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早く家に帰りたい Homeward Bound/サイモンとガーファンクル「パセリ、セージ、ローズマリー&タイム」第4曲目

ギターとスーツケースを携え街から街へ旅をするシンガー。
移動には列車を利用しているらしく、駅のホームのベンチに座って孤独に物思いにふけっている。

邦題「早く家に帰りたい」(原題の意味は「帰り道」あるいは「家路」だろうか)は、ポール・サイモンが英国でクラブ回りをしていた頃の心情を歌ったことで有名な作品。アコースティックギターの短いシンプルな前奏で始まる。

僕は駅のベンチにすわっている
列車のチケットを受け取り
一泊のみのコンサートツアー
スーツケースにギターが旅の友
どの場所も入念な受け入れ準備がされている
僕という詩人兼ワンマンバンドのために
でも
帰り道?
これがもし
帰り道ならば、、
ホーム そこは僕のより所
ホーム 僕の音楽が流れ
ホーム 愛が僕のために
静かに待ち続けてくれる場所

Lyric and Copyright:Paul Simon/創訳:musiker 以下同

主人公の心は、今夜のコンサートにある。何にも心配してはいない。受け入れ場所ではいつも充分な準備がなされ、彼はそこでただ気持ちよくそこで歌ってくるだけだから。彼は自らを「詩人兼ワンマンバンド」と呼ぶ。歌作りという行為の原点は「詩人」、そしてギター一本でバンドにも匹敵する見事な伴奏をする、彼はワンマンバンドなのだ。

そして、彼の心はいつものように、懐かしい場所へと飛んでいく。そこは彼の今この場所にあっても、心は遠い街にある。そここそが彼の「拠り所」。すべてはそこにある。

毎日が終わりのない流れ
タバコと雑誌だけの
どの町も同じように見える
映画館や工場
見知らぬ人たちの顔を見ていると
思い浮かぶのは
僕がつながる場所
帰り道、、
これがもし
帰り道なら、、
ホーム そこは僕の拠り所
ホーム 僕の音楽が流れ
ホーム 愛が僕のために
静かに待ち続けてくれる場所

本来旅はとても楽しいものの。だが、一人孤独に動きまわる仕事の旅は、決して楽しくはない。友が一緒なら良いが、知人さえもいない。時には地獄にいるようにも思える、寂しさで。毎日同じことの繰り返し。主人公はタバコと雑誌にその思いを託す。知らない人の顔ばかり見る日々の中で次第に思いは懐かしい自分の町へ向かう。

今夜もまた歌うのは僕の歌
ゲームに遊び、そして自分を偽る
言葉は月並みな影となり僕に跳ね返ってくる
まるでからっぽのハーモニーのようにね
誰か安らぎを与えてくれないかい?
帰り道、、
これがもし
帰り道だったら、、
ホーム そこは僕のより所
ホーム 僕の音楽が流れ
ホーム 愛が僕のために
静かに待ち続けてくれる場所

自分の作った歌を、彼はいつも「偽り」だと思っているのか?そんなことはないはずだけれど、時にはそんな気持ちになる。不安から抜け出せないんだ。聴衆がどんな風に彼の歌を聞き、何を感じたのか、それを聞いてみたいけれど、感想を聞くのを避けたい。彼はジレンマに陥っている。そんな行き所のない気持ちを慰めてくれるのは、やはり自分の住む町。

この歌の初出は「ポール・サイモン・ソングブック」で、ギター一本だけで歌うポールの歌声が収まっている。ワンマンバンドという自らの命名にふさわしい見事な演奏を英国のたくさんのクラブでこなしていた彼のシンガーとしての実力を充分聞かせるこのアルバムは*残念ながら絶版となり、今では一般入手不可能だ(ニューヨークのライヴも出たことだから、ぜひ再発売してもらいたいものだ。元々ポール・サイモン自身が発売を止めさせた経緯もあるから難しいだろうが、ロック史上貴重な音源としてポールもぜひ再発売に同意してほしいなぁ。)。ソロで歌う「早く家に帰りたい」は、彼の心情と重なりしみじみとしている。

*この文を書いた2000年代初頭の状況。2023年現在はCD、配信共にあります。

S&Gとして収録されているアルバム「パセリ・セージ・ローズマリー&タイム」版ではアートのハーモニー、伴奏にギターやドラムも加わり、全く印象の違う楽曲に仕上がっている。こちらはまさに当時風に表現すると「フォークロック調」とでもいおうか、一般向けの軽いタッチだ。

「グレイテスト・ヒット」収録のライブ版がシンプルなギター伴奏のみである点は「ソングブック」と同じだが、アートのハーモニーが加わり光っている。ベストはこの版ではないか。


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