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(音楽話)17: Bonnie Raitt & John Prine “Angel From Montgomery” (2019)

【豊枯】

Bonnie Raitt & John Prine “Angel From Montgomery” (2019)

温かい黄昏ーーーこの映像を観た時の印象です。
日本では知名度イマイチですが、Bonnie Raitt、John Prine共に米国では大御所、レジェンドです。残念ながらJohnは今年4月に逝去。全米中のメディアが彼を特集し、その死を悼みました。

Bonnie Raittは1949年、米国カリフォルニア州生まれ。71年にデビュー、ブルースとR&Bをベースとしたミュージシャンとして活動し、特に80年代末〜90年代に大スターに。グラミーを通算10回も受賞してきた生きた伝説。少しハスキーで気怠い歌声も魅力的ですが、スライド・ギターがえげつなく巧い人でもあります。もう、佇まいだけで絵になる人。大姐御。
John Prineは46年、米国ケンタッキー州生まれ。71年にデビューも中々売れませんでした。しかし91年にアルバム「The Missing Years」が高評価を受けグラミー受賞、一気に有名になります。彼も気怠い声で歌いますが、いわゆるカントリー・フォークの草分け的存在として位置付けられ、多くのミュージシャンが影響を受けたとして彼の名を挙げています。ちなみに90年代の彼、Charles Bronsonのようなルックスが恐ろしくカッコいいので、よろしければ探してみてください。

彼ら2人の共通点ー気怠い歌声、非常にアメリカン・ネイティヴな音楽性、売れるまで時間が掛かった、ミュージシャンからの評価が高いーなど。共に苦労したという意味でも、二人は仲が良かったようです。
”Angel From Montgomery”は71年のJohnの曲。非常に多くのカヴァーを生み出していて、いわば米国での「定番カヴァー曲」のひとつ。Bonnieは74年にカヴァーし、この曲が広く知れ渡るきっかけになりました。そもそも女性目線の歌として面白半分に彼はこの曲を書いたらしいですが、想像以上に聴く者にそっと深く入り込む歌として響き、永きにわたって愛されています。

映像の2人の歌唱には、何も気を衒ってない素朴さが漂います。至ってシンプル。老いた女性が人生を振り返り、夢見た華やかな世界への憧れと、それが叶わなかった現実を愚痴る。でも本当は現実を振り払いたい(諦めきれない)ーーーまるで日本の演歌の世界に通じるやさぐれ感。まさにフォークでカントリーでブルースです。

そんな曲を2019年、70過ぎたBonnieと晩年のJohnが歌った今回の映像。歌世界と現実が混ざり合って、聴くだけでちょっと泣いてしまいそうになります。でも単に老いを悲しんだり昔を懐かしんだりするのではなく、そうした思い出に浸るだけの豊潤な人生を歩んできた者たちだからこそ作り出せる、黄昏てるけど温かい世界。まさに「豊かに枯れた」2人。アコギだけが刻む音色の向こう側で種々雑多な、彼らの人生を彩ってきた音まで鳴っているような…。

通り一辺倒ではない、こんな静かである意味激しい曲もまた、実に味わい深いし皆に知ってほしいものです。

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私は老いた女 名前は母のものそのまま
連れもまた年老いた かつての子供
夢が雷で 稲妻が欲だとしたら
この古ぼけた家は燃え尽きてたわ とっくの昔に

私を天使にしてちょうだい モンゴメリーから飛んできたような
私をポスターにしてちょうだい 昔のロデオのね
ひとつだけ私にちょうだいよ ずっと持っていられるものを
こうしてしっかり生きることって ほんとしんどいものなのよ

若い時は カウボーイと付き合ってたわ
彼はイケメンじゃなかったけど 自由を満喫してた
でもそれって昔のことで どんなに頑張っても
年月は決壊したダムのように 流れていくものよ

私を天使にしてちょうだい モンゴメリーから飛んできたような
私をポスターにしてちょうだい 昔のロデオのね
ひとつだけ私にちょうだいよ ずっと持っていられるものを
こうしてしっかり生きるって ほんとしんどいものなのよ

キッチンの蠅が 飛び交ってるのが聞こえる
起きてからまだ 今日は何もしてないけど
朝仕事に出掛けて 夕方に帰ってきて
何も言うことないって そんなのありえないわ

私を天使にしてちょうだい モンゴメリーから飛んできたような
私をポスターにしてちょうだい 昔のロデオのね
ひとつだけ私にちょうだいよ ずっと持っていられるものを
こうしてしっかり生きるって ほんとしんどいものなのよ

こうしてしっかり生きるって ほんとしんどいもの

(John Prine “Angel From Montgomery” 意訳)

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