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(音楽話)05: Sting and Rufus Wainwright “Wrapped Around Your Finger” (2011)

【騙すも騙されるも】
Sting and Rufus Wainwright “Wrapped Around Your Finger” (2011)

日本でもファンの多いSting。何度も来日公演を演ってますし、The Police時代の”Every Breath You Take/見つめていたい”はじめ数々のヒット曲はもちろん、ソロでの”Englishman In New York””Fields Of Gold”など、聴き馴染みも多いと思います。

この映像は、彼の60歳を記念した米国ニューヨークでのライヴから(2011年で60歳、ということは…彼もうそんな歳なんですねぇ)。彼自身も歌いましたが、ゲストが入れ替わり立ち替わり彼の代表曲を歌っていく。主役はStingですからもちろん彼の功績を称えるものではありますが、しっかりチャリティ・コンサートにもなっています。
ゲストに迎えられたのは、Bruce Springsteen、Billy Joel、Stevie Wonder、Herbie Hancock、Mary J. Blige、Lady GAGA、will.i.am等々、実に豪華。まだ若手だったLady GAGAは懸命に“King Of Pain”をピアノを弾きながら歌い、Bruceは自分のスタイルで”Can’t Stand Losing You”を熱い焦燥感に変えてみせ、”Fragile”をStevieが歌ってハーモニカまで奏でるという奇跡。さらにStevieの”Brand New Day”で見せたハーモニカ・プレイは、本当にカッコいい。その場にいたらきっと泣いただろうな私…。

そんなStevieを差し置いて一際目立って素晴らしかったのは、Rufus Wainwrightだと私は思います。

Rufusは米国ニューヨーク州生まれ。98年にデビューし、コンスタントにアルバム・リリースを続けています。気怠いヴォーカル、クラシック(特にオペラ)の影響の濃い楽曲、派手ではない静かなサウンドなど、正直一般ウケしづらいミュージシャンかも。時にオペラ・アルバムもリリースするくらいなので、クラシック寄りな人なのは確かです。私は2ndアルバム「Poses」(2001)で彼を知り、そのヴォーカルの魅力に取り憑かれました。確かに気怠いけど、とても優しい眼差しと愛を感じる…慈愛、という言葉がピッタリな歌声だと思うのですが。

そんな彼が歌った”Wrapped Around Your Finger”。The Policeの後期代表曲のひとつです。Rufusはオリジナルにかなり忠実に歌っていますが、彼の声の特徴である気怠さはそのまま残ってその場の空間を漂っていきます。そのバックはStingのお気に入り、手練れのミュージシャンたち(テンポの合致さ、緻密さ、緊張感、ちょっと異次元なレベル)。Sting自身もベースで参加し少しだけバックヴォーカルも入りますが、基本的に演奏に徹しています。こういうミディアム・テンポな歌にRufusの声は良く合う。伸びやかに、丁寧に、感情を少しネットリ込めて歌う。

「君はメフィストフェレスじゃないけど 考えてる事はそれ以上の悪魔さ」
「僕は結局 君の指に絡め取られてしまうんだろう 」
(I’ll be wrapped around your finger)

でも最後になると…

「自分の下僕が実は主だとわかったら 君の顔はアラバスターのように血の気が引くんだろうね」
「今度は僕が 君を絡め取る番だ 」
(You’ll be wrapped around my finger)

と立場が逆転するこの歌。気怠い声で歌われる、騙し騙されの世界…おぉ怖っ。Rufusの歌声ひとつで、原曲、つまりStingが歌ったものよりも遥かに憎悪感というかドロドロ感が深まるように感じるのは気のせい?歌い終わった後にStingが「What a voice!」とRufusを称えていますが、これは社交辞令ではなく本音だと思います。この楽曲にピッタリの声だと。私もそう思います。

騙し、騙され。所詮日常そんなもの。それを分かってるか・分かってないかで、人生随分違うのかもしれませんね。

君は僕を 無知なガキだと思ってる
全門の虎、後門の狼 みたいな状況に陥ってるって
ぐずぐずしてたら 君に惑わされてしまいそう
君の指にあるその指輪を 僕はじっと見つめる

僕は知識を探し求めて ここに来ただけさ
大学じゃ教えてくれないことをね
僕は君が売り払った 運命を見ている
それは金色の輝くリングに 形を変えてしまったね

僕は君の指に絡め取られてしまうんだろう
僕は君の意のままに操られてしまうんだ
僕は結局 君の下僕に堕ちたのさ

メフィストフェレス*は 君の名前じゃないけど
君がしでかすことは ほぼそれかそれ以上の悪魔さ
そんな君の授業に 懸命に耳を傾けてみることにするよ
そうすれば君は 甘い果実を手にすることができるって寸法さ

僕は君の指に絡め取られてしまうんだろう
僕は君の意のままに操られてしまうんだ
僕は結局 君の下僕に堕ちたのさ

「絶体絶命*」ってやつは とっくに過ぎ去ったよ
蒸発しちゃったから もう君は僕を見つけられない
君の顔をアラバスター*のように 真っ白にさせてやる
君はようやく気づくのさ 自分の下僕が実は主だってことに

君は僕の指に絡め取られてしまうんだろう
君は僕の意のままに操られてしまうんだ
今度は君が 僕の下僕に堕ちたのさ

*”メフィストフェレス”(Mephistopheles)…ゲーテ「ファウスト」で有名な悪魔
*”絶体絶命”(Devil and the deep blue sea)…1931年に発表されたイギリス古歌のタイトル
*”アラバスター”(alabaster)…白色の鉱物。通称「雪花石膏」

(Sting and Rufus Wainwright “Wrapped Around Your Finger” 意訳)

(紹介する全ての音楽の著作権等は制作者にあります。本note掲載についてはあくまで個人の楽しむ範囲のものであって、それらの権利を侵害することを意図していません)

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