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(音楽話)46: David Gilmour & Mica Paris “I Put a Spell on You” (1992?)

【呪文】

David Gilmour & Mica Paris “I Put a Spell on You” (1992?)

たまにはブルースを。”I Put a Spell on You”は聴いたことある方、多いと思います。オリジナルはScreamin’ Jay Hawkins(超変人)が1956年に発表した、ワルツ的リズムで禍々しい雰囲気の変な曲でした。その後様々なカヴァーが生まれ、いつしかブルースになりました。CCRNina Simoneによるカヴァーが有名かと。
今回の映像は英国の有名音楽番組「Later…with Jools Holland」でのライヴ演奏。実はほぼ同じメンツでスタジオ・レコーディングやPV的なものなど、いくつかのテイク違いがありますが、ブラス・セクションも加わったこの生演奏が一番カッコいいので…画素が粗いですがご容赦ください。

Jools HollandSqueezeの創立メンバーで母国=英国ではちょっと有名なキーボディスト。92年から始まったこの番組のお陰で英国王室から叙勲を受けています。というのはこの番組、その時々の最新音楽を紹介するだけでなく、新旧取り混ぜた様々なシンガー、ミュージシャンが共演するところが売り。しかも基本的にライヴ演奏。一期一会な音楽体験が毎週のように繰り広げられるのです…はい私、昔から大好物な番組です。

Mica Parisも英国人。ソウルフルで豪快なヴォーカルが信条で、ヒット曲もいくつかあります。その歌唱力・迫力は評価が高く、彼女も英国叙勲を受けています。昨今はミュージカル等に出演して舞台俳優的なポジションで活躍。2020年にゴスペル・アルバムを出していて、圧倒的な歌力は健在です。

そしてDavid Gilmour。言わずもがなPink Floydのギタリスト。フレーズやサウンドは比較的地味な人ですが、程よく聴く者の琴線に触れる音を出す、安心と実績の男。

音楽ルーツにブルースを持つDavidによるギターソロが炸裂するこの曲。彼の持つフェンダー・テレキャスターをまずはご覧ください。まるで剥がれた段ボールのようなボロボロなボディ。そんなシングル・コイルのエレキでなぜこんな艶やかな音が出るのか…さらに途中でピックアップのポジションを切り換えてソリッドな音色でまあ哭くわ哭くわ。思わず目を瞑って浸りたい気持ちになるサウンドです。
その演奏にピアノのフレージングで味付けするJoolsの良いセンス(彼はブルースやジャジーな曲で特に気持ち良い味付けを施すのが得意)。そして豪快に音塊を吐き出すMicaの肉厚ヴォーカル。Micaが若干乗り切れていない感じがしないでもないですが、それでもこの迫力。収録日が不明ですが、この曲をカヴァーした92年当時、彼女23歳。恐ろしい…。

歌われるのは「あなたに呪文をかけてやる」。散々遊び呆けてナメたマネするあなたに向けて、「覚悟しなさい いい加減にして」「あなたは私のもの」と一方的に通告。その裏にある主人公→あなたへの強烈な愛。愛ゆえの束縛。独りよがりの拘束。でもその奥底にある寂しさーーー。

私たちは、呪い・呪われて生きているのかもしれない。そんな中で思う通りになる/ならないからこそ、愛したり、憎んだり、喜んだり、悲しんだり、導いたり、蔑んだりするのかもしれません。

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