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詩「大自然に寄せて」

「大自然に寄せて」

おお
偉大なる
山の神
木の神
火の神
海の神
水の神
この母なる
大地の
諸々の
目に見えない
精霊たちよ

ああ
偉大なる
日月の神
星辰の神
風の神
光の神
闇の神
この父なる
天空の
諸々の
目に見えない
精霊たちよ

あなたがたは
或いは
おひとりで
或いは
おふたり以上で
果てしない
久遠の年月(としつき)
変わりゆく
全てのものに

ある時は
生命(いのち)を
吹き込み
与えた
またある時は
生命を
抜き取り
奪った
全ては
この繰り返し
偉大なる
世界の営み

片時も
休むことなく
原初の
約束のままに
気まぐれのようで
気まぐれでなく
約束だけは
決して違えず
幾千年
幾万年
幾億年と
保ってきた
蒼々と
輝く天地の
命脈を

あなたがたは
こしかたの
全てのものを
知っている
全ての
よろこびを
かなしみを
見てきたから
全ての
希望を
絶望を
見てきたから
これらを
与えもしたから
そこには
わたしの祖先も
いたことでしょう
太古の昔の
わたし自身も
いたかもしれない

そして
今がある

わたしは
あなたがたに
生かされ
あなたがたが
生かしたひとびと
全てのいきものに
生かされ
育てられ
いまや
誰かを
生かし
育てる側に
なりつつある
循環が
ゆっくりと
着実に
わたしを
回している

やがて
大恩ある
全てのひとびと
全てのいきものは
冷たくなって
消えてゆく
いずれは
わたし自身も
あなたがたに
別れを告げる
これもまた
循環だから
全てが
わたしたちを含む
約束だから

あなたがたは
ゆくすえの
全てのものを
知っている
だがわたしは
何も知りません
この世界のこと
あるとしたら
死後の世界のこと
何もかも
知りません

ゆくすえの
まだ見ぬここ
この世界に
わたしはいますか
わたしを生かし
育てたひとびと
全てのいきものは
生きていますか
形を変えて
あなたがたと
今のように
共にいますか

ゆくすえの
まだ見ぬひとびと
全てのいきものは
今ここに
精一杯
確かに
生きている
わたしたちを
知っていますか
わたしたちの
生きた証は
ありますか

せめて
あなたがたは
覚えていてくれますか
わたしたちを
わたしたちの
生きた証を

あなたがたは
厳しくも
お優しい
その無言の
お優しさに
何度
救われたことか

ひねもす嘆く
波寄す浜辺
緑の木立
涼しい夏山
孤独な夕べ
入日の光
打ちひしがれる
星月夜
その全てに
お優しい
あなたがたが
いてくださった
だからわたしは
生きられた

わたしには
何ができますか
おこがましいとは
思いますが
わたしには
あなたがたに
あなたがたのために
何ができますか
このつまらない
かげろうの命に
できることは
ありませんか

わたしはまだ
何もしていない
わたしはまだ
御恩のひとつも
返せていない
全ての
わたしを生かした
ひとびとに
いきものに
これらを生かした
あなたがたに

あなたがたは
寂しくないですか
悲しくないですか
誰もが
あなたがたを
知っているようで
知りません
あなたがたを
見ながら
聴きながら
感じながら
結局何も
分かりません
わたしも
そのひとりです
無常の
ものとはいえ
生かした子らが
親を知らずに
次々と
現れては
消えてゆく
耐え難くは
ありませんか
苦しくは
ありませんか

そして
そんな子らは
図らずも
あなたがたを
傷つけて
痛めつけて
生きているのかも
しれません
こんなわたしが
わたしたちが
嫌いでは
ありませんか
憎らしくは
ありませんか

それでも
わたしを
わたしたちを
子どもとして
わが子として
抱きしめると
愛すると
おっしゃるのですか

あまりに
大きく
あまりに
尊い
あなたがたには
きっと
笑われるでしょう
それでもあえて
申し上げます

どうか
どうか
厳しくも
お優しい
あなたがたで
いてください
幾千年
幾万年
幾億年の
先までも
わたしたちの
足跡が
消えてなくなり
わたしたちの
末裔が
わたしたちを
忘れた後も
変わらない
あなたがたで
いてください
その中に
形を変えた
わたしたちが
混じっていたら
今と変わらず
見守ってください

いつの日か
あなたがたが
わたしを
わたしたちを
忘れたとしても
わたしは
忘れたくない
あなたがたを
あなたがたが
与えてくださった
愛を

それでも
わたしは
忘れるのでしょう
今際の際の
その時までに
何もかも

どうか
わたしにも
何かをさせてください
取るに足らない
わたしでも
わたしなりの
誠実さで
あなたがたに
向き合わせてください
その方法を
見つける時間を
わたしにください

それはきっと
形にならない
何かでしょう
形あるものの
形を借りた
何かでしょう
偉大なる
あなたがたは
お優しい
あなたがたは
こんな思いも
こんな言葉も
受け取ってくださると
分かってくださると
信じています

あまりに
大きく
あまりに
尊い
あなたがたには
きっと
笑われるでしょう
それでもあえて
申し上げます

この歌が
消えて
無くなった後も
何もかも
忘れられた後も
この思いだけは

いつまでも
いついつまでも
いつまでも
いついつまでも
いつまでも
いついつまでも

消えないように
とこしえに
この大地に
この大空に
蒼々と
輝く天地に
刻まれるように

祈ります
ただただ
祈ります

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