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ブランチとコヒーレント (30)

2023年4月のブランチ (1)

燎のライブは何度でも観れるけど、その理由の一つに対バンの凄さもある。
自分が知らないだけで、世の中にはこんなに面白い、素敵な人達が沢山いるんだなと、対バンも今まで以上によく観る様に。

金曜日の夜ではあるけど、18時スタートという日本の会社勤めにはちょっと厳しい時間から燎のライブ。場所は新宿Loft。老舗中の老舗ライブハウス。

自分はインディーズのバンドを30年前に一度だけこの箱に見に行った事があった。けど、歌舞伎町じゃなかったなと調べて見たら、移転したらしい。なので自分はこの箱を知らない。

ああ、懐かしいな、あのバンドかー。

当時、自分は自由が丘の風呂無し四畳半一間に住んでいて、ピザの宅配で稼いだお金を全部好きなものだけに注ぎ込んでいた。電話すら引いてなくて、一度その部屋に入ると完全に世界から隔離された、自分のお城だった。

Staffordというブランドのエレアコ、シンセサイザーはRoland D-20、U-220とKawai K1。バイクはカワサキ ZZR400。風呂無しで分かる通り女っ気は全くなくて、当時一人の女性に一年で8回振られた事もあったくらい、女性に好かれるタイプでは無かった。あ、それは今も進歩せず。

そのバンドは、当時流行りだったLAメタルにインスパイアされたバンドで、モトリークルーの影響をもろに受けていた。かっこよくて、同級生の女の子は次々にやられて姉妹になってたのは今だから言えるお話。

そのバンドのチケットノルマが行かないからと、一年で8回振られた女性から買わされたチケットがこの箱のライブだった。今から思うと、チケットノルマってあったのかな…ちと疑問だけど。

当時のその箱はなんかやばい香りがプンプンして、童貞オタク体質の自分には悪魔の巣窟に見えた。けど、出演しているバンドはどれも尖っていて、そのバンドがお子様に見えるくらいで、どのバンドも輝いていた。やばい方向で。自分には絶対届かないところだなと打ちひしがれて帰った記憶。

箱に入ると、入り口に3人演者さんが立っている。
二人はChicken Blow the Idol(チキブロ)というグループのうちの2人、一人は姫事絶対値というグループの1人。フライヤーなんかを配っていて、営業頑張ってる。

チキブロは、事前に果南さんがツイートしてて興味を持ち、前日は散々彼女らの曲を聴いていた。姫事絶対値の人はねこさんとかなり似た系統のツインテ女子だけど、場数を踏んでて百戦錬磨的な雰囲気がある。

早い時間でお客もまばら、そんな中で入ってくる人に声をかけている。こんな営業努力にはなんか応えてあげたくなるよね。

⁂ 

燎のライブが始まる。観客はそこそこいるものの、いつも観客を先導する先輩オタクさんは今日は不在。ちっとは客席側が盛り上がってないとトップバッターとしては、と、今日は張り切ってみようと思う。

今日は大人しめの曲からスタート、MCを挟んでまた静か目、最後にいつもの "暁" というアップテンポの曲でラッシュを掛ける。

いつも最前で盛り上がる若手オタクさん、今日は先輩オタクさんがいなくてちと不安そう。自分はここまで結局撮影中心だったけど、ここはカメラを置いてステージに向かう事に。

正直、今までコールは人任せでなんとなく合わせてきた。やっといくつかパターンがわかってきて、今日はコールの先導をしてみようかと思う。とは言え、自信を持ってできるわけでも無い。

"暁"のサビに入る。手を挙げて回し、隣で同じくぶん回っている若手オタクさんとアイコンタクト、二人で

「はいせーの」
「オーイ、オーイ、オイオイオイオイ」

とりあえずなんとかなった様だ。その後も若手オタクさんと声を合わせてサビの部分だけ入れてみた。
人生初のコール先導は二人で様子を見つつとなった。



"暁"を乗り切り、燎の出番が終わる。
今日は随分汗出たな、と思ったらそういやYシャツネクタイの上から燎のTシャツを着てたんだ。クールダウンのためにビールを飲みにドリンクカウンターへ。次の演者さんがステージを始めている。ビールを急いで飲み干し、空いていた上手最前に。

最後の対バンまでステージを見届け、物販に入る。今日は最初から最後までがっつり演者さんのパフォーマンスを堪能した。良い対バンだった。

この日、自分は朝一番の新幹線で大阪、その後昼過ぎに名古屋で仕事をしてから東京に戻りライブに参加で、ちょっと眠い。とりあえず大阪のお土産をねこさんに渡す。

前回のライブの時、お土産待ってるー、と言われていて新幹線の駅構内のお土産屋さんを探して歩くも、お目当ての物は全く見つからなかった。

売店のお兄さんに聞いた所、在来線の方の売店に売っているらしい?という事で、改札の駅員さんにお願いして一旦在来線の方に行き、なんとか目的のものを獲得。小走りで名古屋に向けて新幹線に飛び乗った。

果南さんにお土産を渡してちょっとお話し。
今日は人が多い方ではなく、燎の二人は一人一人に長めに対応をしている。

周りを見渡すと、開演前にビラやフライヤーを配っていた人達がいた。まずは果南さんがツイートしてて楽曲が気に入ったチキブロへ。

果南さんがそのグループのうちの一人のみかんさんという方を知っていたので、きっかけにはちょうど良いかとその人にチェキを頼む。ちと高くて1,500円。

自分が昨日初めて聞いて気に入った2曲が生で聴けて良かったと伝える。みかんさん、口角を思い切り引き上げた満面の笑みで喜びを伝えてくれた。

次は姫事絶対値のゆうらさん。ねこさんと似た華奢なシルエットに長い髪のツインテール。顔はしゅっとしていて凄い美人。

きっと色んな男の人に言い寄られてるんだろうなとかゲスな想像をしながら恐る恐る初めましてのご挨拶。サバサバした気質が言葉遣いから伝わってくる。

今日のライブにどういう経緯で来たのか聞かれ、燎チームと雑談しているねこさんの方を向いて「あそこのツインテの人推しで、今日きたんです」
なるほど、という顔でこちらを見る彼女。

彼女に今日のライブのお話しをしてみる。楽曲を事前に聴いていて激しめとは思ったけど、ステージは想像以上に激しくて、しかもかっこよかったです、と伝える。

ステージ中、彼女はステージの前にあるモニタースピーカーに片足を掛けて会場に向かって前のめりに歌う姿が印象的だった。彼女のそうやって歌う姿を見ながら、ねこさんとこういう時の姿勢も似てるな、とか思いながらステージを眺めていた。

「観ていてくれたんだね、よかった」とぽつり。
どういう考えでそう言ったのかよく分からなくて、その後の話を繋げられなかった。

と、ふと顔をあげて「今日は大阪まで行ってたんだよね、大変だったね、お疲れ様」と言われてびっくり。どうして知ってるの?と聞くと、開演前に燎チームが集結しつつある時、人が来るたびに「間に合ったんですね」と声を掛けられていたのを見ていたとの事。

グループは5人、彼女はセンター。見た目はとても綺麗だし煌びやかに見える、何もしなくても周りは放っておかないだろう。なんて思ってたけど、開演前の観客に声を掛けフライヤーを配ろうと孤軍奮闘している姿。こういう人でも大変なんだな、と思った。

インスタントカメラの写真を渡されて、ありがとう、と挨拶。その場を離れようとすると「あ、ちょっと待って」と引き止められる。なんだろうと思ったら「これ持ってって」とフライヤー数枚を手に取り始めた。

「あ、了解です、他の人に配りますね」
「うん、よろしくね」

商魂逞しいわね、ビッグになってね。

ふと燎の物販の方を見ると、ねこさんがフライヤーを持って歩き出そうとしつつも、いつメンと何か会話している。果南さんは既に荷物を片付けいなくなっている。次の仕事のために移動したみたいだ。

いつもなら写真あと一枚、という所だけど、もしかしたらいつメンばかりで物販を占拠しているのは営業の機会を失っているのかもとふと思う。
今日は止めておくか。

エージェントオタクさんが寄ってくる。

「どこ行ってきました?」
「姫事絶対値に」
「ツインテに引き寄せられましたね、せっそうねー」
「さーせん!浮気してきましたー」

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