#今日の映画 『野生の呼び声』(2020)
#今日の映画 は『野生の呼び声』(The Call of the Wild)(2020米100)です。
そうです。昨年公開のすっかりいい老い方をしてしまった我らがイケオジ、ハリソンフォード主演の最新作です。
時は黄金狂時代。南国カリフォルニアの判事の家でぬくぬくと甘やかされて育った大型犬、バックがひょんなことから極寒のアラスカで第二第三の人生を歩むことになる映画です。タイトルから何となく察していましたが、主演といってもハリソンフォードの登場シーンは半分とナレーションで事実上の主人公はこのバックです。
――それは彼が仲間を見つけ、自らの主となり、野生の呼び声を聞く前のことだ。
※この記事は規定値を超えるネタバレと筆者の過剰な妄想を含みます。
登場人物
バック・・・大型犬。今回の主役。
ジョン・ソーントン(ハリソンフォード)・・・イケオジ。息子を幼くして亡くし、世捨て人となる。川で金塊を発見したりする。てか彫が深いから老けた後でも皺と髭が似合うのなんのって、
ペロー(オマール・シー)・・・北極郵便配達人。バックの才能に早くから気が付き、目をかける。いいやつ。
スピッツ・・・ワンコ。バックの元上司であり先輩。
ハル(ダン・スティーヴンス)・・・成金。金のことしか頭にない男。地味にスーツが似合う。今回のヴィラン。
感想
自らがワンコであることを忘れ、金持ちの家でぬくぬくと育てられたおぼっちゃま犬が、ある日突然犬泥棒に誘拐され、初めての体罰やアラスカ、初めての雪によって世界の厳しさを思い知らされる出だしが『ボルト』(2006)ぽかったので、これからこのワンコが冒険を経て無事帰宅する話かと一瞬思ったりしました。
このワンコ、主人の言うことは聞かないし、見知らぬ人間の誘いに乗ってコンテナに押し込まれ誘拐されるぐらいの阿保犬なのに、郵便ソリを引き始めてからはその頭角を現し、その賢さと人望(犬望?)をもって自然と群れのボスになったのはとても良かったですね。というか自分以外の犬を見るのは初めてのはずなのに短期間で成長しすぎですね。私だったら秒でコミュ障発動してクビになってますね。でもそれも、初めは集団行動に慣れなかったバックを見捨てず励まし続けたペローのお陰でもあって、やっぱり褒めて伸ばす教育による自己肯定感の育成って大事なんやなと思いました。
もともとこの郵便ソリのリーダー犬だったスピッツは、これまでの自分の流儀で威張ってただけなのに、よくわからん新入りの方が人気者になったのはそれは怒るだろうし、よくあるプロットですよね。でも、最後タイマンに持ち込んで負けて去って終わり。じゃなくて、雪崩に巻き込まれそうになった郵便ソリ一行を洞窟に導くことで救ったり、その後もちょくちょくバックのことを見守ったりしてたあたりが、一概にスピッツを完全な悪役としておらず良かったですね。(いかにも日本人が好きなパターンではあるけど)なお原作ではスピッツはほかの犬に噛み殺される模様ですが、、
でもこのスピッツとの一騎打ちをした段階ではバックはまだ野生に戻り切ってはいなくて、その後森で魚やら鴨やらをハントしているのを考えると、この直前のウサギへのタッチが非常に柔らかで、ウサギ追いも遊びの一部としてとらえてたみたいですよね。そう考えれば、直後にスピッツがウサギを仕留めてしまったのは、彼の残忍性や悪玉としての格を示すためというよりも、野生度としては彼の方が上で、その意味でもバックの先輩だったことを示してるっぽいですよね。
いかにもディズニーのファミリー映画っぽいなーと思ったのですが、そういえばこの映画は制作・配給の20世紀フォックスがディズニー傘下になってから最初に撮られた映画でしたね。
結局この映画は、息子を失って見失ってしまった居場所を探すために北国へ来たジョンと、無理やり連れてこられて居場所のないバックがダブルラップしている。かつ、ジョンも冒険を経るにあたってついに息子と体験することができなかった冒険と、育った子供の巣立ちを経験したということですよね。
制作陣は絶対にSW ep7を意識している(?)
ゴールドラッシュに沸いていたアラスカの中で一人哀愁漂う謎のイケオジ(イケオジン?)ことジョンなんですけど、このキャラは絶対ハン・ソロを意識していると言わざるを得ないですよね。もともとフォードはアドベンチャー系ハリウッド・マッチョで愛犬家でもあったけど、奴隷のように扱われていた毛むくじゃらを救い出す場面とかチューイとの出会い(『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018))だし、原作にはない息子を失っていたという設定も、暗黒面に落ちてしまったベンことカイロレンのことだし、何より自らの死の前夜にバックに別れを告げたあのシーンも、無言で奈落へと落ちて行ってしまったエピソード7を受けたものなんじゃないですか?つまり、この映画においてフォードは2年越しに、再び自分の親友と共に心躍る冒険をし、彼に対してやっと最後の別れを告げることができたし、その親友に看取られて死ぬことができたんだと思います。
でも、あの成金男と区別するためだとは思うけど、フォードにしてはあまりに無欲すぎですよね。そもそもこの旅の目的自体、いつの日か息子と行きたかった冒険をバックとやってるわけだから、金なんか好きなだけ集めて全部持って帰って鉄道でもなんでも買えばいいし、自らの食糧分だけ持ってあとは捨てるとかあんまりフォードっぽくないですね。
あと、冒頭で、ジョンが置いてきた奥さんに家財産をすべて送るシーンはストーリー上さして不自然じゃないけど、私的には2004年にフォードがメリッサ・マシスンと離婚した時、財産からビデオの利権から身ぐるみ剥がれたのを思い出してちょっと笑っちゃいましたね。
贔屓なしでも普通に面白かったです。