挫折という経験の後に、わずかに残ったもの【ポールプリンセス!! 楽曲解説 南曜スバル編】
注)楽曲は案件ですが、記事は案件ではございません。無許可で書いています。
『ポールプリンセス!!』という作品、および楽曲『Avaricious Heroine』についてはこちらの記事を、
楽曲『マジカル⭐︎アイデンティファイ〜3・2・1の魔法〜』についてはこちらの記事をご参照ください。
mustie=DCです。
今回はこちらの楽曲『リメイン』について解説します。
作編曲は塚越廉さんという方が担当されており、CVの日向未南さんのパワフルな歌唱とバッチリはまっためちゃくちゃカッコいい曲になっています。
そんな楽曲に、光栄なことに作詞でお手伝いさせて頂いており引き続きえげつないプレッシャーの中書かせて頂いたのですが、
今回はその歌詞について解説させて頂こうと思います。
解説の前に…
南曜スバルとは何者か
まずは公式サイトの紹介を見てみましょう。
初登場回はこちら。その後の出番も総括するとこのような特徴が言えます。
『ポールプリンセス!!』という作品には、魅力的なキャラクターが多数登場します。
私が担当させてキャラで言えば、ミオはその素直なオタクっぷりが大変微笑ましいですし、サナはあざとさの中にも隠れた実力が伺える只者ではなさに惹かれます。
そんな中でも、血の通い方がマジで尋常じゃないのがこのスバルになります。
長年の努力が怪我で全て水の泡になり、諦観の気持ちでピザ屋のバイトをし、それでも腐る事なく再びリスタートする芯の強さを持ち、後輩達の運動能力もしっかり認めている…。
作中でも、いい意味で人間味に溢れたキャラクターだと思います。
あと(これは読み飛ばして頂いて構わないのですが)、私自身も何度か挫折を経験しています。
いっそ消えてしまいたい、今までやっていた事を忘れたい…そういう気持ちがちょっと分かってしまいます。
なので作詞の目標としては、以下のようなものを設定しました。
また、楽曲がかなり現代的なサウンドをしているので、
私も昨今の傾向に倣って「必要な場合を除き、極力英語を使用しない」事に留意しました。
というわけで前置きは以上です。ここから解説を始めていきます。
彼女が見ていたかもしれないもの
※前回の記事ではタイトルから触れましたが、今回は後ほど解説します。
さていきなり英語が3つも登場する異常事態ですが、一応この表記でないと出来ない表現があるので使っています。
歌い出しとは、つまり曲の中で最初に耳に触れる部分です。
なので印象的で、かつ共感性の特に強いフレーズを入れ、スバルというキャラクターを曲を聴く人々に寄り添わせたいと考えました。
そのためには、スバルと同様に何かの分野で挫折した人たちが、その経験から想起できるワンシーンを歌うことが良いのではないかと考えました。
例えばラブソングの場合「メール(最近はLINE等)の返信を待つ」などのシチュエーションを歌ったものがありますが、それに似たものです。
それでは、一番最初の「トレンド」とは何のことでしょうか。
ファッションの流行の事ではありません。
それはSNSのトレンドです。
自分が立つはずだった憧れの舞台で活躍し、話題になっている人…
夢を諦めた人にとって、夢を叶えた人の存在はどうしても心に影を生むものです。
そこから思わず目を逸らし、スリープ(スマホの"スリープ機能"と本人の"睡眠"の両方の意味)してしまえば、
光っていたスマホの画面も、目の前も、真っ暗になってしまいます。
この時のどうしようもない気持ちは、きっとスバルのような挫折を経験した人なら、特に痛ましく感じられるのではないでしょうか。
ただ「風化」を待っていた
そんな苦しみも、耐え忍んでいればいつか忘れられるかもしれません。
前進を諦めた自分を過去のものにして進む時間の中で、
新体操で有望視されていたことも、頂を目指して頑張っていたことも、そのうち忘れられるかもしれないのです。
そうすれば、もう辛いことなんてありません。
ところが、そのままで終われない気持ちもありました。
スバルは心のどこかで、また夢を目指して頑張りたい気持ちを抑え込んでいたのだと思います。
実際、「山はひとつじゃない」というアズミの説得が再起の決め手となっており、
メンバー加入後の4話では以下のように語っています。
自分を照らすものはさまざま
「真上にある照明」…つまりスバルを照らすスポットライトも、そしてスバルが目指していたはるか高みにある希望の光も、突然消えてしまいます。
また、電気を消した自室でひとり落ち込んでいるイメージも含んでいます。
そして、そんな暗闇の中にいて初めて気付くもの…
それが、窓の外に広がる「街を作る無数の光」です。
それは、街ゆく人のために立てられた街灯かもしれないし、
人知れず社会を支える人たちの光かもしれないし、
家族や一人暮らしの人が趣味や娯楽に興じる光かもしれないし、
テレビやスマホの向こうで何かを発信する人たちの光かもしれません。
とにかく、世界を広く捉えることで自分が輝くための方法、そしてその輝きの定義はたくさんあることに気付くのです。
これはアズミに説得されたスバルの心情を、抽象的なシチュエーションで表したものです。
2つのものが重なる時
このBメロは実際の新体操の競技をモチーフにしたいと思いました。(理由は後述)
当初この部分で扱っていた新体操の種目は「リボン」なのですが、それでは若干スバルの印象から離れているとフィードバックを頂きました。
なので別の種目で考える必要があるのですが、スバルの怪我の原因となった種目は(少なくとも作詞時点では)明確に決まっていないとの事でした。
ただ最も近いイメージとしては「段違い平行棒」か「跳馬」との事だったので、
1番が段違い平行棒、2番が跳馬をモチーフとし、それらを「新体操」という概念の代表とすることにしました。
…
さて何度も出てきたとおり、スバルは怪我によって新体操の道を閉ざされてしまいます。
しかし、仮にスバルが怪我をしなかった場合、新体操を続けていた"ifの世界線"…つまり「並行世界」が存在することになります。
そして大事なことですが、スバルは本来その"ifの世界線"に向かうことを目標に努力してきました。
しかし実際は段違い"平行"棒のように、スバルがポールダンスを始める全く別の世界線(本編の世界)が存在したことになります。
そして、スバルはこれまで新体操で培った身体能力をポールダンスに活かし、新体操の世界線を離れ、ポールダンスの世界線に飛び移ります。
※ちなみに段違い平行棒とはこのような競技です。
ここで新体操のモチーフを使った理由、
それは「新しいことを始めても、これまで違うことに努力してきた時間は決して無駄にはならない」という事を表しています。
(ちなみに当初リボンのモチーフを用いていたのは、リボンを世界線に例えて二本のリボンが絡み合うという表現を考えていたためでした。)
また(設定が不明なのでこのような形になっていますが)「あの日」には「新体操をやっていた日々」の他に「事故を起こした日」の可能性を持たせています。
どちらにせよ、スバルは「あの日」のトラウマを乗り越え、新しい世界線へと向かっていきます。
そうして"if"の世界、また挫折によって"畏怖"の中にあったスバルは、
これからポールダンスの道へ進む新しい自分へと生まれ変わっていきます。
ちなみに譜面の話ですが、Bメロ終わりの「変わっていく」とサビの出だし「遥か」はメインメロディが連続しています。(上図の左下)
なので歌詞の区切りをつけるポイントがいくつか考えられるのですが、今回はハモリパートが入ってくるタイミングを参考につけています。
もう一度「私」と向き合う
「遥か空を衝く一筋の未来」とは、言わずもがなポールのことです。
そしてそれは大抵の場合鏡面の素材で出来ています。
(※シリコン製など反射率が低いものも一応あります。)
スバルにとってポールダンスは、再び自分(の本心)と向き合う機会でもありました。
そしてポールを掴むことで、鏡面に映る、つまり一筋の未来の中にいる自分と手を繋ぎ、共に歩んでいくことになります。
そのポールの頑丈さはまさに鋼であり(実際に強度の高いステンレス鋼が素材としてよく使われています)、
ポールと一体になったスバルは、もう二度と「折れ(挫折し)たりしない」と強く誓います。
そしてこれまで運命に振り回されていたスバルが、今度は自分の手で自分の世界を回していく…
このサビでは、そんなスバルの「決意」が見えるような詞にしています。
耳を塞いでいたもの
ここで改めてスバルのキャラクターデザインを見て頂きたいのですが、
よく見ると首元にヘッドホンをかけています。
実は先方より「スバルはヘッドホンを着けているので、音楽を連想する要素があればよりキャラクターらしくなるかも」というフィードバックを頂き、
2番Aメロはそのような要素を取り入れることにしました。
…
「止まる」という言葉。
これは塚越さんが最初の1小節で極端に音数が少なくなる(=ブレイク)アレンジを行っていたので、それに合わせた表現にしようと採用しました。
「ヘッドホンをする」という行為には「外界からの情報をシャットアウトする」という側面があります。
挫折して以降、自分への失望の声や誰かの成功の話を意図的にシャットアウトしていたのかもしれません。
スバルは道半ばで「一時停止」していますが、その耳元で音楽は再生し続けています。
しかし今のスバルは「いつかスピーカー越しに踊る」プレイリストを追加します。
スピーカーとは即ち「ポールダンス会場のスピーカー」のこと。今度は耳を塞ぐためではなく、前に進んだ自分を想像して音楽を聴くことになるのだと思います。
…
また、技法的な話になるのですが、
このように「スペースを開けた前後のフレーズで同じ語句を用いて対比やリズム感を表現する」方法がけっこう好きでよく使っています。
ただし(サビやコールなどで印象付けたい場合を除いて)同じ語句は繰り返さない方が基本的に綺麗な歌詞になるので、この場合「他の言葉で置き換えにくい」か「同じ言葉で意味や指す対象が違う」必要があります。
その答えをすでに知っていた
ここは前述の通り、新体操の「跳馬」という種目をイメージしています。
「かつての自分と同じ方向」=自分の「夢」がある方向。
ここでも「新体操を続けていたifのスバル」と「ポールダンスを始めた本編のスバル」の姿が重なっています。
そして「両手をつく」という行為。
これは一つは手をついて絶望している様子、端的に言えば(死語ではありますが)「orz」の事です。
ところがスバルにとっては「両手をつく」事は「一気に跳躍する」跳馬の動作の一部とも言えます。
たとえ一度絶望を味わっても、それを飛び越えていけばいいことを、スバルはすでに知っていたのです。
自分の運命はこの手で決める
「事故」を辞書で引くと以下の意味になります。
それはスバルにとってどうしようもない、避けようもないものでした。
それが原因で、スバルは気持ちも新体操選手としても「地に落ちていく」ことになります。
ところが、ポールダンスでは「落ちて地に着く」という行為さえ、スバルが思いのままに可能な演技の一つです。
もう誰にも、どんな事象にも邪魔をさせないという、スバル自身の固い意志を表した詞になっています。
同じ傷跡との出会い
「抱え込む」というフレーズ。
それは「悩みを抱え込む」という意味と、新体操の「抱え込み姿勢(宙返りなどでひざを抱えた姿勢のこと)」の両方を表しています。
それらが「得意」…つまりスバルが未だ新体操の道しか見えていなかった時の事を指しています。
自分には新体操しかない、しかしその夢も途絶えてしまった…そんな心に落とした影を、スバルは誰にも話せないでいました。
ところが、そんなスバルの前に「深く刻まれた同じ傷跡」を持つ者が現れ、彼女の人生を大きく変えます。
言わずもがな、それはアズミの事ですね。
忘れても動いていたもの
ここでは伴奏が静かになる(落ちサビ)ので、声を張るようなメッセージではなく、静かに思いを口にするところから入ろうと考えました。
そして「無限°の前」というフレーズ。
これまで新体操の方だけを向き続けていたスバルは、ポールダンスとの出会いによってどの角度も自分にとっての前向きとなりえる事を思い出します。
今まで見えなかった答えが、そのどこかにきっとあるはずです。
スバルはポールダンスで回転する事によって、「目を逸らし続けても動いていた"時針"」に変わっていきます。
これは発音を同じくする「自信」も意味しています。
そしてスバルの中で止まっていた時間が、再び動き出すのです。
新しい道も、支えてくれる仲間も見つけ、
スバルはきっともう「大丈夫」なのでしょう。
消え残ったもの
最後に「リメイン」というタイトルについて見ていきましょう。
リメイン(remain)という単語には、以下のような意味があります。
私は、より近いニュアンスで言えば「消え残る」という意味でこのタイトルをつけました。
事故によって、アスリートとしてのスバルは、経歴・世間的な評判、そして本人の情熱もろとも、世界からさっぱり消えてしまったかのように思われました。
しかし、わずかに心の中に残った思いや決意がアズミの勧誘によって刺激され、形は違えど再出発を果たす事になります。
このタイトルは、そんなスバルの、そしてスバルのような人たちの門出を祈って、付けさせて頂いたものになります。
いかがでしたでしょうか。
これで私が関わらせて頂いた『ポールプリンセス!!』の楽曲解説は以上となります。
他にも名曲が多数揃っていますので、是非一度聴いてみてください。