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長野県松本市の藤原印刷を訪ねたら、素晴らしさを再発見できた話

松本を散策して「白線流し」を思い出す


少し前にスピッツのドキュメンタリー映画「優しいスピッツ」を見る機会があった。劇中、この曲をライブでやるの久しぶりだねえと草野マサムネがつぶやき「空も飛べるはず」を演奏しだした。久しぶりに聴いたけど、なつかしいメロディーにふれた途端、この曲が主題歌だったドラマ「白線流し」のロケ地でもある松本の町並みが思い浮かんだ。

そういえば、「松本が好きだ」と言い続けて5年ほど行けてない。少しだけ仕事が落ち着き、時間ができたので日帰りで松本に行くことにした。

松本まで会いたい人に会いに行く日帰り旅


「まつもと~ まつもと~」。松本駅に着いて、JR独特ののどかな駅名アナウンスを聞き、11月の長野らしい一段と冷たい空気に触れると、ずいぶんと遠くまで来たなと思う。同時に、大好きな松本の町並みや景色を見れると思うと胸が高まっていく。

藤原印刷の兄に再会した日


松本に行くと決めて、まず顔が浮かんだのが藤原印刷の藤原(兄)さん。直前の連絡にも関わらず、忙しい合間をぬってお昼をともにすることができた。久々に会う藤原さんは、飲み会の陽気な印象とも少し違って、精悍な顔つきだったけど、たくさん密度の濃い話をすることができた。ありがとう。

藤原印刷さんについて。独立系書店やクラフトZINEが好きな人なら、ご存じの方も多いと思う。この本はちょっと変わってるなと思ったり、装丁から本に宿る想いが伝わってくる時がたまにあるが、そんなふうにパンチの効いた本は、たいてい藤原印刷が関わっている。

青山ファーマーズマーケットから創刊した雑誌『NORAH』。表紙や印刷された紙が何十パターンもある (画像:藤原印刷オンラインショップ)
パンと日用品の店の「わざわざの働き方」。オーナーの平田さんが写真も記事も、すべて1人で作り上げた魂の本。(画像:藤原印刷オンラインショップ)


他の印刷会社では断られるような難しい印刷でも、藤原印刷なら受けてもらえると評判を呼びほぼゼロから始めた自費出版の事業が今では10年前と比較して300倍もの売上に。

最近では「作り手の熱量が込められた本づくり」をクラフトプレスと名付け、そのコンセプトを発信している。

本社工場を解放したオープンファクトリー“心刷祭”を開催したり、例えばTSUTAYAで藤原印刷さんの特集が組まれたりと、日本の印刷会社でここまでエッジの効いた会社はないと断言できるほど。

インドのハンドメイド出版社、タラブックスと藤原印刷は似ている

ところで、僕は4年ほど前に、タラブックスというインドの出版社の印刷工房を訪れた事がある。10月なのでそこまで暑くはなかったが、飛行機を乗り継いで、タクシーで路地に入り込みながら、予定よりも遅れて到着した。

滞在時間がわずか1時間ほどになってしまったが、印刷から製本まで、すべての工程を手作業で仕上げていて、本が作られる工程を間近で見てとにかく感激した。

最新鋭の機械があるわけでも、工房内が整然としているわけでもない。寝食を共にしている仲間が集まってもくもくと作業をしているのが、日本の町工場の雰囲気と似ていて、親近感を抱いたのだ。

タイミングよく、僕が訪れた日に、日本語版の絵本を仕上げている途中だった。

訪れた時はちょうど日本語版の太陽と月をハンドメイドで作っていて工程を見る事ができた
1冊ずつ作られていくのを見ることができて感動
紙とインクの匂いが立ち込める工場にテンションが上がった

日本にいつ頃輸出されるのか確認して、数か月後に書店に並んだのを購入した。今でもタラブックスの本は宝物として、家に飾ってある。

タラブックスは今や日本でもさまざまなフェアが組まれ、世界的にも有名になった。なぜタラブックスの話題を持ち出したかというと、藤原印刷もタラブックスと同等のポテンシャルを秘めていると個人的には思う。

藤原印刷から出版された本は商業出版で何万部と刷られる本とは一味違う。一つ一つの本に味がある。その秘密は、今回の松本の旅で、藤原印刷の工場を少しだけ見せてもらい、藤原さんから直々に説明を受けて、少しだけ理由がわかった気がする。

藤原印刷本社訪問


藤原印刷さんの本社に着くと、想像よりも大きな建物で、少し驚くと同時に、その佇まいから歴史と文化的な匂いを感じた。

社屋を見ると、整然としながらも、緑がいっぱいで温かみのある建物から、いい会社だなぁと容易に想像がつく。

いい会社感満載の、本社外観。

工場の中を少しだけ見せてもらう機会をいただいた。海外の最新の印刷機械から国内の老舗メーカーの印刷機まで置いてあったが、工場内のちょっとした扉の開け閉めで工場内の気温や湿度が変わってしまうそうだ。そうすると印刷の色もその時の状況によって微妙に変わってしまう。(そうならないように、湿度管理も徹底している)

日々当たり前のように大量に印刷される本は全てが均一に作られるのが当たり前だと思っていたがそうではないと気付かされた。

だからこそ同じ本が並んでいても違った雰囲気に見えるのだろう。藤原印刷のメッセージに「心刷」という言葉がある。その名の通り、心を込めて印刷をするという意味だが、一つとして同じ本がない中で本をある意味農作物のように、生き物として扱っている印象を受けた。

うまく伝えられないが、藤原印刷が関わる本から本の匂いを感じて、読んでいると本を作る裏側や背景が景色として浮かび上がってくるのだ。

だから僕は藤原印刷さんが関わる本が好きなんだろう。藤原印刷が関わる本はどれも、良い意味でクセがある。僕が昔、何気なく手に取ったユニークな本も、よーく見ると藤原印刷によるものだったと今さらながら驚かされる。

窓から差し込む光と本の並びが美しい栞日


藤原(兄)さんに、地元民しか行かない蕎麦屋さんに連れていってもらい、ランチを共にして別れた後、松本市内を散策した。以前からずっと行きたかった「栞日」というブックカフェに立ち寄った。

二階の書店兼カフェスペースでは、藤原印刷コーナーと呼んでも良いくらい、たくさんの本がおかれていたし、「おなじみの藤原印刷さん」というPOPで紹介されているのを読んで何だかとても嬉しくなった。

おなじみの藤原印刷さんコーナー。サブカル系の貴重な雑誌を購入できた。
窓から差し込む光と本の並びが美しい
表紙がダンボールでできている本まである。圧巻の佇まい (画像:藤原印刷オンラインショップ)

藤原印刷の本に触れれば、きっと本社工場に行きたくなる。普段、藤原印刷さんは工場公開をしていないが、本社工場を開放して行う「心刷祭」が毎年あるので次のタイミングでぜひ参加してみたい。

本社工場聖地化計画

とめどなく書いてしまったが、藤原印刷さんは本の可能性を最大限に引き出す印刷会社だ。日本国内だけでなく、グローバルに発信したら世界各国からも訪れる人が増えるだろうし、本社工場が聖地になる日も来るんじゃないかと。
藤原印刷の『本社工場聖地化計画』を勝手ながら妄想して実現してみたいと思った。そんな話を藤原さんと話して1人でわくわくしてしまった。
せっかくなので、今回のnoteも海外向けに英語で伝えていこうとも思っている。

余談

ブック&カフェ「栞日」では、イケウチオーガニックのタオルも販売している。こんなにセンスの良い書店でタオルを取扱いただいて嬉しい。ちなみに「栞日」は1週間以上の滞在が条件になるが、宿泊もできる。ここのタオルも確かイケウチオーガニックだったはずなので、松本に行かれる際には「栞日」を起点にしてみてはどうだろう。

銭湯菊の湯も栞日さんが運営。栞日でイケウチのタオルを買って、銭湯で使うのもおすすめ。

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