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(音楽話)43: David Bowie “Five Years” (1972)

【5年】

David Bowie “Five Years” (1972)

宇宙に彷徨い、異星人になり、クソッタレのロックンロール・スターになり、忌まわしいアメリカ人になり、ドイツに籠り、「あれは宇宙を彷徨ったんじゃなくてただのジャンキー」と嘯き、メインストリームに躍り出て、わけのわからないパンク・バンドに身を投じ、過去に別れを告げたと思ったらまた過去に立ち返り、愛は失われたと嘆き、そして「いかにも僕らしいじゃないか…」と言って突然去っていったDavid Bowie

世界は完全に、彼に振り回されました。掴めるようで掴めないペルソナを幾重にも纏って、でも最後にはピュアに音楽に浸って自身を開陳し「完成されたアヴァンギャルド」という詭弁を置き土産に逝った彼。あの最後の幕引きの見事さー誰も超えられない。

亡くなってから5年の月日が経ちました。もう彼のような人は、二度と世界に出てこない。なぜ?現代のようにどんな情報でも大抵手に入りやすい、コンビニエントな時代とは違い、70〜90年代はあらゆる事象に独自の感性と軸を持って世界観を構築しなければ、世界を相手に戦えなかったから。つまり、彼自身が世界であり、媒体であり、時代の軸たり得たのです。
(もし現代にデビュー当時のDavidが出てきたら、彼は簡単にネットに潰されていたと思う)

でも世界はもう、David Bowieを必要としません。現代は彼がいなくてもなんだって手に入るからです(表層的には)。

代表作「The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars」の冒頭曲”Five Years”。まさに、彼が逝ってから5年経ちました。いや、歌詞自体は「5年経った」のではなく「あと5年しかない」。異星からやってきたZiggyが終末思想を嘆きながらステージに降臨してくる歌です。

これは72年、英国BBC番組での収録とのこと。原曲にほぼ忠実に演ってます。ピアノを弾いているのはDavidの盟友Mick Ronson。DavidとMickは二卵性双生児のようなもので、どちらかが太陽の時、もう片方は月になる。どちらかが炎の時、もう片方は水になる。この曲では静かにDavidを支えているように見えます。

終末思想は、当時世紀末が徐々に迫っていたからこそ真実味を帯びて皆が夢中になったもの。21世紀の今、その思想はフィクションとして片付けられています。しかし、もし、今、終末思想が出てくることがあるとすれば、それは本当に恐ろしいことです。なぜなら、過去の終末思想とは違い、現代の終末思想にはリアルにできるだけの材料が山のようにあるのだから。

2021年1月20日、某国では新たな指導者が就任します、厳戒態勢の下で。現代と今後の世界を暗示している…考え過ぎですか?

物事のどの面を見ても「事実」しか存在せず、そこに「真実」はない、いや「真実」を見ないようにしてるーそれが現代ではないかと。「人それぞれ色んな考え方があるんだから」は聞こえは良いですが、共通項を見出しづらい。最大公約数を算出できない。だからみんなバラバラになっていく…。
我々は少なくとも、狂った世界にいることを認知しなければ。ましてやこのご時世。世界をより良くしたいならば、我々はまず、現実を強く知らなければいけない。

…以上、阿呆の妄想でした笑

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マーケットに流れた そのニュースで
たくさんの母親たちが ため息をつく
知らせは 突然やってきた
僕らにはあと5年しか 残ってないんだって

ニュースキャスターは 涙ながら言う
地球はもう おしまいですと
ひどく泣きじゃくる 彼の顔を見て
それが嘘じゃないことを 僕は知ったんだ

電話のベルやオペラ、お気に入りのメロディを聴いてきた
子供たちやおもちゃ、アイロンにTVも見てきた
僕の頭はもうパンクして 余力もない
もっと何でもかんでも 体験しておきたかったのに

太った人 痩せた人
背の高い人 低い人
何者にもなれない人
何者かになってるような気でいる人
こんなに人に触れたいと思うなんて 思わなかったよ

僕と同じ歳の女の子は 頭がイカれてしまって
ちっちゃい子供たちを 殴ってる
あの黒人が止めなければ きっと
彼女は子供たちを 殺してしまったと思うんだ

手を骨折した兵士が
キャデラックのタイヤを じっと見つめてる
警官は跪いて 司祭の足にキスをした
オカマはその光景に 吐いてしまった

君をアイスクリーム屋で 見かけた気がしたんだけど
大きなミルクシェイクを 飲んでたよね
笑いながら手を振ってる君は 機嫌良さそう
まさか君が僕の歌に登場するなんて 思ってもいなかったろ?

冷たい雨が降り続いて 僕はまるで映画の主人公のよう
そしてママを思い出して 昔に帰りたいと思った
あなたの顔も 人種も
あなたの話し方も
大好きなんだ あなたは美しい
あなたとどこまでも 歩いていきたいのに

あと5年 眼前に突きつけられる
あと5年 なんてことだ
あと5年 僕ら頭おかしくなっちゃうよ
あと5年 それしかもう残されてない
あと5年だなんて…

(David Bowie “Five Years” 意訳)

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