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❝フォーカルジストニア❞を理解しよう

この記事は拙著『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』の補足、深堀りです。

フォーカルジストニアという言葉

フォーカル focal は、局所や焦点という意味で、広い範囲でなく限局したところに表れるという意味です。

ジストニア
のジス dis は、良くないという意味の接頭語で、主に動きが悪いことを表します。
キネシアkinesia は、動きという意味で、運動障害を意味します。
似た疾病として、舞踏病、ジスキネジア、筋ジストロフィー などがあります。胆道ジスキネジーのように腸管の運動障害もあります。

ジストニアの定義

日本脳神経学会のサイトから、ジストニアの定義
”自分の意思とは関係なく、筋肉が収縮したり、硬くなったりする病気です。
収縮する筋肉は患者さんごとに限られ、同じような動きや姿勢になります。何か動作をしようとした時に筋肉が収縮しすぎたり、働くべきでない筋肉が過剰に収縮したりするためにスムーズな動作ができないという症状が代表的です。
ジストニアの発症のメカニズムは、はっきりわかっていません。
遺伝性のもの、脳炎などの後遺症、職業性のもの、原因不明のものと多彩です”

https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/502.html#top

遺伝性のもの、脳炎などの後遺症、原因不明のものは、不随意運動、意図しないときに症状が表れて、姿勢や肢位が変化したり体の一部が動いてしまいます。

職業性のもの

職業性ジストニアの場合、専門の動作をするときに症状が出ます。多くは、日常や他の動作において運動や機能に異常はないことが多いですが、進行したり似た動作をしたりすると、症状が出るケースもあります。

特に右手に発症した場合、左手に発症するよりも、日常での動作でもジストニアの症状が出ることが多いです。利き手のため、反対側よりも動かす機会が多いせいと考えられています。

音楽家に発症するもの

楽器演奏や歌唱において、できていた動作ができなくなります。筋の過収縮、動かせない、振戦(ふるえ)、感覚異常、発声障害など。
音楽家に発症するジストニアの症状は、さまざまです。

  • 指の屈筋が過収縮して指が巻き込む、伸筋が過収縮して指が伸びる

  • 手や脚を思うように動かせない

  • 口の片側、または両側、舌をうまく動かせない

  • 口唇が震える、口や舌の感覚がおかしい

  • 声が出ない、声で音程がとれない

など、以前はできていた演奏での動きのコントロールが難しくなります。

スポーツで発症するもの

スポーツでの運動障害を”イップス”と呼んでいます。
イップスは診断名、医学用語ではなく俗称で、次回に詳しく取り上げます。

他の職業

書痙、画家、美容師・理容師、外科医、歯科医、大工など、道具を使う職種に見られます。

これら職業性のジストニアは、動作特異性ジストニアとも呼ばれ、意図して動かそうとする随意運動で症状が出ます。手を使おう、足を動かそうとするときに症状が出ます。
職業性でない全身や躯幹のジストニアの場合は、何もしないとき、動かそうとしなくても症状が出ます。

音楽家のフォーカルジストニアの診断

ジストニアの診断は、臨床的に見た目で判断されます。
他の疾患、例えば腱鞘炎の場合は、指に痛みがある、痛いということは炎症があるということで、腱鞘炎と診断されます。あるいは、指を動かすときにカクンとなればバネ指の腱鞘炎と診断されます。指を動かす筋肉の端、腱と、腱が通る腱鞘(さや)が擦れて炎症を起こすのが腱鞘炎です。痛くなるか、腱がさやを通りにくくなってカクっとなります。
 演奏のための手の解剖&筋肉学【腱鞘炎対策】
note「音楽家のジストニアの診断は難しい」参照

パーキンソン病について

パーキンソン病という病気にも、触れておきましょう。
振戦(ふるえ)、筋固縮、姿勢保持障害(転びやすい)などの運動症状が表れる病気で、前傾姿勢で動きがゆっくりになります。
原因として、ドパミンという神経伝達物質が作られず、不足することによって運動障害が出ます。

50歳以上で起こりますが、40歳以下で起こるものを若年性パーキンソン病と呼んでいます。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマイケル・J・フォックスが、パーキンソン病を発症したのは30歳の時です。

『超絶わかりやすい!!脳の働き 大脳基底核 パーキンソン病 チック症 ジストニア』17:40~18:06 大脳基底核の働きのことろだけでも。

大脳基底核における障害

大脳基底核は、主に随意運動を調節しています。運動、行動しすぎないよう抑える働きをしています。この働きがうまくいかないと、運動のコントロールがうまくできず、動きすぎたり動けなくなったりします。
「大脳基底核について」

基底核障害は、ジストニア、パーキンソン病、舞踏病など運動障害の疾患があります。パーキンソン病の主な症状は、振戦(ふるえ)、筋固縮、姿勢保持障害などです。

病理的には、大脳皮質からグルタミン酸(作動性の伝達物質)による視床下核〜淡蒼球内節(抑制)へ、動きすぎないよう調節しています。
黒質から出されるドパミンにより、線条体〜淡蒼球内節へドパミンが減る
 結果、動きが鈍くなる。
淡蒼球外節からGABA(抑制性の伝達物質)により視床下核、線条体へ
 結果として、動きすぎる。

新堂浩子HP; https://www.music-body.com/

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