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ブランチとコヒーレント (37)

2024年1月15日のコヒーレント

2024年が始まり、燎のライブも今月いっぱいに限られる。ライブの残り本数は両手で数えられるほどしかない。8ヶ月前に予感していた燎の活動休止は、最初のうちはとうとう来たかという程度の気持ち。

だけどそれからというもの、日々の生活を振り返ってみると、これ無くなるのか、あれも無いのか、これはねこさんがいなかったら無かった、と生活のあちこちに燎が入り込んでいて、徐々にその影響の大きさに驚きはじめている。

「推し」という言葉。
昔から言われる「推し」は推薦という、自分が他の人に勧めるという意味合いが強い。一推し、とか。しかし今時の「推し」は自分が何かその対象を応援している・好いているという意味合いの方が強く、ニュアンスは異なると思う。

今となっては元国営鉄道会社の旅行の広告にも今時の意味での「推し」という単語が現れるくらいポピュラーになった。だけどデビュー前から彼女らの活動を見守り、事の顛末を一通り見て、活動休止まで見届けるというのは「推し」の一言ではカバーできないし、そもそもなかなかこういう機会に恵まれるものでもない。

これからもインディーズアイドルのライブを観に行くことはあるかもしれない。といって、これまで燎に向けていたベクトルと同じ向き、長さで対峙できるかというと、正直無理かなと思う。

これからどうなるかは、その流れに身を任せよう。

2024年1月15日。燎と、燎がよく出演するライブハウス 新高円寺Loft Xの共催ライブ。どうしても行きたくてチケットの予約はしたものの月曜日の夜はなかなか仕事の都合を動かせずジリジリ。

自分は1月が誕生月で、うちの会社は有給休暇とは別に誕生日休暇が1日ある。恐る恐る、チームのメンバーに15日誕生日休暇いいかな…と聞いてみると、いいっすよーとの事で一転あっさりお休みに。よっしゃ。みんなありがとね。仕事、後はよろしく。

1月28日が最後のライブと既に発表があって、そこが最後にして頂点という雰囲気がある。けどこの1月15日のライブは自分にとって、飛行機で言えば巡航速度での飛行を終えるタイミングで、そこからは着地へ向かう降下の時間のように思っている。そういう意味で1月15日のライブはすっかり自分の生活の一部となっていた燎を生活から引き離すための最後のライブになる。

対バンはamuLse、ユキノユーリ、CHICKEN BLOW THE IDOL(チキブロ)。これまでに自分が燎にきっかけをもらってステージを観て、大好きになった演者さんばかりだ。

ライブへはいつも通りの装備で。ライブに行く時はその演者さんを考えて、自分が着るTシャツを朝に選んでいく。自分は燎のTシャツを4種類持っている。一つは初代、デビューライブで販売されたもの。次はワンマンライブのフェス告知風プリント。3つ目は燎の衣装の端切れをTシャツに縫い付けた、果南さんお手製のTシャツ。そしてねこさん生誕の時に抽選でもらってしまった、一番新しい衣装の端切れを縫い付けたやはり果南さんお手製Tシャツ。この系統のTシャツは、燎の二人と自分しか持っていない。運で手に入れたものだけど、自慢。

今日は多分、最新衣装で最後の共催を飾るだろうという推測で、最後のTシャツを選ぶ。そして予想は珍しく当たった。まあ確率的に一番高いけど。



ライブはamuLseからスタート。amuLseは燎のデビューライブに対バンで出演から始まり、組んで5人組の別ユニット&grAceを演じたりとゆかりの深いグループ。自分にとっても縁は太く、なのでamuLseのライブを観に行く時や燎との対バンの時でもamuLseのTシャツは着るし、なんなら普段会社に行く時も着ている。

amuLseのライブはいつもMC無しのノンストップ。今日もいつもと同じだけど、セットリストはこれまでに燎と共演した曲全てと、数曲ねこさんがリクエストしたのか、曲の流れから選ばれたのか。燎との思い出を歌う彼女らと、ステージから時折ちらっと目線が合う。自分はどんな顔してamuLseを観てたのだろう。

次はユキノユーリさん。ポップでロックな楽曲のオンパレードはいつも通り、だけど会場の盛り上げの勢いが凄い。まるで燎の二人へのこれからに、明るい将来を表現する形でエールを送る様だった。

トリ前はCHICKEN BLOW THE IDOL。このグループも燎のオタクの中では頻繁に話題に上がるグループ。今日のセトリは完全にチキブロから燎への、お別れの言葉だと1曲目からわかった。最後の曲 "なんて寂しい夜なんだ" は、燎オタクの心に一際響く。



燎のライブは "HIBARI" 、出会いを思い返しながらお別れを歌う曲で始まる。その後燎の色を濃く出す曲が続き、最後は代表曲の "暁" で盛り上げて終えた。燎も例に漏れず、普段通りだった。

どの演者さんも普段通りの演出。この時だけの歌、みたいな特別な演出はなく、それぞれが自分の持ち玉にメッセージを込めている。

ライブの最初から最後までを通して観ると、これまでライブハウスという場所で時間を共にしてきた演者さんたちがお別れに際してのお話をしているかのように思えてくる。

普段通りで対峙する彼女らに、アーティストとしての矜持を垣間見た瞬間でもあった。

このライブでは、珍しく配信用途ではないビデオ撮影とスチル撮影が入るらしい。そのカメラマンは、ねこさん伝いで知った おやすみカシオペア というバンドのギターの がんもとさんだった。

物販が始まる前、すすっと自分の横に音もなく現れて、

「今日密着取材してるんですよー、内緒なのかなって思って黙ってたんですけどね」

と、ニヤリ。事前に撮影が入るとは聞いていたのだけど、がんもとさんだったとは。これは仕上がりが楽しみだ。ねこさんは撮影が入るという事は話していたけど、何に使うんだろう。

がんもとさんに、燎は終わっちゃうけどおやすみカシオペアのライブ楽しみにしてますとお伝えして、お仕事を邪魔してはいけないのでお話は程々に、物販の列へ。

密着って言ってたから、最後に何かドキュメンタリーっぽい感じの映像ができるのかな。燎のMVじゃない映像はいつも笑いを取ることを狙ってくる。公開される機会はあるんだろうか。

終演後の物販も今までと変わらない、いつもの通り。だけど、どうしてももう終わりという気持ちが出てしまうのか、果南さんからは「なに、さよなら感出してきてんの」といわれる始末。そう言われて逆に、果南さんを支点にしてしばらくはみんなでガチャガチャできそうと思えてくる。

ねこさんとは、いつも通り箱の特徴の話、あとDr. Martensの靴の話。とは言っても十何回足を運んだ箱、もう新しいネタはなかなか見つからず。いつも後になって、あああれ話しておけば良かったと思い返すのだけど、やっぱりその場では思い出せない。

実は去年の8月に終わりにしようとした事があって、その後しばらくグダグダしたのだけど、それ以降の物販で気になっていた事が。けど直接答えを聞くのもなんなので、さらっとその点について「ありがとう」と言ってみた。けど、反応は「うん」だけ。

まあそんな感じで結局のところようわからん。

その日は皆自分の顔と名前を知ってくれている演者さんばかりで、お礼周りだと全部の演者さんの物販に足を運ぶ。燎のデビューライブの時はまったく何もわからなくて燎だけで精一杯だったのに、いつの間に他のアイドルさん達にもちょっかい出すようになったのか。

この日は燎とチキブロが並んで物販を行っている。ねこさんと話している時、チキブロのみかんさんが視界の端に入る。みかんさんはニヤニヤ笑いながら視線を逸らす。みかんさんには自分とねこさんの間の微妙な空気感を以前にぼやいていて、みかんさんにいつも「まあまあ」となだめられていた。

みかんさんの物販に行くと、また憎めない笑顔でニヤニヤしてるので

「何ニヤニヤしてんすかー?」
「いやぁ、話してるなと思ったよ」

自分は話を逸らそうと今日のセットリストの話に切り替える。

「うふ、お話すごく楽しそうだったじゃない?」

と一言、そしてセットリストの話題に。そう見える?
そうかぁ。まあ楽しいんだけどね。

みかんさんや同メンバーの る子さんによると、チキブロのプロデューサーさんが、ああだこうだ悩みながら曲順をめちゃくちゃ練ったらしい。

観客の自分でもわかるこのセットリストは、燎の終わりという背景と重なりとてもドラマチックだった。歳をとると涙腺が緩くなるとはよく聞く話。泣かせにきたのかと、

「"なんて寂しい夜なんだ" で終わるのは反則だよ」
「ふふ、でもやっぱりね」
「うん、対バン発表された瞬間にこれしかないと思った」

そして別れ際のみかんさん、

「最後まで頑張ってね」

全てお見通しだ。

新高円寺 Loft Xは燎のオタクにとって他とは違うライブハウスになっていて、なぜかわからないけどいつの間にか、ゆるーくリスペクトしているような空気感が生まれている、気がする。

足を運んだ回数は確かに他と比べて桁が違うけど、演者の立場ならいざ知らず、ただの観客で箱に対してこういう気持ちを持つという事はなかなか無いと思う。

Loft Xの店長?さんは燎のオタクのことをカガラーと呼んでいるみたいで、何か他のお客とは別のものを感じている様子。きっかけはライブ配信システムの障害という話は聞いた事がある。その後、自分は知らないけど色々と良く思ってもらえる何かがあったのだろう。
この話は後日談としてどこかで聞いてみたい。

この日はそんな感じで、いつも通り始まり、いつも通り終わり、最後にLoft Xのスタッフさん達にいつも通り「お世話様でしたー」と挨拶をして終わった。

燎の活動休止まで、ライブはあと3回。
そして最後のライブで、うわぁ、と思う事になる。

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