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漆と硝子を融合させる

『包 -TsuTsuMu- 』を製作するきっかけや思いなどを、文章にしました。

一筆書きで書いたので、まだまだ修正していくつもりです。
長文ですが、読んでいただけたら嬉しいです。

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「漆器」というと、木に漆を塗ったお椀を思い浮かべる人が多いだろう。
もしくは、蒔絵が施された重箱を思い浮かべるかもしれない。
 
漆に造詣がある人なら、麻布を漆で貼り重ねた芯材に漆を塗る技法「乾漆」もご存知のはず。
最近は、ガラスに漆を塗った器を目にする機会も増えてきた。
 
芯材の素材は違うが、「漆以外の素材を芯材にして、その表面に漆でコーティングしたもの」という点は共通している。
 
ここで、少し目線を引いて、漆器以外の器について考える。
 
「陶器・磁器」の芯材は「陶土・陶石」、「木製器」の芯材は「木」、「ガラス器」の芯材は「ガラス」である。
芯材の素材が、器を分類する名称となっている。
ここが、漆以外の素材を芯材にして、その表面を漆でコーティングした「漆器」との大きな違いだと考えた。
 
漆だけで器をつくるきっかけになった。
 
漆器には幾重にも漆が塗り重ねられている、と聞いたことがあると思う。
なぜ漆は幾重にも塗られているか。
 
その大きな要因は、漆は厚塗りができないためである。
 
漆は水分が蒸発して“乾く”のではなく、湿気に反応して“硬化”する。
つまり空気に触れている部分だけが硬化するため、厚塗りができない。
条件にもよるが、1回の塗り厚は最大で約0.05mmなので、漆の層を厚くするためには、漆を塗り重ねるしかない。
 
漆を塗り重ねることで、より滑らかで強固な漆層となり、美しさも増すのである。
 
余談だが。
0.05mmはとても薄いのだが、塗料としてはしっかりとした厚みがあるとことも付け加えておく。
 
漆だけで器をつくる場合も“漆は厚塗りができない”という条件は常に同じである。
鋳物のように、漆を型に流し込んでも中心部まで固まることはない。
できることは、漆に漆を塗り重ね、少しずつ厚みを増やすことだけ。
1回塗りが0.05mmなら、2回塗り重ねれば0.1mm、3回塗り重ねれば0.15mm、4回塗り重ねれば0.2mmになる。ただそれでは、当然ながら強度が足りない。
漆の塗り重ねを延々と繰り返し約1mmの厚みにしたとき、漆だけで自立する器としての強度を保てることを確認した。
 



更に、漆でつくった器の中に硝子を包み込んだ。
漆と硝子、その特徴は異なる。
 
漆は不透明、硝子は透明。
漆は柔らかい、硝子は硬い。
艶や輝き。
感じる温度。
有機、無機。
 
異なるものが組み合わさると、それぞれの良さが際立つ。
そこに、主従はない。
お互いが共生している。
 
芯材のない、薄さ1mmの漆の器は、漆器でよく使われる「堅牢」という言葉は似合わない。
ただ、決して弱くない。
 
華奢で儚く見えるその姿には、漆がもつ「しなやかな強さ」を秘めている。
 
漆とガラスが融合して器『包 -TsuTsuMu- 』は、そんな器です。

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漆作家 武藤久由 HP
https://urushimuto.com

オンライショップ
https://urushi610.thebase.in

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