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一首評:田中有芽子「私は日本狼アレルギーかもしれないがもうわからない 【あ】行」より

「明日は1時間が45分になります」先生の連絡

田中有芽子「私は日本狼アレルギーかもしれないがもうわからない 【あ】行」より
(『私は日本狼アレルギーかもしれないがもうわからない』収録)

一瞬のSF。

一瞬、破調に迷うようなうた。でも、

あしたはい/ちじかんよん/じゅうごふん/になりますせん/せいのれんらく

と区切れば五七五七七にきっちりと収まるうえに、二・三・四句目の端に「○ん」という音が配置されていることがわかる。かなり計算されているうただと思う。

そして意味の上でもまた、一瞬何を言っているのか迷ってしまう。1時間が45分??

種明かし的に読むのも野暮かも知れないが、学校などで実際に聞こえてきた先生の言葉なのではないだろうか。

先に出てくる「1時間」は時間の単位そのもののことではなく、おそらく学校の授業の「1コマ」を意味するもの。その慣用的な言い方。そして後に出てくる「45分」は実際の時間の単位。

避難訓練だったり何かの行事との兼ね合いでたまにあった「短縮授業」。明日はそれだと先生は子どもたちに伝える。

「連絡です。いつもの1コマは50分だけど明日は45分になります」

そんな意味で、でも、先生の口から出てきたフレーズは、

「明日は1時間が45分になります」

気にしない子どもたちの方がきっと大多数。しかし、気づいてしまう子どもにだけは、明日だけ時間が1.33倍速になるという宣告に聞こえる

まるでSFのように歪む世界。

おそらくその歪みはすぐに元に戻る。それでも、その一瞬の歪み、一瞬のSFは、選ばれた子どもの記憶に残り続けるのだろう


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