名曲395 「そして僕は途方に暮れる」【大沢誉志幸】

ーー銀色夏生作品の最高傑作を……紹介ーー

【そして僕は、途方に暮れる / 大沢誉志幸】

 ぼんやりとした心にぴったりなのは、やはりこの曲か。前日、ヒットナンバーを思い浮かべていたらこの曲が浮かんだ。空虚感をうまく演出できており、日本語を嚙みしめたくなる。満足気に途方に暮れてしまおう。

 大沢誉志幸は1980年代を中心に活躍した。代表曲は今回紹介する「そして僕は途方に暮れる」。ぜひとも多くの人に知ってもらいたい神曲である。

{見慣れない服を着た 君が今出ていった 髪型を整え テーブルの上もそのままに}

{ひとつのこらず君を 悲しませないものを 君の世界のすべてにすればいい そして僕は途方に暮れる}

 文学として至高のレベルにある。作詞は銀色夏生。私の知人(50代)がファンで、その中でもこの曲は特に推していた。私はそれより既に知っていたのでますます意気投合したものであった。

{もうすぐ雨のハイウェイ 輝いた季節は 君の瞳に何をうつすのか そして僕は途方に暮れる}

 これがまたうまいのだ。文章としてはギリギリ繋がっていない、まさしく詞の表現技法である。そのメロディーに収まりきらなかった日本語を補完させ、余韻を楽しむ。もちろんその埋められたワードは人それぞれ。だからこそ味があっていい。

 そして私が最も好きな歌詞がこちらだ。

{君の選んだことだから きっと大丈夫さ 君が心に決めたことだから そして僕は途方に暮れる}

 大沢誉志幸の歌い方が絶妙。希望と悲哀が見事にミックスされている。どっちにも取れるように歌うのは非常に難しい技法ではないだろうか。いま私は2つしか挙げていないが、もしかしたらまた別の感情が混じっているかもしれない。

{見慣れない服を着た 君が今出ていった}

 最後も意味深な締め方だ。完全に文学の世界である。フラッシュバックとも取れるし、今度こそ本当に、の可能性もある。

 この動画で本人の歌っている様子が見られるのだが、魂のこもった姿に胸が熱くなる。すると自然に声にも力が入りそうではあるが、ちゃんと抑えているのも素晴らしい。途方に暮れるさまが聞くだけで浮かぶ。

 惜しむらくは大ヒットまでいかなかったことである。20代の知名度は少ないだろう。CMでのリバイバルを望む曲のひとつだ。ちなみに作曲も大沢誉志幸自身が行っている。当時にしては長い詞なので苦労したのではないだろうか。うまくバラードにまとめ上げたのは確かな実力を証明させた。

       【今日の名歌詞】

君の選んだことだから きっと大丈夫さ 君が心に決めたことだから そして僕は途方に暮れる

 


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