虫歯

こんなに痛いのなら誰かもっと忠告しておいてくれよと憤りを感じた。それ程に悶えながら、どうにか耐えていた。幾らネットで調べた応急処置法を試そうと、この痛みが収まる気配なんて無くて、所詮私の痛みなんて誰にも理解出来まいと絶望を感じるのであった。しかし、こんなに痛いのは生まれてこの方あまり経験した試しが無かった。痛みの根源とやらを自分一つの脳みそで探ってみる事にした。布団に入り、仰向けになり、深く深呼吸をする。痛みの原因は勿論歯だ。けれど歯というと歯茎についている白い固体のものの事を指すと思うが、痛みの正体はこいつではなく、神経だ。目に見えない神経から痛みがきているらしい。これまた絶望を感じた。目に見えない何かに痛めつけられている。しかも外部からの衝撃ではなく、私自身の体が私を痛め付けている。いくらなんでも許せなかった。今まで私は、他人に裏切られる事はあっても、決して自分を裏切った事は無かった。そう。自分だけは自分を信じてやらねばという気持ちが人一倍強かった。それがどうだ。私は今、私自身に、私の細胞、神経とやらに真っ当に裏切られているではないか。ただ、遡って考えてみると、虫歯の原因は何だっただろう。無論、歯磨きをしなかったからに決まっている。私は思わず微笑した。そうか。毎日欠かさずに歯磨きをしなければいけないという使命があるにも関わらず、私はその時限りの怠惰に負け、使命を果たさなかった。そうか、そういう事か。

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