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音の面影、最後の想い出(4)

五月三日
朝十時に祖母に会いに病院に行くと、
「かず…ま…」
と、祖母が言った。
久しぶりに祖母の口からきいた自分の名前に俺は泣いてしまった。親戚みんながおどろいていた。
「み…ず…」
祖母の言葉に、母がスポイトのようなもので、水を飲ませると、
「おいしい。」
と、言った。
そして、祖母は、ばあちゃんはそのまま息をひきとった。

五月四日
両親や、伯父、叔母がみんな集まってお寺はどこか、葬式の斎場はどこか、と決めるためにあーだこーだと話し合っていた。
いとこで伯父さんの娘の万梨姉ちゃん、その弟の健太兄ちゃん、叔母さんの娘で俺の二コ下の紗世、その妹で俺の三コ下の美世と集まってずっとテレビをぼーっと見ていた。
万梨姉ちゃんに、
「ねえ、万梨姉ちゃん、マサルさんて知ってる?」
ときくと、
「マサルさん? 誰それ?」
「やっぱ知らないか。ばあちゃんが死ぬ間際、俺のことマサルさんてずっと呼んでたの。」
「へえ。もしかしたら、お通夜に来たりするんじゃない?そのマサルさんて人。」
「そうかなあ。生きてるかなあ、マサルさん。」
「どうだろうねえ。」

(つづく)

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