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ブランチとコヒーレント (38)

2024年1月のコヒーレント (1)

2024年1月19日、amuLseのプロデューサー兼演者水緒みみさんの生誕ライブ。みみまるさんの生誕はamuLseの新曲発表、そして関係が非常に近かった燎とamuLse最後の対バンで、ファンからの思い入れもひとしお。
自分は結局開演時間には間に合わず、開演から30分後に箱に滑り込む。

燎オタクから見ると、燎の終わりに向けてどれもが「最後の」ライブとなっていく。自分の中では1月15日のライブから徐々にテンションを落ち着かせ、最後のレコード発売ライブで静かにランディングを目論む。

ライブも物販もやっぱりいつも通り、つつがなく。
物販ではねこさんとはまた箱の違いの話に。今日はいつもと違う初めての箱で、その違いはより鮮明。色々違いを話しつつ、楽屋入りの時間とか、裏話をちらほらと。

話しのネタ切れで撮ったインスタントカメラの写真を渡され、お疲れ様でしたと背中を向けようとした時にタイマーのアラームが。ねこさんがぽつり。

「あ、今鳴った。」

はい今鳴りましたねー。

amuLseは関東ツアーとして、メンバー3人のゆかりの地のライブハウスを巡るというコンセプトのライブを行なっていて、ここが3箇所目。

自分は通しチケットを買っていて、特典のお目当て演者さんの写真一枚撮影券があるのだけど、まだ使っていなかった。という事に気づいて慌てて物販終了間際にねこさんに頼んで写真を一枚。カメラを取り出す余裕も無くて、スマホでささっと撮影。

ありがとう、と一声掛けて背を向けた瞬間、

「メロン、ハピバー」

ハッと振り返って

「あ、ありがとう」

この歳になるともはや誕生日は普通の日で、なんなら自分は去年一年間自分の年齢を間違えてたくらい。他のオタクさんから指摘を受けて、再計算して自分で唖然となった。去年言ってた年齢を今年も称する事になり、なんだか一年得した気分。

そんなもんなので、ねこさんから言われるとは全く思っておらず、なんかリアクション取れなくてそのままねこさんに背を向ける。

帰り道、ジワジワきてニヤついてたら乗り換え駅間違えて、終電を逃した。


2024年1月のコヒーレント (2)

2024年1月28日、燎のレコ発+活休前ラストライブ、秋葉原 Club GOODMAN。ねこさんが舞台に立つ姿を初めて観た箱であり、一年前に燎がセルフプロデュースで再始動した箱であり、ねこさんと顔を合わせる最後の場所、最後の日。

秋葉原駅を降りて、周辺をうろちょろ。



ずっと何かプレゼントを渡したいと思っていたのだけど全然思い付かず、前の日になって急に自分が撮った写真のベスト盤DVDを作ろうと思い立った。

夕方からずっと画面とにらめっこして、これまでに撮って一次選別を通過した4万枚をデビュー当時から振り返った。一枚一枚、その時あんなだったなとか、ねこさんこの頃顔が丸いなとか、思い出しながら写真を選定。

ハッと気づいて時計を見たら23時を過ぎていた。6時間写真を眺めてたのか。やばい、明日朝早いのに寝なきゃと、とりあえずライブ毎の写真アルバムは全部チェックを完走し、選んだ写真を生データから写真データに変換スタート。

しばらく画面を眺めて処理の進捗を表す棒グラフを見ていたのだけど、ぴくりともしない。動いてるのか?と出力先フォルダの中を見たら、10秒に一枚ずつ写真ファイルが出力されている。

動いてるな…と出力枚数を見てみたら、9,800枚選んでいた。電卓を起動してざっとかかりそうな時間を計算したら、なんと28時間。ライブに間に合うどころの話じゃない。

という事で、急遽予定変更。
ベスト盤は諦めて、写真のタグを漁ってみる。これまでに写真を選定する時に、特徴があるものにはタグを打っていて、あるタグがふと目についた。

gaze

目線がきている写真。後でもう一度見たら
一枚だけみみまるさんの写真が混ざってた。

視線というタグ。これまでに撮った写真からこのタグが付与されている写真は972枚。17万枚撮ってねこさん果南さんから視線を貰った写真は0.5%という計算になる。これを少ないと見るか、目線もらってるだけマシと見るか。

なんて思いながら最後の現像処理を走らす。結局そこからDVDに焼き終わるまでに3時間かかって、寝たのは4時を過ぎていた。

1,000枚近く、全部レンズに視線が来ている写真、これはなかなかのインパクト。だけど最後のプレゼントとしてはどうなんだろう。

DVDを裸で渡すわけには流石にいかず、秋葉原駅近辺をうろちょろしていたら本屋さんが目に入る。文房具と一緒にラッピングの材料とか並んでないかな、と文具コーナーを一巡するも筆記用具しか見当たらない。

うーん、と唸りながらレジの側を通ると、傍に漫画のキャラが描かれているトートバッグがたくさん吊るされていた。なんか適当な柄のものがないかと探してみたら、ねこがいっぱい並んでいる柄のものを発見。間に合わせで恐縮ですが、と、これを買ってDVDを入れてみる。柄からして使い所が難しそうだな。

ライブにはたくさんの人々が来ている。中にはこのライブのためになんとアメリカから、イギリスから来た人も。なんか凄いことになっている。ファンとかそういう次元じゃない。

平場のライブと今日の皆は気合いのベクトルが違う。普段通り最前の端で写真をと思ったのだけど、ふと過ぎる気持ち。今まで空気を読まずに最前で写真を撮ってる人を良いと思わない人もいただろう。

幸いGOODMANは客席の端の方に段があってテーブル席がある。今日の客席は間違いなく今までで一番盛り上がる。自分はもう着陸直前。これから空に向かってHIBARIの様に舞い上がり、燎に愛を伝える人達にこのフロアは委ねよう。

自分は開演前の物販で一通り最後の買い物を済ませ、また新たに増えたTシャツを開封する。今日のライブはどういう展開だろう、衣装替えがあるだろうか。

最新衣装は間違いなく来る。そしていつかのワンマンと同じ様に今日のTシャツはアンコールで。と予想して、まずは今日発売のTシャツを着て、その上に最新衣装モチーフのTシャツを重ね着する。念の為歴代のTシャツを全部持ってきたのだけど、流石に5枚も重ね着は無理だ。

ライブは一年前にこの箱で発表した1stアルバムと、それ以降に発表されたシングル曲全てが演じられた。今までに何十回この楽曲達を生で聴き、何百回CDやサブスクで聴いただろうか。けどこの一瞬はもう二度と来ない。そう思うと、カメラから手を離す事ができない。

結局、この日は3,500枚を超える写真を撮ったのだけど、普段とは全然違う位置からの撮影で、全く手応えは無い。やっぱレンズをレンタルしておくべきだった。自分の装備では歯が立たない。

けどそれに不満を覚えることは無い。階段2段ほどフロアより高い位置から皆んながフロアで盛り上がる姿を見ていたら、全てが愛おしくなってきて、拳を上げる皆んなをぼーっと眺める。

この最後のライブもいつかの演出と同じ様に、ライブと映像を交互に行いながら進行していく。今日の映像は、この前がんもとさんが新高円寺 Loft Xで密着取材したと言っていた時のものだった。

映像は真面目な受け答えとウケ狙いの会話を散りばめつつ、楽屋での仕事の様子を流す。テロップで質問が流れ、それに二人が答える。

皆、あまり笑わない。ふと皆んなの横顔を見ると、笑わないというよりも、聞き逃さない様に耳を傾けてるような様子で、皆笑顔。そしてねこさんは、また皆んなの笑うポイントが違うとかぼやくんだろうか。

映像を見ていて、最初はたまたまだろうと思っていたのだけど、映像が進むたびに、あれ?あれ?と思い始める。

ねこさんは、自分が一昨年のクリスマスに渡したプレゼントを身につけ映っている。わからないけど自分のものだけで無く、他の人からのプレゼントも同様に身につけているだろう。

映像が途切れ、またライブが始まる。
会場の熱気はどんどん上がっていく。そしてそこには今日発表の新曲も。燎らしい雰囲気、果南さんらしい歌詞、作曲編曲のオガワラカズキ先生らしい、燎のファンにはスッと聴ける曲だった。後でアルバムを聴くのが更に楽しみになる。

ライブが一区切り付き、これで終わりかと思ったら再び映像用の幕が降りてきて、先日のライブが終わった後の二人が再び映し出される。

映像の最後のシーン。全てが終わって楽屋から出てくるねこさんはそのプレゼントを身につけたまま。そして夜の暗い空にパンして映像が終わる。このドキュメンタリーは、皆に向けた感謝のメッセージだったんだ。

その最後の映像が流れ始めた時、自分は着ていたTシャツを一枚ぬいだ。その下には今日発売のTシャツ。そして予想通り二人はTシャツ姿でアンコールのステージに現れた。

物販の時間になり、長蛇の列ができる。これはなかなか大変そうだ。長期戦に備えて一度喫煙所へニコチンの補給。GOODMANと併設の練習スタジオの片隅に喫煙所がある。受付のカウンターを見ると、GOODMANの周年Tシャツが売られているのが目に入る。あ、これはいい思い出になるに違いない。迷わず買うと決める。

二人はきっと黒を選ぶだろうけど、色々可能性を考えて黒を2枚と白を1枚。頼んだ後、出てくるまで結構時間がかかって地下3階でぼーっと待つ。

その間に練習スタジオを使う人達が行き来する。中には自分より年上だろうという人もかなりいて、こういう風に音楽を楽しむのはいいなと思う。そうだ、もうちょい練習したら、スタジオを借りて練習に入ろう。33年振りにでかい音でギターを鳴らすのはいいな、と、楽しみの目標が一つできた。

暫くするとスタジオの人がやってきて、Tシャツを手渡してくれる。
大変お待たせしましたと、とても丁寧。



まずは果南さんの列に並ぶ。暫くして自分の順になり、インスタントカメラで撮った写真と今日発売になったアルバムにサインをもらう。果南さんとは今までと変わらず会えるチャンスはありそうなので、会話はいつもの通り。

買ったGOODMANのTシャツから色を選んでもらい、お渡し。すみません、包むもの準備してなくてそのまま。気が利かないね自分は。

終わっちゃったねと、ちと感傷に浸りながらも、今日のライブのできとか、ギリギリに入稿して間に合った冊子のお話。そしていつも通りまたね、と締める。

次にねこさんの列に並ぶ。物販終了まで30分を切っている。列は長いけどまあ間に合うかと思っていたのだけど、暫くして会場から撤収時間のアナウンスが。残り人数を数えると、自分の番まで回ってくる可能性は無い。と、通販を頼んでいる人は後日通販に同封してお渡しとなり、列が進み始める。なんとかなりそうだ。

自分の番がきてお疲れ様と声をかける。通販でいいよね?と聞かれて了承し、急いでチェキを撮って、アルバムにサインを貰い、ちょろっとだけお話。前から話題になっていたDr. Martensの新しい靴を履いていて見せてもらう。かかとの部分がすごく分厚いのだけど、つま先の方も分厚くて結構ゴツい、のに可愛らしい。

新しいブーツを見せたいと前からねこさんは言ってくれていたのだけど、靴擦れにでもなったらその後のライブが大変なことになるから履いてくるのはやめようと言っていた。

前回お話した時はもう履いてくる気満々で、靴擦れになっても最悪タクシーで帰るとか言っていた。確かにねこさんはDr. Martensがとても似合うので、見てみたいとは思っていたけど。

以前からベルベットのブーツが欲しいんだよね、だけど夏に履いたら暑苦しいかなぁ、などと話をしていたのだけど、自分は見た事が無いしそもそもファッションセンスがないのでさっぱりわからない。実物を見てみて、なるほど、これは夏には向かないかもね。

もっと色々話したい事はあったのだけど、あっという間に終了。一度はねこさんに背中を向けたのだけど、最後にどうしても直接確かめたい事があった。自分は振り返り、

「あの、ねこさんの曲をカバーというか、劣化コピーしたいんだけどいいかな?」
「ご自由にどうぞ」

これがねこさんとの最後の会話になった。
ありがとうとか、さよならって言ってなかった。

こんな感じで、いつもと同じ調子のまま、ねこさんとの最後の日が終わった。さらっとしたお別れだった。

帰りの電車の中は思ったより人が少なく、すぐに座ることができた。今日発売された燎のアルバムと、歌詞と曲の解説が書かれた小冊子を眺めてみる。

アルバムのジャケットは金色と緑、くすんだ青で彩られた木の幹に羽化を待つ蛹の絵が手書きで描かれている。果南さんは何を思いながら1枚1枚絵を描いていっていたのだろう。

小冊子を開く。歌詞が書かれているページを開いては、シングルで先行して音源になっていてスマホに取り込み済みの曲をかけて、目で文字で追う。

3曲目のページを開く。ねこさんが、お別れであるこの日を思いながら書いたという曲。読み進めていき、その解説の中の1行に目が止まる。そこには、1年以上前の事なのだけど、ねこさんと自分が雑談した時に触れた話題が書かれていた。

ねこさんの記憶に残る様な自分とのコミュニケーションってあったんだな。

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