやしながら答える所。

この映画を見ていた人達にとってはある種の救いとなるシーンではないだろうか。

若者が麻薬をキメて街で暴れまわったり
自分達の理解の追い付かない極端なスラングを連発し
街には浮浪者が溢れ
警察官も刑務官も人を虐める怖い奴らで
政治家は犯罪者に賄賂を渡し
政治家に対抗する活動家は市民の死を歓迎し
科学者や医者は患者をモルモットとして扱う

こんな地獄の世界が自分たちの国がモデルだなんて耐えられませんもんね
これは共産主義の混じった近未来のSFであって私とは関係ない
そんな言い訳も用意してくれる。素晴らしい。

原作を読むかと聞かれたら多分読まない。
私はターゲットとなる人々からちょっと外れているのでクリティカルな衝撃は味わえないからだ。
作中でアレックス君が自殺未遂した瞬間に世界中の人が優しくなるけど、これってキリスト教的な価値観で自殺が最大級のタブーで死後の安寧をすべて投げ捨てる最悪の選択だからこそ自殺未遂するまで追い詰められた事に同情が集まってる。
でも、平成の日本で育った私にとってそこまでの忌避感のある行動ではなくて自殺未遂のカマッテちゃんにメディアが集まって行くのを見ると嫌悪感しか湧かない。
まぁ、逆に言えばターゲットから外れているのに楽しめたので間違いなく名作と呼べる映画だと思う。


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