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(音楽話)98: 杏里 “Goodbye Boogie Dance” (1983)

【敬意】
杏里 “Goodbye Boogie Dance” (1983)

「シティポップ・ブーム」というものを、その発祥の地・日本は今だに擦り続けています。「海外でブーム!」「日本が誇るべきサウンドが〜」とかいって。そのトレンドを焼き直して、現代のシンガーやミュージシャンがマネまでしている。

ハァ…海外での「シティポップ・ブーム」は、2,3年前にもう終わっているというのに。

確かに4,5年ほど前なら、松原みき”真夜中のドア〜Stay With Me”竹内まりや”Plastic Love”に代表されるような、タイムレスでローファイな音像がウケて、海外の音楽マニアがこぞってレコードを買い漁っていました。その背景は、皆がデジタル・サウンドに食傷気味になったから。

定期的にやってくるレトロブーム、いわゆる「レイドバック」な音像への回帰は、その時々の最新サウンドに人々が飽き始めると、起こるべくして起こるものです。数年前なら70-80年代、ここ最近はそこに90年代が追加。あと数年経てば、00年代も含まれることは必定です。

「シティポップ・ブーム」は、確かに起こりました。しかしその後は、日本の音楽に飽き足らず自国内のローファイなサウンドを漁って原点回帰し、それをサンプリングして現代音楽に塗して使っています。

ブームはとっくに去っています。確かにキッカケは作ったけど、今だにそれを、あたかも今キテるサウンドとしてずっと擦り続けるその姿勢が、日本の音楽業界全体の情け無さだと思わざるを得ません。

(80年代サウンドに拘った音作りをしている有名なサウンド・クリエイターにNight Tempo(夜韻)がいますが、彼もブーム自体は去っていることを明言していますし、彼はそのブームとは違う地平で80年代を突き詰めています)

日本は、文化を大事にしているようでいて、とても邪険に扱ってきた国だと思います。その証拠に、レガシーを大事にしていない。日本の音楽界全体で保護し、成長させようとする気概を感じない。なにより、敬意を感じないのです。

杏里は、そんな日本の音楽界が、もっと敬意を払うべきひとりです。

1961年神奈川県生まれ。2023年で62歳になる彼女。皆さんご存知だとは思うので詳しくは省きますが、今は米国LAに住んでいるようです。時々ライヴ・ツアーをやっていること以外、目立った音楽活動はあまり見られずちょっと寂しいですが、ライヴでは今もパワフルでダンサブルに美声を響かせ、観客を魅了している模様(行ってみたい!)。

“Goodbye Boogie Dance”は83年のアルバム「BI・KI・NI」の1曲目。アルバム全体は当時のディスコ・サウンド全開で、独特の横揺れ系サウンドが支配。実に心地良い名作。当時無名だった角松敏生がプロデュースに加わり(A面だけ)、その後の彼のヒットメーカーへの道を決定づけました。

ちなみに同年、あの名曲”CAT`S EYE”もリリースされています。「BI・KI・NI」のサウンドにポップネスを加え、よりフィジカルな楽曲に仕立て、それまでのアニメ主題歌とは明らかに一線を画す新しさがありました(アニメの初期エンディング”Dancing With The Sunshine”も超名曲)。

杏里 “Dancing With The Sunshine” (1983)

これらの楽曲発売当時、杏里・22歳…なんてセクシーで落ち着いた、アダルティな声なんでしょう!恐ろしい。
下手に感情的な色が入ることはなく、美しい歌声がサウンドの中央に置かれて鳴らされる様、それを包むディスコ・サウンドの巧みさ。カッティングとワウ系エフェクトをカマしたギター、間違いなく指弾きブリブリのベース、派手だけど五月蝿くないブラス、音がどこまでも伸びていくストリングス、フィジカルなコーラス…音の生々しさと相俟ってその場に漂っていたくなる心地良さ。

歌詞はあえて載せません、とにかく、この音に浸ってください。

私が言いたいのは、一過性のお祭りに踊らされることなく、レガシーだろうがレイテストだろうが、ちゃんと音楽を聴いてほしいなぁ、と。売れ筋とか流行りは確かにありますし、それが無いと伝播しづらいですが、そこのみに囚われてしまうと音楽は消費財でしかなくなります。しかし音楽とは文化。消費財ではありません。時代を確実に刻みながら永続的に存在し続ける、文化財だと思うのです。

頭でっかちですか?すみません、思想強めで。
ていうか、杏里をオススメする本当の理由は…顔が私の姉にそっくりだから、というのはここだけの話。

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