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(音楽話)10: Gene "As Good As It Gets" (1999)

【望みは 望まなければ 望めない】

Gene “As Good As It Gets” (1999)
https://www.youtube.com/watch?v=_zRoLH8LmIM

Geneと書いて「ジーン」。某LDHの「ジェネ」ではありませんのであしからず。

ブリット・ポップー90年代、英国を席巻したブリティッシュ・ロックたち。代表格はご存知の方も多いであろうOasisとBlur。前者は傍若無人に「俺たちは現代のBeatlesだ」と吹いた威勢のいい兄ちゃんたち、後者はインテリ然とした振舞いで「僕たち、通り一遍な曲はやらないよ」と嘯いた坊っちゃんたち。メディアが焚き付けた彼らの対決構図はエスカレートし、1995年8月14日にOasis “Roll With It” 対 Blur “Country House”というシングル同日発売対決にまで発展。結果はBlurの勝利でしたが、アルバムはOasisの方が世界的にバカ売れし、米国でも売れたモンスター・バンドに成り上がりました。

そんな音楽シーンでは、夥しいバンドが次々と登場し、そこそこ売れていきました。Pulp、Suede、Radiohead、The Verve、The Charlatans、Primal Scream、Supergrass、Elastica、Boo Radleys、Cast、Menswear、Shed Seven、Echobelly、Manic Street Preachers、Cornershop、Teenage Fan Club、Dogdy、Sleeper…などなど。

簡単に言えば空前のバンドブーム。つまり「ブリット・ポップ」自体は中身がほぼなくて、その中でいかに独自性や音楽性で尖ったり突き抜けたりできたかがポイントでした。例えばPulpは英国若者の「あるある」を歌い(”Common People”)、Radioheadは「どうせ俺はクズさ(”Creep”)」と鬱屈を吐き出し、道行く人の肩にガンガンぶつかりながら己の道をゆくThe Verve・Richard Ashcroftに爽快さを感じた(”Bitter Sweet Symphony”)。どれも、当時英国の若者たちにあった鬱々とした心理を表していました。

Geneはムーヴメントの最中1994年にデビュー。ヴォーカルの声が似てると「90年代のThe Smiths」と言われましたが、共通点は実のところあまりありません、Geneの方がよりパワフルなギター・ロックで、歌詞はThe Smithsのように耽美で捻くれたものではなく政治色(労働党派)が垣間見えて案外泥臭い。この曲は彼らの3枚目のアルバム「Revelations」(1999年)収録のシングルです。この頃にはムーヴメントは終わっていて、彼らのような音楽は「気難しい」「暗い」「バンド?ダサくない?」くらいに捉えられほぼ売れませんでした。でも、私は好きな曲でした。

「これ以上何を望むっていうんだ? これで十分じゃないか」「給料もらってるなら それは貧乏じゃないだろ?」「僕らは散々搾取されてきたけど まだ老いぼれちゃいない」という歌詞は、どれも反語的で至極青臭いですが、保守党政権下の英国への明らかな皮肉でした。「ブリット・ポップ」の多くは社会への嘆きや皮肉はほとんどなく、ただ自分の達観した姿勢を自慢するものも多かった、いわばマッチョ思想(”Laddism(若い男性像をひけらかす思想)”と揶揄されもした)。でもGeneはしっかり現状を捉えて批判することに重きを置いていました。弱々しく見えるかもしれないけど、それはとても骨太で現実を見ている目線でした。

定期的に思い出す曲って、皆さんありませんか?私はこの曲がそのひとつです。99年、私はまだ右も左も分からない若造で、自信もなく、不安で仕方なかった。けどプライドだけは高くて向こう見ず、スレッカラシ、高慢な態度。今考えるともう恥ずかしくて居た堪れないですが、そこで鳴っていたこの曲は、私の顔を引っ叩いて、勇気をくれたのです。

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