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(音楽話)03: John Lennon “Jealous Guy” (1971)

【力強い弱さ】
John Lennon “Jealous Guy” (1971)

(Ultimate Mix for the new best album “GIVE ME SOME TRUTH” in 2020)

多くのメディア、特にSNS系で取り上げられていましたが、2020年10月9日はJohn Lennonの80歳の誕生日でした。40歳で死去しているので、この80という数字は「生前40年+死後40年」という非常に象徴的なものです。ハッシュタグ”#John80”が拡散された中、米国ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングが彼への敬意を表して(ベストアルバムのプロモーションがメインですが)、青のライティング&白いピースマークを身に纏いました。

John Lennonのイメージ、皆さんどのようなものを持ってますか?The Beatles、リバプール、ヨーコ・オノ、愛と平和、”Imagine”、”Happy Xmas”、”Starting Over”、ニューヨーク、射殺…そのどれも、確かに事実です。そして彼は神格化され、Johnのしたこと・為したこと全てが、特に死後40年間、称賛されてきたと言っていいでしょう。愛と平和の使者であり、家族を大事にした、クリーンでスマートで優しい、非常に立派な人物だった、と。

確かに、面倒見がよく、常に場の空気を笑いに包み、繊細が故に表現力が豊かな、そんな人間の側面もあったようですが、実際の彼は乱暴者で、気が弱い故に口が悪く、自分が常に話題の中心となることを好み、気難しく面倒、そんな人間だった。

何を言いたいかというと、彼の一面を拡大解釈してまるで聖人君主のように扱う昨今のJohn Lennon評に、私は心底辟易としています。そんなの人間じゃないからです。清廉潔白な人間など、人間ではない。毒素があるから良薬は生まれます。欠点があるから改善策が生まれます。そういうバランスこそが人生であって、人間だと思うのです。そのバランスが、現代のJohn Lennon評には決定的に欠けている気がします。

正直、彼の情けなさ、か弱さ、クズっぷりはヒドい。だがそれ故に生まれた傑作が多いのも事実で、その典型がこの”Jealous Guy”

1971年アルバム「Imagine」収録。少々過剰なストリングスがオーヴァーダブされてスケール感が増していますが、曲構成自体は至ってシンプルでピアノ、ベース、ドラムスの最低限な演奏です。歌詞も簡単で「君を失いそうで怖かった、だから君を傷つけるつもりじゃなかったんだ、やきもち焼き(Jealous guy)でごめんね」と謝る。いじらしい、可愛い、などと言う人もいるかもしれませんが、要は、傷つくくらい相当ヒドいことをしたのでしょう?、機嫌を損ねた相手に対して「ごめんよぉ」と平謝りしているのですから。強情で口が悪い割に、その中身はとっっっても繊細で、誰よりもひとりになることを恐れて震え(shivering)、許しを乞う人。それがJohn Lennon。

このどこが立派な人格者ですか?どこが愛と平和の使者ですか?

そんな楽曲なのに、際立つメロディの美しさ。歌声の繊細さ。ピアノの頼りなさ。歌を支えるベースの優しさ。展開してJohnの謝意を促すドラムスの包容力、そしてストリングスの雄大さーーーこれが人間・John Lennon。弱くて脆いところを曝け出してありのままでいることを隠さない。彼の弱さであると共に彼の強さでもある。

一言で表すと「力強い弱さ」とでも言いましょうか。だから、私は彼を愛してやまないのです。

(紹介する全ての音楽の著作権等は制作者にあります。本note掲載についてはあくまで個人の楽しむ範囲のものであって、それらの権利を侵害することを意図していません)

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