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とても変わった人 A Most Peculier Man サイモンとガーファンクルアルバム「サウンズ・オブ・サイレンス」8曲目

最初に聞いた時期は正確に覚えていない。遠い数十年前とだけ書いておきます。

まず「ガス自殺」をした人に対しショックを受けた。
自殺という行為から無縁だった自分がいる。
さらに人とコミュニケーションを絶つ人間がいることの信じ難さ。

人間のいかにも哀しい嵯峨が、大人になればわかる。特に現代社会ではとりわけ顕著だろう。

私たちは生きている。でも、ただ単に生きているだけで、人間が本来もっていたもっとも美しい人間関係、大小さまざまなコミュニケーションという点では希薄になっている。これはここ数年の傾向ではなく、ポール・サイモンが「とても変わった人」を書いた1960年代から次第に泥沼へと突入していったのだ。

印象的な、というより変な前奏。前奏のリズムにのり淡々と唱われる歌だ。

A Most Peculier Man

He was a most peculiar man
彼は本当に変わった男だった
リアドンさんが言っていたんだ、彼女はよく知っているからね
だって彼の上の階の住人
リアドンさんがいうには、風変わりな男だったって

He was a most peculiar man
彼は本当に変わった男だった
いつもひとりきりで家の中にこもり
部屋の中、彼だけの中に住んでいた
変な男さ

He had no friends he seldom spoke
友達もいないしめったに口をきかない
彼に話しかけた人を見た人なんかいないし
だって彼は親しみやすさなんてなく、人に対して無関心
普通の人とは全く違う人物なのさ
ああだから、変なヤツ呼ばわりされていた

He died last Saturday
あいつが先週の土曜日死んだってさ
ガスの元栓を開けベッドに入った
窓は閉め、二度と目覚めることはなかった
そのちっぽけな部屋から旅立った。静寂な彼の世界へと

And Mrs. Reardon says he has a brother somewhere
リアドンさんは言っていた、確か兄弟がいたはずだ、と
急いで探さなくちゃって
誰もがいう、死ぬなんてなんて馬鹿なことをしでかしたんだ!って
でも、とにかく変な男だったね、と

Lyric by Paul Simon 迷訳:musiker 以下同

いつも1人で他人との関係をもとうとしない。言葉も交わすこともない男。周囲の人々は、彼を奇妙な男だと思っている。変なやつ変なやつと陰口をいっている。そのうち、ガス自殺で死んでしまう。  
周囲の人々は、「なんて事をしたんだ」と嘆きながらも、「でも本当に変な奴だった」とある意味、冷酷につぶやく。

彼の悩みや悲しみは誰も知らないし、知ることもできない。人は「馬鹿なヤツ」という言葉だけで切り捨てるだろう。でも、複雑怪奇な社会で、十分な人の愛を知らないまま、あるいは知っていてもそれが心に届かない人間は、多かれ少なかれ精神的に追い込まれるのである。もちろん彼自身の心の弱さもある。でも、一概に彼個人のせいばかりだともいえない。心の弱さだなんて誰が言える?それが難しいところだ。

こういう孤独心を満たすため自殺を企てる人、極端な対局にあるのが犯罪を犯す人だろう。一連の奇妙な殺人事件等(表立っていない多くの奇妙な事件も)は、心の病からくるものに違いない。もっとも多くは事件も起こさず俗世間の中で何らかの解決策を見いだし、ひっそりと生きているだろうが。

深刻な事情を、本当にあっさりと歌っているところが、サイモン作の歌らしい。そしてサイモン&ガーファンクルのデュエットに見事にはまっている。曲も淡々と進んでいるのが、妙におかしい。 

人間の孤独をテーマにしたサイモンの歌は、いつの時代も私たちの心に、強いメッセージを送っている。

淡々とした歌を飾るのは、印象的なアルペジオのフレーズ。


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