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変半身 村田沙耶香

読み進めていくうちに、だんだん不安になっていき人間が何なのかわからなくなる


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ネタバレ注意!!


友人が、今、日本で一番尖っている作家は村田沙耶香だと言ってたのを思い出した
これを読むと、私も賛同するしかなくなった
この小説は怖い。
どんなホラー小説よりも怖い。
気がつくと骨の髄まで村田さんの思考が文章がしみ込んできて、背骨とか脳みそとかガクガクされてしまうのであります
人間って何やろと真剣に考えてしまった

千久世島という離島で育った陸は、そこがすべてだった
そこには、ボーボー様という神がいて、ボビ原人の子孫で、秘祭モドリを行っていた
陸の初恋の男の子が生贄になり、みんなに殴る蹴る棒を尻に突っ込まれるという虐待にあう中
彼らは全裸で、まぁ、フリーSEXみたいになるのである
それが嫌で、陸と友人は儀式の途中、生贄の友人を連れて逃げ出すのだった

早々に島を出た陸は、夫と知り合いセレブ妻となる
だが、このセレブ生活は虚像。
旅行の強制、夫は愛人を無理に作らされ、住みたくもない一等地に住み
つまり、セレブのイメージを創り出すような生き方を強制されている
そういう会社を夫は有名カリスマプロデューサーとやっていた
すべては嘘まみれの生活

そんな時、島時代の親友と再会し昔のことを思い出す
島の奇習のルーツなどが読者にもわかるように説明される
あの嫌だった秘祭モドリ
20年くらい前に青年団が作った捏造だった。
エロい雑誌を見ていて、島の処女とやりたいと思った彼らが、こういう秘祭を村おこしとして考えたらしい

友人たちと合流し陸は、久しぶりに島に戻るとボーボー様も村の歴史もなくなり、新しい歴史が・・・
観光客がいっぱい。
プロデューサーという男が村おこしの為に仕掛けたものらしい

歴史も世界も何もかも捏造し改変され
最後は、復活した秘祭モドリで陸の初恋の人が卵を産む
何たら手術の結果だった
いや、僕たちは「にんげん」ですらないXX星人だ・・・
みたいな、もう何もかもが嘘で信じられないという物語

確かに、歴史は過去に改変を繰り返している
中国の歴史書は、次の政権によって作られるので歪曲されていると聞いたことがある
織田信長が非道に描かれるのは、秀吉が作らせた歴史だからで、秀吉の晩年が狂人のように書かれているのは、次の家康が書かせた歴史だったのは有名な話しだ

歴史が捏造され微妙に改変されているのは確かだが、現実だってそうなのだ
ブームは誰かによって作られる
ベストセラーですらそうだ
良い物が売れない、美味しくない店に行列ができる
タピオカが・・・、関西で阪神タイガースが・・・、木下優樹菜が・・・
何が本当で嘘なのかわからない
ヒーローや、支持率だって後ろにフィクサーがいるのかもしれない
XXの美味しい店ランキングは嘘くさい
そんなのたくさんある

この小説で言うところのプロデューサー的な人がいるに違いない
世界も歴史も今、この世界のイメージ、人、モノ、店・・・、すべてがプロデュースされキャラづけされ、この島のように歴史が改変され、嘘の名産物や嘘の歴史が、イメージが生み出される

僕たちが人間で、ダーウィンの進化論は正しくてという考え方
これだって、本当はどうかわからない。
宇宙から来たのかもしれない。

世界は不確かなことで溢れていて、何が真実なのかわからない
人間なんてしょせん、何かを信じたがっている存在なのだ

この本を読んでいると、そんな気分になってくる。

陸は、ボーボー様を信じていた時、こう思っていた

何かを信じるということは、何も考えないということだ。
・・・あの頃は楽だったなぁと・・・
そう信仰は思考停止と繋がるので楽なのだ

こうも言っている

ボーボー様を信じたまま死んでいれば、何も知らなくて良かった。今は、私が信じていたすべてのものが汚されていて、汚れていないものを自分の人生にほとんど見つけることができない

まるで禁断の実を食べたアダムとイブのようなのだ
真実は厳しい。思考停止の状態の方が楽だ。
真実だと思っていた印象が誰かに作られたものだったり、歴史が歪曲されたり、真実が歪んで伝えられたり、確かに、そうなのだけど・・・

ボーボー様を懐かしがっている

「ボーボー様に叱られるよ」
悪いことをすると、両親も大人もみんな、口を揃えてそう言った
・・・それを言われると怖くなって多くの子が悪戯をやめた
・・・「観光地として盛り上がらない」という理由で、ボーボー様を捨てていいのだろうか?


榊プロデューサーは捏造した歴史や特産品を作り、村おこしに成功した
観光客は喜んで、この嘘の歴史を信じた

何かを知るということは快楽なのだ。それが大嘘であっても

陸は自分のことをこう言っている


私って「入れ物」なんですよ。外から入ってきたもの、全部、私の中に入っている。私の内側から発生したものなんて何1つないんです。単なる入れ物なんです
「いや、みんな、そんなもんしょ・・・」
私という入れ物にも、どんどん新しい真実が入ってくる。戸惑いながらも私は、いつの間にか「真実」として渡されたものを受け取っている。真実は更新され続ける。


陸はすべてを信じている子供に叫ぶ

真実っぽいものを飲み込め!、世界中の詐欺師に騙されろ!

まるで、自分に問いかけているかのようなセリフだ

みんな自分に都合のよい嘘を信じるんだ。人間って、そういう仕組みなのかな
そうかもね、新しい真実を信じる時、人間の頭はクラッシュする。その瞬間だけが本当に「無」になれる時なのよ。次の瞬間には新しい信仰が始まっているんだから・・・

これが結論なのかな

なにも信じずに生きていくことができるって、本当に思う?
信じないことを信じているだけだろ?
なにも信仰せずに生きていくことなんてできないんだ、僕らには


頭の中がくだぐたになった
村田さんは凄すぎるよ
この本を読むには勇気が必要だよ


2019 12/31

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