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Musubi Trip ~むすぶ・生まれる~①

多くの人が「好きな言葉」を持っていると思う。語感が好きとか、意味が好きとか、なんとなく好きとか。理由はそれぞれあると思うが、きっと「好きな言葉」がある人は多いと思う。

私の好きな言葉は「ムスビ」。
皆さん知っての通り、何かと何かを「結びつける」の「ムスビ」という言葉が好きだ。
さほど珍しくもない言葉。日常的に使うことも多いだろう。

ただ、私はこの言葉にちょっと違う意味を感じている。その意味を発見した時に「ムスビ」という言葉が私の中で特別になった。その意味を発見したのは私が大学生の頃にさかのぼる。

大学を卒業するために必要なことといえば「卒業論文」をしたためること、というのはある程度一般的なはずだ。私の卒業した大学でも卒業要件の一つに「卒業論文」提出が入っていた。「卒業論文」を書く上でまず考えなければならないのは、「何をテーマにすればいいか?」ということ。これに多くの時間を費やし、頭を悩ませ、決まったら一気に書き上げた、という人も多いのではないだろうか。

私は日本思想史という学問を専攻していた。聞きなれない人も多いと思うが、簡単に言うと「日本人のものの考え方」を学ぶ学問のことだ。個人的には昔から民俗学や文化人類学など、人間臭い学問に興味があった。昔の「台所」や「トイレ」といった人間の営みに関係するものには興味深々でわくわくする。もちろん昔の人にまつわる「モノ」だけでなく、その人の考えていた「コト」にも興味を持っている。幸い、大学に入学しその道の学問の教授と縁があり、日本思想史を専攻することに決めた。

日本思想史の授業ではさまざまな文献を読む。文献の中から根拠を見つけ、「昔の人は〇〇を★★のように思っていたのではないか?」と推論する。『万葉集』のような、古の人の心を直接的に述べた和歌から推しはかることもあれば、『風土記』のような過去の記録から読み取ることもある。推察したことが正しいかどうかについては、過去の人に会うことができないからあくまで自己満足であり、本当のところはわからないが…。

卒業論文を書くにあたり、何をテーマにすればよいかと例によって私も結構頭を悩ませた。個人的に興味があった文献は日本最古の歴史書といわれる『古事記』。この中から何かヒントはないかとペラペラとめくっていた記憶がある。

何がきっかけだったか忘れたが、ふと神様の名前の中に「霊」という漢字が使われていることに気づいた。「霊」と言ったら今でいうと幽霊を思い出してしまうが、「たま」と読ませることもあるらしい。日本に漢字が輸入される前からあった日本語に、漢字の持つ意味に近しいものが当てがわれたというのが一般的であろう。昔は「霊」という言葉に今よりも多くの用法があったということが考えられる。

「たま」と聞いて連想したのは「たましい」=「魂」。このことがきっかけで、太古の日本人は「魂」についてどんな考え方を持っていたのだろうという疑問を抱いた。卒業論文のテーマは「古代日本人のたましい観」に決めた。

古代の文献には「たま」という言葉を時々見かけることができた。今と同じように死者の「魂」という意味で用いられることもあれば、自分自身に宿る何かを「魂」として理解している様子を見ることができた。「魂」が肉体から離れると死が訪れ、肉体にとどまっていると生を保つことができる。そんな認識は、現代の私たちもなんとなく、信じるか信じないかは別としても、そのような考え方があるのは知っている人も多いだろう。

日本には歴史上様々な文化や思想が流入してきたが、日本文化には「重層性」という特性があるらしく、古神道というアニミズムの時代から育まれてきた昔ながらの考え方を土台とし、その上に様々な宗教や文化の考え方が積み重なっているため、今の時代においても古の考えを理解することができる、ということだろう。

このへんまではなんとなしに感覚として今でも理解できる。過去を捨て去り、焼却することなく、過去を土台として積み上げていった先人たちのお陰だと思う。そんな中、文献を読んでいるとある言葉に目が惹きつけられた。

それは古事記の中で述べられている、日本の伝承の中で一番最初に生まれた神様の次の神様の名前。神産巣日神。これ、なんと読むかパッとわかる人!残念ながら私はフリガナにすがるしかなかった…。この神様の名前は「カミムスビノカミ」と読む。この記述は古事記によるもの。しかし、同じカミムスビノカミを違う文献、風土記で読むと「神魂命」と記述している。「命」はミコトと読み、神様や人の名前に対する敬称としてつけられる。「~ノカミ」と「~ノミコト」はニアリーイコールの関係なのだろう。

ということは、カミムスビに対して、古事記では「神産巣日」、風土記では「神魂」という漢字が当てられているということになる。つまり、「産巣日」=「魂」ということ?古代の人は漢字を輸入してきた時、もともとあった日本語に似た意味を持つ漢字を当てはめた。ということは、ムスビという言葉は魂という言葉と同じ意味を持っていたのでは…。

その②につづく。

ちはや ふみ


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