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ブランチとコヒーレント (19)

2022年12月のコヒーレント (2)

2022年のクリスマスは週末となり、特定条件を満たした人々には幸せな週末になりそう。日本の人口減少防止に寄与することを祈りつつ、該当しない自分はMusic Bar Cordaへ。

いつも満席の店内、ねこさんは上下セパレートのサンタコス。確かに可愛いのだけど、それよりも見ててこちらが寒くなってくるのは歳のせいか。体調崩したりしなければ良いのだけど。

こうやって気の置けない人達と過ごすクリスマス、のんびりしていられるのは、常に働いているキャストさん達のおかげ。

料理当番の果南さんはキッチンに立っていて、クリスマスってこんなに働く日だっけー、と発狂している。

安珍…

そしてデザートに安珍の焼死体クッキー。クリスマスのTwitterのタイムラインには賑やかなクリスマスの写真と安珍クッキーが並ぶ。

クリスマスの浮かれた感じにちょっとだけぶっ込んでくる果南さんのセンスにニヤニヤしてしまう。



クリスマスは、振り返るといつも独りだった。嫁さんと結婚前に付き合っていた頃は自分は横浜、嫁さんは静岡ですぐ会うとは行かず。バブル崩壊直後の不景気の中で財布は寂しく、仕事の終わりはいつも深夜で、仕事終わって直ぐに会いに行くなんて気力も削られていた。

週末はとにかくクタクタで昼過ぎまで寝て、バイクで静岡まで行くも到着する頃はもう夕方で、嫁さんは当然ご機嫌斜め。定時きっかりで働く嫁さんにはIT業界の苦悩など知る由もなく、そんなに働く仕事あるなんて信じられない、と何度なじられた事か。

結婚した後も仕事のペースは変わらず、その様を見て嫁さんは何も言わなくなった。呆れられたようだ。思い返せば、今の状態は昔からか。

30前後はがむしゃらなところがあって、今から思えばもっと要領良くやれただろ、って思うのだけど、無駄な力を使ってでも全力で走ったからこそ見えた部分は確かにあって、今に繋がっているんじゃないかと思う。思いたい。

で、今の若い人たちには、無駄に仕事の時間が長くならない様にと思う。



シャンパンを開けると写真撮影ができるということにつられ、懲りもせずまた開ける。自分が頼む時は何も言わなくてもねこさんが開けるという事で、完全に自分の推しはねこさんで誰もが信じて疑わないし、それは間違いない。

しかし一人だけ、キャストのコウさんは、自分が推しを果南さんに変えるのではないかと疑っていて、何かにつけて推し変だー、と突っ込んでくる。

話によると、同グループ内での推しの変更はご法度の場合があるらしく、それは推し変された側の精神的ダメージや仲間内での不協和音の誘発に繋がりかねないかららしい。

自分に関しては無いとしても、実際に発生した時どうなるのだろうか。ねこさんは、どっちにしても燎の推しなんだからいいんじゃない?とか言いつつ、本当にやったら、それじゃ済まないだろうな。

ねこさんは栓を開けるとき、口上を述べたり歌を歌ったり、演出のバリエーションが豊富で慣れてる感がある。今回は、また体をジョイマンみたいに左右に並行移動しながら歌を歌い始めた。受けを狙ってる時の行動パターンだ。

ねこさんは自分に距離置いてんじゃないかと自分が周りの人に言い過ぎて、巡ってねこさんにこうやって気を遣わせてしまっている。こういう事は言うもんじゃないな、と、心の中で思いながら歌を聴く。

けど栓を抜くタイミングが歌の中でなかなか来ない。果南さんが調理をしながら「遅ーい」とチャチャを入れる。結局Aメロまるっと歌い終えて開栓。

栓が抜かれた時に気づく。あ、そもそもぼやく場所がもう無くなるのか。
それはそれで寂しいな。今までありがとう。嬉しかった。


2022年12月のブランチ  (2)

そして遂に来てしまった、Music Bar Cordaの最終営業日。都合のつくキャストさん達、ほぼ全員が1日の中で出勤し、お客さん達、そして同僚達とお別れを惜しむ。

自分もキャストさん全員に挨拶をするため、シフト毎にちょろっと顔を出す。その日はたくさんのお客さんが入れ替わり立ち替わりお店に顔を出して、キャストさん達は全力で接客。いつもの風景、だけどこれが最後。

これまで自分はねこさんと会える時は必ず何かしら猫にまつわるものを着ていた。そして自分は年中半袖のTシャツを着ていて、あまり冬物を持っていない。唯一のねこさん系長袖Tシャツはマミタスの "No cat No life" のみ。

https://www.beams.co.jp/item/mmts/t-shirt/16140014438/

生地も仕立てもとても良くて、厚着が苦手な自分には重宝している。
ところがMusic Bar Corda最後の日に洗濯が間に合わなくて、これを着ていけず、だけど寒くて半袖Tシャツは流石にきつい。ということで特に何でもないボーダー柄の長袖Tシャツを着てダッフルコートを羽織る。

お店についてコートを脱ぐと、みっきゅんが自分の背中をさっと見た後、カウンターの飲み物をつくる場所に戻る。

「今日はお洋服に何も無いよ」
「あ、うん、今日は普通のやつ着てきた。」

みっきゅんと話しているといつも感じるところがある。趣味にしてもなんにしても一途な状態を尊んでいて、人に丁寧に接することにとても繊細なんだろうな、と自分は想像している。例えば自分でいうとねこさんへの想いであるとか、奥さんを大事にするとか。

以前、みっきゅん、ちひろさん、ねこさんが出勤している時に「お嫁さんにしたいキャストさんTop3だ」と発言したら、みっきゅんの顔が一瞬曇る。

「今の発言は奥さんを蔑ろにするようないい方になっちゃうよ、来世でお嫁さんにしたい、とかにしないと」

ねこさんが言う。それは確かにそう。奥さんに限らず、身近な人を大切にできない人は推しも大切にはできない。

こういう場でオープンに好意を表明するのは、キャストさんとお客の間での恋愛関係は成立しないとか、ご法度である事、あり得ない事を前提の誇大表現で「みんな素敵です」的な感覚だった。けど、自分の発言は迂闊だった。

それにしても「来世」って単語は便利だな。今後多用してしまいそうだ。

みっきゅんの退勤時間、ねこさんの出勤時間が近づく。
自分は荷物を手にお手洗いへ行き、 "猫の下僕" Tシャツに着替える。

このTシャツ、買った頃は着る事あるんだろうか、と思ったものだけど、着る回数を重ねていくうちに羞恥心はなくなり、Music Bar Cordaでも、誰もが当然の様にその姿を受け入れてくれている。

着替えを終えてお手洗いから出てくると、みみさんが一言。

「あ、荷物持って行ったな、と思ったらそれだったんですね」

席に戻ると、みっきゅんが自分の姿を見た後、一言。

「あー、よかった…」

みっきゅんは、自分がねこ絡みの服装をしていなかった事から心配してくれていた様だ。みっきゅんの優しさと繊細さ、ありがとう、ごめんね。

自分の誕生日が近いこともあり、ちひろさんに無理を言って誕生日のサービスをねじ込んでもらう。

自分は酔いと眠気で、正直なところ記憶が定かでない。皆に歌ってもらい、今年の抱負を聞かれて何かを言ったはず。多分、ねこの下僕をがんばります、的な発言をしたと思う。

去年は誕生日の当日にねこさんが出勤していて、Music Bar Cordaで同じ様に祝ってもらった。その日はお客も少なく、まったりした空気感の中静かなお祝いだった。

今年もねこさんと一緒、今回は一転して満員の中。

しかし、やはりお祝いの気分にはまったくならなかった。



酔いがまわり、キャストさん達とのこれまでの記憶が過ぎる。

レイさん。多面的なギャップが魅力的。ステージもっと観たい。

マミさん。最初から最後まで謎の美人だった。ステージ映えする容姿とやさしい歌声、また聴きに行きたい。

コウさん。この人も謎の人だった。髪色がいつも奇抜なのに、見るとなんの違和感も感じない。あ、念のため、推し変は無いから!

ちあさん。10代のはちゃめちゃさと彼女なりの気配りは、唯一無二の異空間を作れる特殊技能の持ち主。幸せになってほしい。

あずみんさん。力強いボーカルを聴きに行こう。ギターの練習がコルダの最後に間に合わなかったけど、あずみんさんの "言ノ葉" を弾ける様に。

ぶーちゃさん。可愛らしい姿を、今度こそステージで自分のカメラで収めよう。

のどかさん。王道アイドルステージ、ちゃんと予習してコールできる様にしておかなきゃ。

れみさん。謎のオリジナル曲を聴きに、またライブに行こう。舞台も面白そう。

みっきゅんさん。おじさんホイホイの楽曲、またヘッドバンキングしに行かなければ。

菜月さん。艶やかなボーカルを聴いて、また和みに行こう。

たてみんさん。オタクの真髄をしかと見せてもらおう。たてみんさんの曲すごく難しいんだけど、ギターで練習中なので、いつか一緒に歌いたい。

みみさん。もう直接会うことは叶わないだろうけど、またいいバンド教えてもらおう。

ちひろさん。また会うことはできるのかな。優しい笑顔を見たい。

そしてねこさん、果南さん。は、正直これでお別れになる可能性は微塵も無いと思っていて、けど、こうやって話す事はなくなってしまうのは、やはり寂しい。

そしてバタバタの中、お店を出る時間になる。
閉店時間まで残る事が日常だった自分には、これは普通の流れ。
普段はほぼ定刻だったが、この最後の日は1時間押しとなった。

最後、振り返って

いつもどおりビルの階段を降りて、地上に出る。他のお客さんも続々と降りてくる。全員が降りてきて、いつも溜まっていた場所にやっぱり溜まる。

先輩オタさんの声がけで、お店の看板を囲んで写真撮影。
元旦の朝の歌舞伎町に、とても締まった一本締めと拍手が響いた。

ここでこうやって過ごすのも最後かと思うものの、初めてMusic Bar Corda閉店の知らせを知った時の喪失感はだいぶ薄らいでいる。閉店の発表から2ヶ月という間に、自分の中で準備と消化は終わっていた。

けど、もしかしたら喪失感は年始の休暇が終わり、仕事が始まってからかもしれない。1日の仕事が終わり、あ、お腹すいた…その時、喪失感が襲ってくるのかも。

Music Bar Corda、ありがとう。
こんな素敵なお店、二度と出会えないよ。

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