日本特許を超す中国特許の価値

僕は、特許の売買の仕事もしていますが、特許の価格を決めるのは、その国の侵害事件の損害賠償金の平均値です。
それと同時に、その国の知財の裁判制度にも影響を受けます。
つまり、特許を買う側からすると、損害賠償金が高くて、かつ、積極的な訴訟戦略が練りやすい国の特許が高額化します。

日本の特許は、この両方の要素を満たさないために、特許をとっても数十万円くらいの価値しかないケースがほとんどです。
つまり、出願費用を超えないんですよね、残念ながら。

中国の今回の戦略変更

この点で、中国の今回の戦略変更は、積極的に中国特許の価値を、明らかに上げようとしています。
具体的には、中国の知財高裁である最高人民法院知的財産権法廷は成立 2 周年を迎えたのですが、その活動内容が、最近、新聞に発表されました。

この 2 年間に、中国の知財高裁は案件を 5121 件受理し、4200 件を審結し、結審率は 82%だったそうです。
このうち、2020 年に 2787 件を審結し、2019 年より 1354 件増え、95%近く伸びているようです。

審理の内容から見ると、2020 年には、裁判所が民事二審の案件のうち、1742 件に審決を下しています。
残りは、調停による訴訟取下率が36%なので、多くの場合は、和解が成立したために訴訟の取り下げをしています。

再審または判決変更による結審件数が 339 件なので、1審から2審の変更率は 19%程度です。
つまり、知財高裁の判決の有効性は、80%を超えています。

訴訟手続きが速すぎる、ロケットドケット

審理の効率化から見ると、2020 年には裁判官一人当たりの審結件数が 82.5 件で、平均審理期間は 123 日間でした。
つまり、およそ4カ月で審理が終わってしまうんですね。
中国の場合は、知財案件は2審制なので、3審制を採っているほとんど国よりも、早く決着しますよね。

特に、知財の民事事件の平均審理期間は 、現状で121.5 日間で、他の裁判所の平均審理周期に比べて、明らかに短縮されています。

これを聞くと、アメリカで特許訴訟を経験された方は、ピンときますよね。
アメリカは、かつて、テキサス州の東地区が、とても知財の訴訟手続きが早いので、世界中の知財訴訟が集中しました。
あまりに、訴訟手続きが速すぎるので、ロケットドケット(裁判所の書類にロケットが搭載されている)と呼ばれていました。
つまり、いまの中国は、ロケットドケットをやろうとしていると思います。

アメリカを参考した知財戦略

テキサス州の東地区は、訴訟案件が集中しすぎて、訴訟手続きがロケットのようだったのは最初の4-5年でしょ、すぐに中国も知財訴訟が頻発して、今のアメリカのようにプロパテントの行き過ぎを是正するんじゃないの、と思うかもしれません。
それでは、なぜテキサス州の東地区は、ロケットドケットをやろうとしたのでしょうか?
ロケットドケットの始まりは、実はバージニアなんですね、テキサスではないんです。
でも、当時のバージニアが、知財訴訟のメッカになって、法律関係者がとても潤っているのを見て、テキサス州の東地区も、ロケットドケットを始めたんだろうと思います。

僕は、当時、テキサス州の東地区に、知財訴訟の関係で、何度も訪問しました。
驚くことに、すごい田舎町なんですね、何もないといっても過言でもないくらい。
同じテキサス州でも、ダラスとかオースティンとかサンアントニオとは、比べ物にならないくらいの田舎です。
つまり、町を潤すために、このような政策を行ったんですね。
テキサスには、4つの裁判管轄地がありますが、一番貧しい東地区が、このような政策を取ったんですね。
しかし、裁判所も裁判官も、田舎なので限られていましたから、すぐに一杯になったんですね。

知財で、国起こしを、しようとする中国

一方で、中国は、国ぐるみでやる訳ですよ。
テキサス州の4つの内の1つの地域という訳ではなくて、国ぐるみの町おこしですよね。
もう、国おこしです、日本が小泉政権でやろうとして、腰砕けになってしまった知財立国ですよね。
いま、それが、中国で起ころうとしています。

特許の価値を決めるのは、その国の侵害事件の損害賠償金と知財の裁判制度です。
つまり、特許を買う側からすると、損害賠償金が高くて、かつ、積極的な訴訟戦略が練りやすい国の特許が高額化します。

中国は、米国の知財マーケットを詳しく調べていて、明らかに知財の価値を上げようとしています。
日本は、もはや特許の出願件数では中国の足元にも及びません。
今後は、特許の価値も、足元に及ばないことになるかもしれません。

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