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#9宮本笑里『classique deux』

鈴木さんへ
 数年前にイマジン・ドラゴンズのライヴを毎日新聞のFさんと東京体育館で観ましたよね。その時、ダン・レイノルズのことを「かわいい」と言った
私に、鈴木さんは少し戸惑っているようでした。真面目にパフォーマンスする姿に深く考えることなく、そう口にしたのですが、今振り返ると、不器用さを感じていたのかもしれないです。
 躁と鬱、ケンドリック・ラマーもそうだけれど、それを隠さず素直に表現する人、増えていますよね。エンターテイメントの光と影なのかな。創作の苦しみとステージで浴びる歓声、あまりに対照的です。そんなことを思いながら聴いていると、歌が胸に染みます。確かに驚くけれど、ダンの絶唱にも共感できます。ここに居場所のようなものを感じる人もいるんだろうなぁ。
 それにしてもイマジン・ドラゴンズは、1曲の展開が緻密ですよね。メロディも歌詞もいいけれど、曲のストーリーを膨らませるアレンジ。コーラスとか、手拍子風のビートとか、そういうところにふと心奪われます。
 バンドを愛する人からの情報があると、こんなにも深くアルバムのなかに潜っていけるとは……。その快感を楽しんでいます。

宮本笑里『classique deux』

 デビュー10周年に続いて、15周年もアニバーサリー作品は、全編クラシックのアルバムになった。この間の活動のなかで、宮本笑里は、ポップ・シンガーとの共演も多く、ポピュラー・ミュージックとクラシックの境界線が見えない活動をしてきた。いわゆる「クロスオーヴァー」と言われるものは、一見簡単そうに思えるが、実はマインド的にも演奏的にも切り替える必要があるので、難しく、そのスイッチを持っている人は、多くない。
 フランス語で「2」を意味する『deux』をタイトルにしたアルバムは、いわゆるヴァイオリンの小品集。冒頭は、ドビュッシーの『亜麻色の髪の乙女』、ホルストの『木星』といったクラシック・ファンじゃなくても知っているような曲が続くので、誰が聴いても疎外感というものを抱くことはないだろう。

   そのなかで、たとえば、『木星』はヴァイオリン、ホルン、ピアノの3人だけなのに、まるでオーケストラのような響きに驚く。「響きと音色」がこの作品を聴く歓びだ。華麗に奏でるドラマティックなファリャの『スペイン舞曲第1番』では音色に毎回心をギュッとつかまれて、日常から別世界へと誘ってくれる。そんな美しい音色の背景にあるのはストイックなまでの徹底した練習にあるのは言うまでもないけれど、その曲の物語が伝わってくるのと同時に、やはり演奏に優しく、謙虚で、柔軟でもある人柄がにじみ出ることで、魅惑的な音色になるのだと思う。いくらテクニック的に優れていても、何も伝わらない演奏だってある。
 ひとつひとつの音に作曲者の思いを重ねるように丁寧に奏でていく宮本笑里のヴァイオリン。クラシックに対して門外漢という気持ちがある人にこそ、長年聴き続けられてきたクラシックの「名曲」たる理由、魅力をこの『classique deux』で知ってもらいたい。
                             服部のり子


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