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丑三つ時のモーツァルト

この文章は年末の忙しいさなかに書いたものです。

DTP系の宿命だろうか、各社の年末進行のあおりで前倒しの仕事やら年始用宣材等、至急で大量、おまけにやっかいな仕事の山。全員フル稼働しても追いつかない。投げ出すわけにはいかないから、とにかく乗り切るしかない。けど、体力は尽き果てる寸前。歳には勝てない。あとは、月並みないい方だが精神力を保つしかない。

終電も終わり1時間かけて歩いて帰宅。ヘトヘトになって丑三つ時にようやくたどり着いたボロ借家(すきま風が寒い)で、早く眠ればよいのに、どうしてもCDを聞いてしまう。曲はモーツァルトの「弦楽五重奏曲第3番」。今夢中な曲。丑三つ時のモーツァルトが驚くほど清々しい。

これまで私が聞いてきたモーツァルトの室内楽曲というと、フルート、オーボエ、ホルン、クラリネットなど管楽器を伴う作品が主だった。この傾向はかつてウィーンのアーチスト達と国内を毎年廻った経験が影響している。彼らの編成は弦楽器(ヴァイオリン1か2、ヴィオラ1、チェロ1)と管楽器数種類であり、プログラムには必ずモーツァルトのフルート四重奏曲、ホルン五重奏曲、オーボエ四重奏曲、クラリネット五重奏曲等が含まれた。演奏者は若いアーチストもいれば、レコード録音のある重鎮もいて、質の高い演奏をリハや本番で聞いたのだから、感化されないはずはない。もちろん、いずれの作品も魅力溢れ、何度聞いても飽きないからに他ならない。


チョー単純な音階に酔いしれる

モーツァルトファンなら皆さんご存じのように、モーツァルトには多くの弦楽作品がある。弦楽三重奏曲、弦楽四重奏曲、そして弦楽五重奏曲を聞かずに、モーツァルトの室内楽を語る資格はない、と自分に課題を与え、少しづつ聞き始めている。けれど、雑事に追われなかなか進まない。

そんな中、ふと手をのばした弦楽五重奏曲第3番に、たちまち心を奪われてしまった。

なんと、澄み切った音楽なのだろう。

冒頭チェロのソロが最高なのだ。
で?どんなメロディ?

ドー・ミッ・ソッ・ドッ・ミッ・ソッ・ドッ・ミッ

低音のドから順番に二オクターブ上のミまで階段のように昇っていく。何の変哲もないメロディ。音階練習に使えそうなくらい素っ気ない。悪く言えば「面白くもなんともない」。和音の練習じゃあるまいし、こんなの誰でも書けそうじゃん、と浅はかな私は思うのだ。でも…、この北島君ではないが“チョー”が付きそうな単純な旋律が、聞けば聞くほど味が出てくる。

他の楽器は、というと、第二ヴァイオリン(スコアがないので予想です)と第一、第二ヴィオラがひたすら和音を時計のように鳴らしている。チェロの素っ気ないメロディを受け止めるように、第一ヴァイオリンが装飾音を使った叙情的な短いフレーズを奏でる。この掛け合いが、永年連れ添った夫婦のようで愛らしい。
(ここまで12行使って説明したフレーズは演奏時間10秒ほどなんだが、我ながらよくもまあ、これだけ長ったらしく文を書くもんだ、と思う)

次は、Gの和音を構成する音で全く同じように音楽は流れ、再びCに戻る。次はAm、E7と、和音名だけ示せば、フォークソング的オリジナル曲を作った経験のあるアマチュアも誰でも考えそうなコード進行だ。その誰でも書けそうな構成が、モーツァルトの手にかかると気品溢れた極上の音楽になる、ということを改めて知ることができるのも、感動だ。もっとも、そう単純な音楽が続くわけではなく、細部にひねりが入り、徐々に後期モーツァルト的に難解なフレーズもかいま見せてくる。侮ってはいけない。

第一楽章だけではない、第二楽章、第三楽章、第四楽章も楽しい。特にヴィオラの音色を堪能してほしい。

↑今回ご紹介の作品は5曲目からはじまるNo.3 K.515 ハ長調です。

AppleMusicは表記が間違い。第3番K515はハ長調です。↑

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