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シューベルト 「ロザムンデ」

シューベルト 「ロザムンデ(魔法の竪琴)序曲」 D.644
Overture “Die Zauberharfe”, D.644
付随音楽「ロザムンデ」 D.797 全曲
Rosamunde von Cypern, D.797(Op.26)


シューベルト 唯一残っている完成した付随音楽

交響曲に限らず劇音楽(オペラを含む)もシューベルトは未完成作が多い。完成したのは10作。そのうち彼の生前に公演があったのはわずか3作。未完成やスケッチの残っているのは9作。焼失したため未完状態になっているものも含まれる。

それらの多くは、よほどのシューベルトファンにでもなければ一般的に知られていないし、残念ながら長い間注目もされてこなかったが、近年再評価されているらしい。付随音楽として残っている完成作品は「魔法の竪琴」序曲と「ロザムンデ」だけである。だから「ロザムンデ」は貴重な作品なのだ。

これは劇の付随音楽であるから、できれば劇のあらすじなどを知りたい。ところが私の持っているレコードの解説には「台本が今日残っていないので劇の内容はもとより、シューベルトの曲がどの場面で用いられたか、正確には不明」(小林利之氏筆)とある。困る。せっかく関心をもちはじめた題材だ、もっと知りたい。ということでインターネットで国内外のホームページを調べた結果、次のようなストーリーであることがわかった。

小林利之氏の解説が載っているLP
SLA-1132
シューベルト「ロザムンデ(魔法の竪琴)序曲」D.644付随音楽「ロザムンデ」 D.797全曲管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団指揮:カール・ミュンヒンガー合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団(合唱指揮:ノルベルト・バラチェ)コントラルト:ロハンギス・ヤシュメ

ファンタジーの王道をいくシンプルな物語

正式なタイトルは「キプロスの女王ロザムンデ」
貧乏な未亡人に育てられた娘が、実はキプロスの王位継承権のある姫でありある日突然女王になる。娘が外に預けられた理由は謎だが、一夜で世界が変わったとはこのことだ。

だが、国には政権を狙う輩がいて陰謀を企てる。彼女との結婚をもくろんだり、挙げ句の果てに毒殺などを。王女の運命やいかに?という危機一髪の所で、ファンタジーの常道、若き青年が彼女を救いに来る。セーラームーンが危機の時にかならず現れるタキシード仮面のように。王女は救われる。

しかもその青年は、王女が子供の頃に将来結婚するべく定められた許嫁であったこともわかる。めでたしめでたし。いや、できすぎだ。映画にしたらきっと映画館が閑古鳥を泣きそうなクサイ物語である。が、劇やオペラはストーリーが単純な方がわかりやすくていいのだ。この劇を見てみたいが、台本がないのなら仕方がない。残るのはシューベルトが書いた音楽だけなのだから。

序曲+10の楽曲

音楽は序曲と10曲で構成されている。なぜ序曲を分けるのか? 

この序曲、実は別の付随音楽「魔法の竪琴」の序曲なのだ。シューベルトは「ロザムンデ」の序曲を書いていない。時間がなかったのが主な理由のようである。また、当時はいろいろな音楽を使い回すことは普通に行われていたようだ。初公演時には彼のオペラ「アルフォンゾとエストレッラ」の序曲を転用したという説や、実際には「魔法の竪琴」を使用したという説があるようだが、現代、「ロザムンデ」の序曲といえば「魔法の竪琴」D.644のことをさす。

《序曲》
この一曲だけでも充分聞く価値のある序曲だ。事実この序曲が最もポピュラーで録音も多い。全体は三部に分けられそれぞれが美しいメロディと躍動的な弦楽器や緑の風のような木管楽器で彩られている。

序奏部はおごそかなユニゾンで始まる。一瞬怪獣映画のテーマかと思い違いしそうな冒頭だが、弦楽器のダイナミックな音色は聴いていて気持ちがいい。

すぐに木管楽器のメランコリックなメロディが現れる。メロディを低音弦楽器が受け継ぐ箇所が特にいい。やがてヴァイオリンによるメインテーマ。メロディメーカーのシューベルトならではの音楽だ。口ずさみながら道を歩いていれば心も軽やかで明るくなる。バックで控えめに鳴るベース音も効果的。

美しいメロディはやがてクラリネット、オーボエソロによる第二テーマに受け継がれ音楽も曲調もクレッシェンドだ。聞いていて自然と気持ちが高まってくる。

「ロザムンデ」で最もポピュラーなのはこの序曲で録音も数多い。それも、うなずける充実した音楽。でも、読者の皆さんには、序曲だけでなくこの後の音楽もぜひ聞いて頂きたい。楽しみはまだまだ続く

《間奏曲第1番》
日本古謡「さくら」が主題に使われている希有な音楽。というのはジョークですから真に受けないで下さい。でも序奏後メインメロディ冒頭の一小節は似ています(←ホントか!)。

序曲とはうって変わり予断を許さない場面設定になるような、つまり悲劇を予感される雰囲気である。弦楽器のダイナミックな動きに注目したい。ティンパニーのドカンというアクセントが印象的。第二主題はこれまた美しい弦楽器と管楽器のハーモニー。クライマックスの激しさは圧巻!最後金管楽器のハーモニーを残す。この余韻には不思議な気持ちにさせられる。間奏曲後に繰り広げられるのはどんなシーンだろう。

《舞踊音楽 第1番》
「間奏曲第一番」と前半は同じなので録音ミスかと勘違いするが、舞曲が展開するにつれて曲の雰囲気は徐々に変わり木管楽器の美しい音色が堪能できる。舞曲の継ぎ目で現れるホルン音の余韻がいい。クラリネットとオーボエのソロに注目して聞いてほしい。やがて弦のトレモロ先導で低音楽器の深いメロディと木管楽器の会話。牧歌的なメロディがオーボエ、フルート、クラリネットへと受け継がれる。

《間奏曲 第二番》
ゆったりとした合奏はどこかもの悲しい。常にハーモニーでメロディは進む。弓を使わず指による音で弦がまるで運命が押し寄せるように静かにクレッシェンドしてくるのが、なんとなく怖い。ハーモニーは美しいのに、背筋がぞっとするのはなぜだ?最後に現れるトロンボーンのメロディは後の曲へつなぐメッセージかもしれない。

《ロマンス「満月は輝き」》アルト独唱
木管楽器の静かな前奏に続き、深いアルトの歌声。前奏は長調なのに歌では一転し短調。これがまた深い叙情的なメロディ。さすがメロディメーカーだ。間奏と歌との見事なコントラストを楽しみたい。

《亡霊の合唱「深みの中に光が」》男声合唱
男声合唱男声合唱ファンの皆様、ついにシューベルトの男声合唱曲の登場ですよ!何も言うことはありません。このハーモニーの醍醐味を堪能しましょう。途中の不協和音を含む和音の動きの見事なこと。どちらかといえばポリフォニー崇拝者である私もこのホモフォニーを聞けば考えを変えざるを得ません。

《間奏曲 第三番》
シューベルトの弦楽四重奏曲第13番第2楽章にも登場する有名なこのメロディ。清涼で暖かな音楽に心奪われます。中間部のクラリネットソロはがまたメランコリックで、いい味が出ています。

《羊飼いのメロディ》
ホルンのシンプルなハーモニーをバックにクラリネットが奏でる間奏曲的存在。だが不思議な存在感。

《羊飼いの合唱「この草原で」》混声合唱
前の曲と同じようにクラリネットのメロディが先導しホルンに受け継がれる前奏。合唱のハーモニーがとにかく素晴らしい。中間部では4人のソリストによる重唱がある。合唱と重唱の音のコントラストが楽しい

《狩人の合唱「緑の明るい野山に」》混声合唱
男声合唱、女声合唱、そして混声合唱と一度に三種楽しめる。題名の通り狩人の合唱。劇はキプロスが舞台だが、この曲を聞くと私は低オーストリア州の美しい野山の光景と民族衣装をまとう人々が踊る様子が目に浮かぶ。

《舞踊音楽 第二番》
終曲も舞曲。おそらくハッピーエンドの王女と許嫁が舞踏会で幸せに踊る場面なのだろう。終曲にしては派手なクライマックスもないが、上品な雰囲気は、かえってこのストーリーにぴったりかもしれない。

シューベルト 劇付随音楽《ロザムンデ》全曲
指揮:クラウディオ・アバド
管弦楽:ヨーロッパ室内管弦楽団

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