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「ブレスト」 Blessed/サイモンとガーファンクル アルバム「サウンズ・オブ・サイレンス」3曲目

Blessed are the meek
柔和なひとたちに幸いあれ
For they shall inherit
彼らは地を受け継ぐであろう
 
血を流す子羊は幸いあれ
踏みにじられ
唾を吐かれ
裏切られた者 すべて幸いあれ

神よ なぜ僕を見捨てたのですか
行くあてもなく
ソーホーの街を歩き回った
昨日も、、、、
でも、まあ、いいんだ、、。

(Copyright: Paul Simon)
 迷訳:musiker ※以下同じ

ジャンジャガジャンジャンジャンジャン、ジャンジャガジャンジャンジャンジャンという少し耳障り(?)なエレクトリックギターのサウンドによる前奏で始まるのは「ブレスト」。アルバム「サウンズ・オブ・サイレンス」3曲目収録の異色な作品です。

Blessedということばを調べると、
神聖な、聖なる、尊い、あがむべき、神の祝福を受けた、この上なく恵まれた
などの訳語が並びます。第1番冒頭の2行、Blessed are the meek~inherit までは、聖書にある言葉ほとんどそのままのようです。

これは神を崇める、宗教的な歌なのか?
いいえ、そこはポール・サイモンのことですから、ひとひねりしています。

聖書の言葉の引用の後、歌の中間部には「踏みにじられた」「唾をかけられた」「裏切られた」「覚醒剤」「麻薬」「物乞い」「安娼婦」「イカス美人」など物騒ぎで人間くさい言葉が出てきます。韻による効果で音声として、とても心地よいけれど、内容を理解すると心おだやかではいれません。

そして後半で、
Oh Lord, why have you forsaken me?
神よ、なぜ僕を見捨てたのか?」の叫びが。
おそらくこの部分からがこの歌の核心だと思うのですが、叫びに続く静かなつぶやきが全てを物語ります。

 My words trickled down, like a wound
 僕の言葉は流れ落ちる、まるで傷のよう
 That I have no intention to heal.
 癒す気にもなれない「心の傷」
 (第2番より)

第3番最後の2行も意味深、、、、。

 I have tended my own garden
 僕は自分の庭の手入れを
 Much too long
 長くしすぎた

この部分で、ポールの歌声は、感情を抑えているものの、心では人一倍大きな声で叫んでいるようです。

前半・半ば部分が二人の力強いコーラスで歌われているため、なお一層つぶやき部分が際立ち、実に効果的です。

ポール・サイモンは、落雷にあい、ソーホー(たぶんロンドンの繁華街?)のセイント・アン教会に避難したとき、この歌のアイデアがひらめいたそうです。口先だけ、うわべだけのお説教や偽善などへの批判をこめて作ったといわれています。

「ブレスト」は英国人シンガーのガイ・ダレルがのちにカヴァーしましたが、ヒットはしなかったという。ポール自身はカヴァーされたことを喜んだみたいですが、放送に取りあげられないだろうと予測していました。それは、彼自身がこの歌の特異な面を十分理解していたからでした。確かに変わった歌ですし、結果は予想通りになったわけです。

フォークロック調の痛快な音楽にのせて、宗教的な美しい言葉と現実的で刺激的な言葉とのコントラスト、そして、自らの心内をこめた静かなつぶやき。
私も以前はさほど真剣に「ブレスト」を聞くことはなかったけれど、今歌詞をよく読んでみて、奥が深く味のある歌だと改めて感じました。

3枚組「旧友」に収録されているライブ版(下記リンク一番下にその音源リンクを貼っておきます)は、ポールのギターだけの演奏ですが、エレキバージョンのアルバム版とは違って、二人のコーラスが一層光り、また、ポールの変則ギターの音もカッコイイです。


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