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#48 ジャネール・モネイ『ジ・エイジ・オブ・プレジャー』

鈴木さんへ

 そうでしたね、フー・ファイターズも突然ドラマーを失ったんですよね。ニュースでかなり報じられていたことを思い出しました。加えてデイヴのお母さんも亡くなっていたんですね。その喪失感は、想像を超えるものとは思うけれど、ミュージシャンには音楽で表現する手段がある。表現することで前に進むことが出来る。でも、演奏するたびにその喪失感と向き合うことになるんじゃないか。そんなことを一時インタビューで聞いたことがありました。「失恋の痛手が蘇るんじゃない?」なんて。
 でも、そういう前提でこのアルバムを聴くと、全く違って胸に響きます。何度も繰り返される「Here We Are~」が慟哭の叫びのようで……。いまの私にも沁みます。

ジャネール・モネイ『ジ・エイジ・オブ・プレジャー』


 映画『ドリーム』が好きで、映画館でも配信でも何度も観たけれど、主役のひとりメアリーを演じる俳優と、シンガーのジャネール・モネイが全く一致していなかった。構成を担当しているラジオ番組でこの新作を紹介するにあたり、ようやくひとつになったわけだけれど、知るほどにジャネール・モネイという人にいま興味を惹かれている。新作もこれまでの作品と同様に明確なコンセプトがあり、タイトルの「快楽の時代」とはパンデミックによって抑圧された時間からの解放を意味しているという。


 彼女自身がパンセクシュアルと告白していることから、歌詞にも性別からの解放といったことが反映されていて、彼女を知る入口にはなるけれど、性別について差別は感じても、違和感がない人間には深く理解することはちょっと難しい。でも、語るようなラップは耳に心地よく、理解を超えて音楽を楽しめる。そこが好きだし、多分意図的に1曲1曲が3分以内と短く、サクサク進んでいくテンポ感もいいけれど、ほとんどの曲がカットアウトで唐突に終わる。これは何? ここにはどんな意味が込められているのだろうか、とついつい気になってしまう。そう、言ってしまえば、ジャネール・モネイは気になる人、かわいらしくてスター性だってあるのにスターとは異なるベクトルで生きている。インタビューしたいなと思ってしまう人であり、作品でもある。


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