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書のための茶室(四):旧前田家本邸のお茶室で

山平昌子(以下、昌):今日は私の友人のさゆりさん(仮名)がお茶を点ててくださるというので、旧前田家本邸(和館)のお茶室にやってきました。ここで、根本さんの理想の茶室の相談をしようかと。
さゆりさん(以下、さ):こんにちは。初めまして。
三尋木崇(以下、崇):初めまして。三尋木です。
昌:さゆりさんは、時々このお茶室でお友だちとお茶を楽しんでいるそうですよ。
根本知(以下、知):なんと優雅な。さゆりさん、はじめまして。こんな暑い日に、ありがとうございます。しかし暑いですね。溶けてしまいそうです・・。

昌:溶ける前に、みんなで準備しましょう!三尋木さん、お花をお願いします。
崇:かしこまりました!お土産に、越後屋若狭の水ようかんを持って来ました。
昌:おお、予約をしないと買えないという噂の・・。わあ、綺麗。

水羊羹
越後屋若狭の水ようかん

昌:これはどうやって盛り付けるのが正解なの?
崇:すくうようにして・・。
さ:昌子さん、お願いします。
昌:えっ!(とやってみる)柔らかすぎて持ち上がらない・・。
さ:ちょっと大胆すぎるような・・。
昌:やっぱり!?
・・・・やいのやいの・・と10分あまり。

皿の上
どうにか盛り付けました

昌:これが正解かは分かりませんが、なんとか盛り付けました。
崇:とてもおいしそうですね。

崇:その間にお花も活けましたよ。
さ:ありがとうございます。では始めましょうか。

蹲で手を清めます
床と窓
茶室の中へ

崇:ここは又隠の写しだそうですよ。4畳半の間取りです。
昌:この時間は明るくて、お庭の眺めも最高ですね。
知:風が通って、暑さが和らぎます。

三尋木さんが季節のお花を活けてくださいました

さゆりさんがお茶を点ててくださいます。
まずは水ようかんから・・。

知:柔らかい!形を保てるギリギリの柔らかさですね。

おいしーい

崇:本当にこの水ようかんはおすすめなんです。
昌:
ひと箱ぺろっと食べてしまいそう。

お点前頂戴いたします

知:とっても美味しい一服です。ありがとうございます。
さ:お干菓子は、千本玉寿軒の「大内山 笑顔」と、五郎丸屋の「蛍」などをご用意しました。

夏らしいお干菓子もたくさんご用意してくださいました

崇:では御礼に僕も一服お点てしますね。

細川三斎流のお点前で点てていただきました

知:裏千家のお点前などでよく拝見する茶巾よりも、幅が広いんですね。
崇:平点前でも大茶巾と言って正方形に近い大きな茶巾を使います。三斎の時代から変わらないと聞いています。点前に余計な演出的な動作が少ないなか、茶巾の扱いでびしっとした緊張感が出るのです。
昌:全体的に、武家らしさがあるお点前ですね。

知:この又隠が裏千家での代表的な茶室の一つ、と考えていいんでしょうか。
崇:そうですね。又隠は、本勝手四畳半、面皮柱、土壁、洞庫付き、突上(天窓)があり、利休好み四畳半と同じ間取りを持っている茶室です。宗旦が建てたといわれていますが、その後仙叟が窓を改修したとする文献もあります。京間の4畳半は関東間より空間が広く、とてもおおらかな気持ちになりますね。

知:この大きさをおおよその基準に、理想の茶室を考えていくのもよいのかも知れませんね。
崇:そうですね、四畳半は、小間、広間どちらにも対応した広さですし、根本さんが亭主をされるときは、お点前さんもいらっしゃることでしょうから、いいと思います。間取りや意匠を写すことも大切ですが、元の茶室の空気感を活かして、配置される場所や思いにあった茶室にすることを大切にしていきたいですね。この写しの茶室も本歌とは違い貴人口を設けており、開くと庭からの風の通り抜けと視界の広がりを感じます。

この畳の広さが・・
網代天井

崇:そういえば今日は、以前見学に行った猪俣邸の茶室とネットで見つけた又隠のおこし絵を持って来たんです。実際に見学した茶室と名茶室を同じスケールで比較できるのはいいですよね。
知:おお、初めて実物を見ます!

色々な茶室のおこし絵
又隠のおこし絵

昌:根本さんの理想の茶室も、最終的にはおこし絵にしたいですよね。
昌:あっ。根本さんの茶室のお話をする時間がなくなってしまった。
崇:では続きはオンラインでお話しましょう。

さゆりさん、今日はありがとうございました。

〜今日のゲスト〜

さゆりさん
美しいもの全般と日本文化をこよなく愛する、風雅な人。「和のこと」を楽しみながら暮らしの中に溶け込ませる事ができたらと、いろんな活動をされています。たねやの上生菓子がお気に入り。季節の俳句に因んだ銘のあるところが惹かれるポイントとのこと。この夏の思い出は、佐渡で見た薪能。幽玄の世界に引き込まれたそうです。

〜いつもの人たち〜

三尋木 崇(みひろぎ たかし)
「五感を刺激する空間」をテーマに、建築と茶の湯で得た経験を基に多様な専門家と共同しながら、「場所・時間・環境」を観察し、“そこに”根ざした人、モノ、思想、風習を材料に“感じる空間体験”を作り出す。 普段は海外の大型建築計画を仕事としているため、日本を意識する機会が多く、そこから日本の文化に意識が向き、建築と茶の湯を足掛かりに自然観を持った空間を発信したいと思うようになり、活動を開始した。 2009年ツリーハウスの制作に関わり、2011年細川三斎流のお茶を学び始めてから、野点のインスタレーションを各地で行う。 ツリーハウスやタイニーハウスといった小さな空間の制作やWSへの参加を通して、茶室との共通性や空間体験・制作のノウハウを蓄積している。
この夏の思い出は、御殿場の東山旧岸邸に行ったこと。ひぐらしとかき氷に癒された夏休みでした。

根本 知(ねもと さとし)
かな文字を専門とする書家。本阿弥光悦の研究者でもある。2021年2月、「書の風流 ー 近代藝術家の美学 ー」を上梓。
この夏の思い出は、強めのパーマをあててみたこと。

山平 敦史(やまひら あつし)
鹿児島県出身。フリーランスカメラマンとして雑誌を中心に活動中。
この夏の思い出は、高校の同級生と卒業以来にテニスをしたこと。

山平 昌子(やまひら まさこ)
茶道を始めたばかりの会社員。「ひとうたの茶席」発起人。
今年の夏はまだ浴衣を着ていないので、季節が変わる前に一度着たいと思っています。

(文:山平昌子 写真:山平敦史)



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