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ブランチとコヒーレント (18)

2022年12月のブランチ (1)

ひたすらお店に通おうとする日々も、ちょっと仕事が詰まっていて、ラストオーダーに間に合わなかったり、間際に駆け込むもご飯にありつけない日もあったり。みっきゅんと菜月さんファイナルご飯は幻となってしまった。

Music Bar Corda閉店前最後のねこさんご飯当番、今日はいつにも増して外せない。ねこさんも最後は絶対に売り切れ御免しないと昼から仕込みに余念がない様子。
パチンコ台に座る前から大当たりが確定している。あとは座れるかどうか。

自分の仕事スケジュールには "私用:お願い帰らせて" と記入して定時ダッシュを先週から宣言済み。

チームの若手技術者とデータベース設計のレビューして、他部門の偉い人と進捗確認。19時までの会議を終えて会議室を出ると、30秒後には本当にダッシュ。

その若手くん、自分のスケジュールを見て察してくれつつ、更新した資料を次々にチャットツールで知らせてくる。自分はMusic Bar Cordaへの移動中にスマホを見ながら返信。便利なんだか忙しないんだか。けど、おかげで仕事を進めながら推しの元へいそいそ。

ねこさんの最後のご飯は、初めてねこさんのご飯をいただいた時と同じオムライス、原点回帰にして今回はナポリタン増強。

忙しなく調理を続けるねこさんの後ろ姿を見つつ、他のキャストさん、たてみんさん、ちあさんとお話。今の話題の中心はもっぱらMusic Bar Corda閉業後の身の振り。たてみんさんは引っ越しをして心機一転、ちあさんは…どこに向かうのだろうか。

コンカフェと言っても色々なスタイルがあるようだけど、その時に出た話では、なんとも厳しい水商売の世界が見え隠れする。Music Bar Cordaに感じた優しい世界ではなさそう。自分が求めるものはそこにはない。

ねこさんには疲れもしくは閉塞感が見える、様な気がする。お客と対峙することは営業活動として一つの要素でありつつも、お客さんとの距離や気疲れだろうか。ならば自分もその片棒を担いでいる訳だけど。
次のステップはどうするのかな。

ねこさんのオムライス・ナポリタンは早々に胃袋に格納される。最近濃いめに傾きつつあった味付け、今日はスープは濃い目もその他は若干おとなしめで、自分には程良い。
最後だしもう一ついっちゃおうかな、と忙しなく調理を続けるねこさんの後ろ姿を眺めつつ、様子とタイミングを図る。

しかし次々にお客が到着、オーダーは途切れぬまま満席に。ねこさんはずっと台所仕事で、腰が痛いーと連呼。今日は全然座る事なく仕事し続けているらしい。

ここでご飯の追加オーダーはちょっと酷だな。止めて、デザートへ。
けど期せずしてこの選択は正解だった。後になってじわじわと満腹感。追加してたら食べきれなかったりして。



最後のねこごはんの日、調理で忙しく、普段通り特に何かを話すわけでもないまま、蛍の光が流れ始める。出口で渋滞していたら、ねこさんに仕草で退店を促される。わかってる、ごめんよ。

ドアが閉まる間際、振り返ると笑顔を作りつつも目線は下を向き疲れが隠せないねこさんの表情がちらっと見えた。
おつかれさまでした。とても美味しかったー。


2022年12月のコヒーレント (1)

Music  Bar Corda の閉店が発表されて1ヶ月少々。同じ経営母体の事務所に所属するアイドルユニット燎もライブの休止状態が続く。これまで週に1度は足を運んでいたライブハウスにも行かなくなり、カメラのシャッターを切ることもなくなる。

燎の活動は、対外的には2023年1月再始動と表明されている。
けど、こちらからは今、何が起きているのか動きはわからない。実際どうなるんだろうか。こちらから根掘り葉掘り聞きたい気持ちもなくは無いのだけど、今はそれは止めておいて、シンプルに、彼女らが話してくれる事に正面から対峙しようと思う。

いつの間にか自分の生活は燎のライブを区切りとしたリズムになっていたのにそのリズムを失って、また仕事一辺倒になりかける。このままだと、また仕事して家に寝に帰るだけの生活に逆戻りだ。

せっかく去年ねこさんにきっかけを貰って、あのメイド喫茶やMusic Bar Cordaと関わる人たちのおかげで、好きな事を好きと言って、笑顔でいられる感情を取り戻しつつあるというのに。

自分は人とたわいもない話をする感覚が特に疎い、つまらない人間。仕事の間柄の人とそういう話をする事があっても良いのだけど、立場がちょっとめんどくさくて、くだけた感じで話せるのはごく一部分の人。皆と、とはなかなかならない。

対してここは自分が何者かを決めつけられて話す必要は無く、話した時受け入れてくれたり、それは違うよって指摘を受けたりという時も、仕事と違い大義名分が先行する事なく感覚的な話として対話ができる。これが何より心地よい。

あとは、結論を求める様な展開ではなくゆるゆるとできるようなコミュニケーションのリズムが自分に欲しい。そして相手を笑顔にしたい。ここはその訓練に格好の場所。

自分がMusic Bar Cordaに通う理由、知らず知らずに求めている事って、必ずしもねこさんじゃないとダメかというと、そうでは無いのかな。
自分は何を考えて何を求めてんのかな。分からなくなって来た。

ここ数ヶ月ねこさんとの会話の数はとても少なくて、それを他のキャストさんにぼやく事度々。その度にそんな事ないよ、仲良いと思うよと慰められる始末。そりゃビジネスだ、ねこさんはマスクメロンさん苦手だよなんで言われる様では終わってる。

そんな時、果南さんからそれじゃちょっと距離おいてみたら?と言われてぎくっとする。ねこさんからすれば自分一人欠けた所で気にする必要もない。解ってはいても、自分はそれが明らかになるのが怖いのだろう。

またある時は、他の子の事はよく見ているのに櫻木さんの事は全く見えてないよね、恋してるから見えないんじゃない?と言われる。うーん、たとえねこさんといい仲になったとしても、誰も幸せになれないんだよね、残念ながら。

全く分からん。ねこさんの事も、自分の事も。

そんなこんなでゴニョゴニョしている間に、通販で買った果南さん生誕のアイテムが届く。中には手書きの手紙。普段果南さんにふと話していたことを覚えていてくれて、弱音を弱音と受け止めてくれつつも、捉え方次第だと思うんだ、と諭される。そして、これからの活動に向けての心意気。

それと同じ時期、お店の会計を済ませようとしていたら、ねこさんが席にやってきて生誕祭の特典の手紙を自分に手渡す。ねこさんも果南さんも、沢山の人に宛てて手書きの手紙。大変な労力だな、この忙しい時期に。

「んー、何書いたか忘れちゃった」

あー、そうっすか、と笑いながら受け取っておいて、帰りの電車の中、封筒をいつもの数百倍丁寧に開け、手書きの便箋に目を落とす。そこには、ねこさんと自分の間の共通項、音楽の話が。

ねこさんとたまに話せた時に振ってくれた音楽の話から、自分が音楽の世界を覗いていた頃のエピソードをいくつか話した事がある。ねこさんがまだ影も形もない頃の出来事、もはや歴史の世界。

ねこさんはそんな昔話を覚えていてくれて、自分が過去に置いてきた点と、何の関係も無く年月を経てねこさんが打った点は音楽という線で繋がっていて、うちらがいる今に繋がっているんじゃないかと綴る。そして手紙はこう括られていた。

"まだ見せたいモノ、景色、聞かせたい歌がいっぱいある!!"

ねこさんと果南さんは来年もまたアイドルという点を打ち、音楽という線を繋いでいこうとしている。そして二人とも、自分と一緒に、と言葉を添えてくれていた。果南さんとねこさんから別々にもらった手紙の中身が自分の中で一つになった。

そうか、これか。来年も楽しみだ。

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